見出し画像

短編:【カベに耳アリ 障子にミザリー】#01(存在感)

御存知ミザリーさんが、見たこと聞いたこと、ありもしない妄想や暴露を好き勝手に拡散するという、至極迷惑で誠に遺憾な諺では御座いますが。

誰が何処で見ているかわからないと言うお話。

コロナ禍が下火になり海外からの観光客が頼りの綱とばかりに相変わらず意味のない特集でさらにマスメディア離れが進み、現役総理を狙った爆弾事件も選挙が終わると共に幕引きに。唯一日本国中を熱狂させたスポーツも、海外組が戻った途端に一過性の熱病のごとく大人しくなってしまった。

困った報道番組が目をつけたのが「親族の住む住居の隣にいると噂の女性を狙った盗撮迷惑行為事件」。
何度聞いても合点がいかないのが「親族が住む」と言う言葉。いやたぶんそうなのだろう。親兄弟でも叔父でも叔母でも姪でも甥でも、それはすべて親族と言われてしまえば嘘では無いし、どんな状況でこのような事件が起きたのか、不勉強な私には皆目見当がつかない。

仮にその「親族」が親兄弟でその場所が実家だったとしたならば。その加害者は勝手に合鍵を作り侵入したらしい。少なくとも実家を巣立ち数十年の私も実家の鍵は持っていないし、必要も無いのかも知れない。と考えれば、その場所は実家の隣ではなく、「親族」というのもそれほど近い家族では無かったと思われる。
ではその「親族」が叔母だとしたら。「ウチの隣に住んでいる女性が気立てが良くてね…」例えば正月や冠婚葬祭で集まった親族にそんな話をしたとしよう…何故か?その後には「貴方に合うと思うの…紹介したいわ…」のような、紹介が目的でなければそんな話をするだろうか?紹介したくなる程の素敵な男性、ましてや既婚者子供アリという環境で、そんな紹介話をしたのだろうか。またはその「親族」はとても話好きで、たまたまつい話をしたとするなら、そんな一言でストーカーまがいな覗き盗撮等したのだろうか…もしそれが「男性親族」で「隣にとてもべっぴんさんが住んでいてね!」などと興味本位の話をしていたとするならば、何故そんな話をする必要があったのか、などなど摩訶不思議な状況ではなかろうか…

「親族」に自分の隣に住む人の話をする、というシチュエーションが理解できないのだが、それほど誰かに伝えたかった程「魅力的な方」がいるという事実。そして妻子持ちの男性が、バイタリティ全力で罪を犯させるだけの存在だったということだけが際立つ事件ということとなる。この報道を聞けば聞く程、その被害を受けた女性はどんな方だったのか、それこそひと目見てみたくなってしまうのではないだろうか。つまりはこの一連の報道に関して、まあ凡人の私にはまったく全貌が見えず、非常にモヤモヤした気分の悪いニュースであった。これもたぶん、全部解明するまで続報があるとは到底思えないので、忘れ去られてしまうような右から左に受け流すべき案件なのだろう。

誰が何処で見ているかわからないと言う話なのだが。

街を歩いていたらば、隣駅から少し離れた公園に、派手なオレンジ色のスクーターが放置されていた。その場所が「ポイ捨て禁止」と書かれた看板の真下と言うことも面白いと思い、ネタのため写真を撮っておいた。捨てられたのか違法駐車なのかは不明だった。その場所を何度か覗くとしばらく停められていたので、乗り捨てられたものと考えていた。

ところが。

ひと月程経った頃。近所の集合住宅の駐車場に、そのオレンジのスクーターが停まっていた。シート下部分に同様のシールが無造作に貼られていたことで、あのスクーターだとすぐにわかった。そうか、あれは違法駐車だったのか。少なくとも「ポイ捨て禁止」的な放置では無かったので安堵したものの、まさに誰が何処で見ているかわからないと言うお話。

そのオレンジ色のスクーターを見た時に、この持ち主もきっと購入した時はその可愛らしいデザインと、どこか惑星間戦争で出てくる小さいロボットにも似た色使いが気に入って愛車としていたのだろうな、と共感を持てた。しかしながら「ポイ捨て禁止」の看板下に違法駐車し、誰も見ていないなら良いかと軽い気持ちでやっていたとするならば頂けない。案外人に見られているということである。

まあ覗きも盗撮も犯罪だが、逆に気楽な違反も実は見られている。さらにそんなことを綴るこのお話を見て頂けている皆さんも目撃者。こんな投稿をしている私も名誉毀損、越権行為、肖像権の侵害なのかも知れないが、それは私ですと名乗りを上げることは誰に取っても得策ではないことが面白い。

カベに耳アリ障子にミザリー。またお会いしましょう!

     「つづく」 作:スエナガ

#ショートショート #物語 #短編小説 #言葉 #写真 #フィクション  #創作大賞2023 #オールカテゴリ部門

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?