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吹雪の前のできごと

この文章を書いている前日の夕方から今日のお昼までニューヨークは雪の吹雪に覆われました。
外は一気に雪景色に変わり、(やっとニューヨークが冬らしくなってくれたなぁ..。)と積もった雪で足場が悪い道を歩きながら、今日も有り余るエネルギーを持て余す2歳の息子を朝と午後、お散歩に連れて行くのです。
いつものお散歩コースは公園に行くのですが、公園に行くまでの歩道の雪かきが追いついておらず、仕方なくうちの周りの数ブロックを積もった雪をサクサク踏みながら手をつないで歩きました。

(おじさん達は大丈夫かなぁ…?)

このおじさん達というのは、毎朝息子と犬を連れて散歩に行く公園の前のベンチにたむろしているホームレスのおじさん達の事です。
ここにいるおじさん達とはほぼ毎日頻繁に挨拶や会話を交わす仲になっていて、何より人見知りの息子がこのおじさん達のことが大好きなのです。
以前、この公園のおじさん達のグループの中の1人のおじさんとのエピソードをこのnoteでも書いたほど、ここに集うおじさん達は私と息子の日常に
普通に関わる人達となっています。


吹雪の前日の朝も毎日と同じように公園の外にあるベンチに息子が登ってしゃいでいました。
その公園内では死闘の戦いを毎日繰り広げているヨーロッパ系移民のおじいちゃん達がたくさんいます。
このおじいちゃん達のゲートボールはガチの真剣勝負で喧嘩のような大声が毎日響き渡るくらいです。
そのゲートボール場の真横には幼児専用のプレイグラウンドがあるにもかかわらず、幼い子供達に笑顔を見せるおじいちゃんは1人もいません。笑
子供を遊ばせている保護者達もそれを当たり前のように知ってるし、喧嘩の声が響き渡っても(またかぁ..。)くらいにしか思ってなくて誰1人心配もせず、淡々と子供を遊ばせています。

私が心底驚いたのは、今年のコロナのロックダウンで公園が全て閉鎖になる直前までそのおじいちゃん達はマスクも付けず毎日ゲートボールをしていた事です。
(エエッーー…!? おじいちゃん達、コロナの感染怖くないのかな?感染よりも、ゲートボールの試合がそこまで大事なんだろうかぁ..?)
ロックダウンが徐々に解除して行った後に公園がやっと開いた頃、子供のプライグラウンドにはほんの少ししか子供はいませんでした。
きっとたくさんの保護者達は感染をまだ警戒していたんだと思います。
にもかかわらず、その横のゲートボール場はビッチリとおじいちゃん達で埋め尽くされ、彼等の怒鳴り声が響き渡っていました。

そのゲートボールメンバーのおじいちゃん達の1人がベンチに登っている息子の横にいたホームレスのおじちゃん達に巨大なビニール袋を持って差し入れに来たのです。
何を言ってたかは聞こえませんでしたが、その袋をホームレスのおじちゃんの1人に手渡した後、受け取ったおじちゃんの肩をポンポンと叩いてゲートボール場に戻って行きました。

私はその情景を見ながら、とても微笑ましく思い、ベンチの上の息子を抱っこしながら寒いけど綺麗な青空を眺めていました。
その瞬間、差し入れを受け取ったおじちゃんが私の肩をポンポンと叩き、受け取ったビニール袋を私に差し出してきたのです。
そのおじちゃんは南米系の人で、英語があまり得意ではなさそうでした。
だけれども、笑顔で私にこれを持って行けとジェスチャーをして差し出してきたのです。
私は『No..! No! これはあなたがもらったんだから!』とすぐに言いましたが、おじちゃんは息子を指差して、これ持ってけというのです。
袋の中にはたくさんの種類のクッキーやクラッカーを綺麗に小分けにしたジップロックの袋がたくさん入っていました。
その大きな袋ごと持ってけというけど、『私は本当にいらないから!あなた達が貰って!』と言いましたが、その袋を私の手に握らせてきたのです。
そして、おじちゃんのいろんな荷物が入ったカートの中からごそごそと密封された袋に入った新品の布マスクを取り出し、『これも入れとくからね。』と言い、その袋の中にポイっと放り込んだのです。
その場には3人のホームレスのおじちゃんがいましたが、みんな笑顔で『持ってけ!持ってけ!』と言ってくれました。

本当に申し訳ない気持ちでいっぱいでしたが、そこまでしてもらって返す方が失礼なのかもという気持ちになってきて、
『それでは頂きます。Thank you.』
とその大きな袋を頂く流れになってしまったのでした。
それからも色々世間話をしましたが、翌日からの大雪の吹雪の話になりました。
私は何度も何度もおじちゃん達に『Please, stay safe and take care of yourself!』(安全に、お願いだから気を付けてね!)と伝えました。
そこにいたおじちゃん達はみんな笑顔でYes. Thank you.と言っていました。
公園からうちに帰るまで、私は何だか心配になってきて色々と考え込んでしまいました。
(教会とか、臨時のシェルターとか吹雪の警報が出てる場合はおじちゃん達が安全にいれる場所はあるのだろうか…? そういった場所の情報をおじちゃん達はきちんと与えられているのかな…? どうしよう…? )

そうして私なりに考えて出した結果は、ゲートボールのおじいちゃん達の善意によってホームレスのおじちゃん達に送られたこの大量のクラッカーやクッキーを私も欲しいという人たちに貰ってもらおうという事でした。

息子と私がおやつの時間に食べる分は一袋で充分なので、その一袋をを選んであとは、ルームメイトが沢山いるシェアハウスに住んでいる人に貰って頂きました。


その翌日の夕方も公園に行くまでの歩道はまだ雪かきが追いついておらず、2歳の息子と公園にたどり着くのは到底不可能、ベビーカーではもっと不可能な状態だったので心配な時間が続きました。

ところが、この記事を書いている朝の散歩の帰り道、うちの近くでなんと、いつもおしゃべりするホームレスのおじちゃんの1人、マックスさんと偶然すれ違うことができました。
凍った雪で足場が悪い歩道をミッキーマウスのぬいぐるみを離さないで帰りたくないと駄々をこねる息子を抱き、片手には犬のリーシュを引いて必死に歩いていた私に、マックスさんが『おい!元気か?!この辺住んでたんだな!』とすれ違い際に話してきてようやく私は彼に気づきました。
『犬と、ぬいぐるみを離さない息子を見てすぐにあんただって気づいたよ!』って言ってくれました。
その会話をし始めた時、また雪がちらほらと降り始めました。
そして再度、私は『今からまた雪が降るよ!気をつけてね!』と告げたのでした。

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日本も同じことが言えると思いますが、色んな意味で今年のニューヨークの冬は例年にも増して過酷な冬になると思います。
仕事も住まいも持たないホームレスのおじちゃん達が私達親子に惜しみなく自分達に与えられた物を与えてくれました。
その一方で今ここニューヨークでは仕事を失くし、家賃も払えなくなった人達が急増し、窃盗や暴力、殺人などの犯罪に怒りと共に身を投じてしまう人達による事件が毎日のように多発しています。

このような状況だからこそ、人の本音や真価がくっきりと映し出されているように思えて仕方がありません。
この体験を心に刻んで、”もし自分自信が今以上に失うものが増えてしまった時はホームレスのおじちゃん達のような心でありたい。”と感じずにはいられないのです。

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