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短編:【スエトモの物語】

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短編小説の物語はこちらです。 ◉毎週1本以上、継続はチカラなりを実践中!これらの断片がいずれ大蛇のように長編物語へとつながるように、備忘録として書き続けております。勝手に動き回…
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2024年1月の記事一覧

短編:【いまさら聞けない】

「ね、電話番号…聞いてもいいかな?」 心の中で何度も何度も、何度も練習をしている。 恋の相談は誰にもできない。周りは全員敵だと思わなくてはいけない。気軽に相談をしたならば皆に笑われ、面白おかしく噂を流され、あっという間に潰されてしまう。 いまどきは案外盲点で、ちゃんと名前を知らないことがある。 彼女は『リっちゃん』。 たぶん『リツコさん』。もしかしたら『りょうちゃん』。はたまた『りかちゃん・りえちゃん』かも…。『り』から始まる『リっちゃん』に、いまさら『本名なんて言うの?

短編:【背後に立つ】

最初にその存在に気がついたのは、駅の公衆トイレで小便をしていた時。目の前でピカピカと輝くタイル越しに、何か違和感を覚えた時だった。明らかに僕の右後ろのかなり接近した場所に、その人影が見えた。 「えっ…」 いくら混雑した公衆トイレだとしても、通常順番を待つ場合は、入口付近で並んでいるのが暗黙のルールだろうと思った僕は、キッと眉間にチカラを込めて振り返った。 が、そこには誰もいなかった。 「気のせい?」 エスカレーターに乗って降りていても、誰かがすぐそばにいる感覚。 ホーム

短編:【風邪薬狂騒曲】

新年早々に風邪をひいた… もしかしたら、時差で訪れたウイルスかも知れないし、季節性のアレかも知れない。またはその両方が複合したという噂も…。 さらに私を追い詰めたのが、風邪薬問題である。昨年末から風邪薬、特に咳の薬が売り切れているという情報があった。症状として鼻水と咳が止まらない現状を見ても、巷で流行りの病気にかかっていることは間違えない。 とはいえ新年度が始まり、病院に行く間もなく出社した。 年々、年末と年始の感覚が麻痺して来て、1月の4日には仕事初めなのは慣れてい

短編:【実家からの電話】

『お父さんが肺炎をこじらせてね…』 姉からケータイに電話が来た。一度目は電話を取れなかった。コールバックでもタイミングが合わず、その折返しでつながった。 6年前。母が亡くなった時は、ちょうど土曜日だった。前日から体調変化の連絡をもらっていたので、すぐに動けるように準備をしていたが、早朝4時に電話が鳴って、当時はまだ自家用車を持っていたので、電車ではなく車を飛ばして実家近くにある病院へと辿り着いた。そこに入院していた母は、もう意識は無く、ただ必死に呼吸をしている姿だった。そ

短編:【今年最後の青空】

あまりに当たり前過ぎて忘れていたが、人は毎年歳をとる。 1秒毎に時間が経過して、1時間毎にしまったボーッとしていたと悔やみ、あっという間に1年が過ぎていた。 今年の漢字1文字を書く寺のニュースに対し、「もうこの話題辞めません!?」とテレビのコメンテーターが毒づく。それでもトピックスに上げる番組は、必ず出演者に漢字1文字というお題を出す。ああ確かに、この話題だけでも5分〜10分、時間を潰せるな… 連続テレビドラマを見ていて、またはアニメ番組でも良いのだが、番組冒頭2分程度、

短編:【公園にいたデブ猫】

その広場にはでっぷり太った野良猫が住んでいた。きっと心優しい観光客の食べ歩きをおすそ分けしてもらっているのだろう。人懐っこいところがあって近くに座ると、その大きなカラダで私の膝やお尻に頭からぶつかり全身を使ってこすりつけて来た。単に自分のカユイ気分を解消しているだけなのかも知れない。 たまたまその公園がテレビ番組で紹介されて、そこに住む猫の姿としてほんの数秒画面に映し出された。不思議なもので、それからしばらくして、その野良猫は姿を現さなくなった。 そんなある日、そこから二