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短編:【ストレス大国の行末】

いい歳をした男性が、上司だろうか、低い声の女性からの電話をスピーカーにして会話をしていた。スマホ全盛のいま、スピーカーを使うのはよく見かける光景となったが、場所や周囲の環境を配慮すべきである。そこは地下鉄に向かう下り階段。のんびり歩きながら喋っている。女性の声のトーンが明らかに、仕事の失敗に対してアドバイスをするような、こうしたら良い、ああすれば良かった、と言う内容を語っている。
いや、そんな内容をスピーカーで?と思いつつ、男性は「ああ」「はい」しか喋らない。昔ならば少なくとも一旦どこか隅に行って、頭をペコペコ下げながら通話する内容のように感じる。
スピーカー会話で周囲の見ず知らずの通行人に聞かれているとは、たぶんこの電話の女性も気づいていないのだろう、非常に感情的な発言が多く聞かれた。

その男性の配慮が足りない。…というよりも、悪気がない。この行為、この行動がよろしく無いという感覚がすでに欠如しているようである。これは世代なのか?育ちなのか?それともわかっていて、あえてみんなに聞かせて心で嘲笑っているのだろうか…

本当によく見かけるが、歩きつつ又は自転車を漕ぎながら、あたり前のように大きな独り言…もちろん電話なのだろうが…で怒ったり笑ったりしている。はたから見ると本当に異様な怖さがある。

そう。この行為は怖いな…と感じる事件が最近は頻発している。家族ぐるみで男性を殺害、その首を持ち帰り風呂場の浴槽に保管していた事件。同様に、使われていないビルの上層階に、元交際相手の女性を殺害し隠していた事件。そして所属事務所のタレントに手をかける事件…

そのすべてが本当の所は、私にはわからない。そして、それを深くまで知りたいとも思わない。単なる好奇心だけでおもしろ可笑しく書くことは反対なのだが、思いも寄らない真実や、その関係者達の闇の部分があることは明白だろう。

そこにあるのは「愛」か「憎悪」か「運命の悪戯」か。その結末に向かうつもりでは無かったのかも知れないし、それ以上のことを考えていたのに、たまたまそこまでで見つかってしまったのかも知れない。
そこに至るまでにはどんなドラマがあったのか、単なる思いつきで行き当たりばったりだったのかも知れない。

ストレス大国日本。さきほどの男性は、相手の女性に対し憎む心があったかも知れない。その抱えきれない感情の矛先を、街ですれ違う人々に聞かせるという暴挙で発散していたのかも知れない。

先日帰宅途中で、たまたまメール連絡が入り、スマホをいじった。するとすぐ横に並行して歩いていた、知らない中年男性に舌打ちをされた。明らかに、歩きスマホに文句を言いたかったのだろう。その舌打ちのタイミングで彼を見たら思い切り目が合って、すぐに顔を反対に向けた。私は人間が行う行為の中で一番許せないのが舌打ちである。

文句があるなら人間だったら言葉で言え、というか、なんて卑怯な一瞬。この「チッ」という音が鳴ると、そこから以降は嫌な気分しか残らない。そんな思いもあって、そのメールを確かめるようにあえて少しだけ立ち止まり、その中年男性の真後ろに回り込み歩いた。するとどうだろう、男性は明らかに狼狽し、ソワソワと後ろを気にし始める。私はスマホを見ながらその気配だけを感じている。もしその男性が本当に腹を立てて文句が言いたかったのなら、立ち止まり振り返り激高されたかも知れない。ちょっと先のスーパーで彼は急いで店内に入って行った。

ああ、大人げない。舌打ちも大人げないが、それにカッとなって相手の嫌がることをした自分も大人げない。今朝も優先席に座りたかったのだろう、良い年の男性がずっと舌打ちをしていた。座っていたのは3人の女性。皆一様に目を閉じていた。ブツブツ言いながら舌打ちをする。実に異様な光景。

ストレス大国の行く末。今年の暑さも十分ストレスの要因となったことだろう。なのに突然の豪雨に対しても、やり場のない苛立ちがついて回る。イライラしないで何とか出来れば良いのだが。そこまで広い心が無いからこうして愚痴を書いてしまうのだろう。

     「つづく」 作:スエナガ

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