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「ストーリーオブマイライフ」はM1優勝者・ミルクボーイなのではないか!?

大学の後輩ちゃんと飲むことになりました。
で、飲み会の前に後輩ちゃんからLINEで宿題を出されました。

「次の飲み会の議題にするんで、ストーリーオブマイライフを必ず観てから来てください!」


早速翌日鑑賞しました。
我ながらすぐに宿題をこなす優等生!(ただの暇人とも言う)

なんでも映画好きな人々の界隈では、かなり話題になった作品だとか。
鑑賞前は(なんで今更、若草物語?なんで令和の今、リメイクする必要が?)と思っていましたが、これがもう、アラサー独身女性の心にクリティカルヒットでした!!

見終わって「は〜楽しかった!スッキリ!」となる映画ではなく、鑑賞後にいろんな人と感想を語りたくなる。
その会話の中から、自分が普段言語化できていない感情を自覚できる…
そんな自分を知る手がかりとなるような映画だと思います。

三者三様(四者四様)の選択

物語は、マーチ家の次女であるジョー目線で進行します。
とは言え、主役はジョーだけではなくマーチ家の4姉妹。
この4姉妹の個性がバラバラで、それぞれが現代女性の様々な選択肢を表現しています。

長女メグ(演者:エマ・ワトソン)
姉妹で演劇ごっこをして遊ぶ時は生き生きと活発な様子を見せるものの、人前に出ると少し大人しくなる彼女。
女優になりたいという淡い夢を持つものの、それを実行に移すほどの勇気や意欲はありません。
自分の才能の程度・実現可能性などを冷静に判断する思慮深い一面がある一方、貧乏な家庭教師と恋に落ちて結婚する情熱的な一面もあります。
家計は苦しいものの、愛する夫が側にいるという何ものにも代えがたい幸せを手に入れました。
(因みに、バリバリなキャリアのエマ・ワトソンが、ジョーではなくメグを演じるというのが意外でした)

手に入れたもの=愛する人との結婚
手にしなかったもの=豊かさ、才能を生かした仕事(そもそも才能があったのかという点も含めて)

次女ジョー(演者:シアーシャ・ローナン)
物語を紡ぐ才能に溢れた、活発な次女。
屋根裏で姉妹達と演劇ごっこをする時間を誰より大切に思っていたのは、恐らく彼女でしょう。
愛する家族と過ごす“今、この時間”がずっと続けばいいのに…と願っていたのだと思います。少女時代を最も愛し、拘っていたとも言えます。
一人また一人と姉妹達が大人になっていき、結婚したり亡くなったりして行くことに寂しさ・取り残される感を抱くジョー…
親友のような絆を育んでいた資産家の一人息子・ローリーからプロポーズされるものの、まだ「結婚したい」という気持ちが追いついて来ず拒絶してしまします。
ようやくローリーへの愛に気づいた時には、妹のエイミーと婚約が決まった後でした。
彼女はそれらの出来事を奮発剤として「若草物語」を書き上げ、才能を生かした仕事をするという人生を手に入れます。

手に入れたもの=才能を生かした仕事
手にしなかったもの=結婚

三女ベス(演者:エリザ・スカレン)
心優しく誰からも愛される病弱な三女。
編み物をしながら姉妹の喧嘩を少し困ったように見守る、天使のような女の子です。
得意のピアノをきっかけとして隣の家の老人・ローレンスと絆を育んでいく様子は、この映画の中でも特に暖かく優しい、素晴らしい場面でした。
若くして命を落としてしまいますが、周りの人々の胸中にいつまでも残り続け、心の拠り所のような存在であり続けるであろう人物です。

手に入れたもの=周りの人々から特に愛され、愛した。人々の記憶に残る人生
手にしなかったもの=健康・時間

四女エイミー(フローレンス・ピュー)
絵を描く才能に恵まれた、気の強い活発な末っ子。
自己中心的に見えて、実は(メグは貧乏人と結婚したし、ジョーは結婚しないだろうし、ベスは病弱だし…私が家のために金持ちと結婚しなくては!)というプレッシャーを感じて使命を全うしようとする健気な一面もあります。
男より才能があっても女性が画家になるのは相当難易度の高い時代だったため、エイミーは画家になるという夢を諦めました。
とはいうものの、長年想い続けていたローリーの心を最終的に射止め、しかもローリーはちゃっかり資産家!という要領のよさは流石末っ子。
けれども、“夫の本命は私ではなく姉のジョーなのでは…?”という一抹の不安感は生涯薄っすらと彼女に付きまとうのではないでしょうか。うーん、これは意見が分かれるか…
(ちなみに、美人!という設定でしたが、むっちむちで肝っ玉母さんのようなビジュアルだったため彼女がエイミーだとは映画開始序盤気づきませんでした…)

手に入れたもの=ローリーとの結婚、豊かさ
手にしなかったもの=才能を生かした仕事(恐らく才能はあった)、夫の気持ちに対する一抹の不安???

どんな人生も否定しないミルクボーイ感

こうして比べてみると、それぞれ手に入れたものと、手に入れなかったものがあることが分かります。
この選択肢が一番正解だよね!幸せだよね!という描き方にはなっていません。
そして、この選択肢が一番楽だよね!という描き方もしていないのです。

三者三様(四者四様)に幸せで、苦しくて、楽しくて、大変な人生なのです。

これってすごく現代的というか、令和的だなぁ〜と思いませんか?

昨今は以前より多様性が認められ始めていて、色んな生き方が選択できるようになりました。
その影響はお笑い等のエンタメ界にも現れていて、ひと昔前だと誰かを揶揄したりドッキリ仕掛けて笑ったりするような少し意地悪な笑いが流行っていました。
フジテレビが元気だった時代ですね。
しかし今は、日テレの時代です。
イッテQや鉄腕ダッシュのような朗らかな笑いがお茶の間の指示を集め、M1で優勝するのはミルクボーイ。
誰かを否定したり傷つけたりせずに笑いをとる、スマートで優しく、寛容な時代なのです。

四者四様の生き様を描きつつ、「これが正しい!」「こんな人生が幸せ!」「こんな人生は辛い!」とは明言しない。
みんな違ってみんな良い–––––
後輩ちゃん達と感想を交わすうちに、「ストーリー・オブ・マイライフは、ミルクボーイ的な映画だよね!」という結論に至りました。

選択できるからこその苦しみ

さて、ここで新たに浮上するのが【選択できるからこその苦しみ】です。
これは以前noteに書いた朝井リョウ著「死にがいを求めて生きているの」に通じるものがあるなぁと思います。

上記の記事では、「対立のない現代において、人々は自分で自分の人生に意義を見出さなくてはならなくなった」という、ともすれば贅沢とも言える新たな苦しみについて触れました。

ストーリーオブマイライフでは、「どう生きるかの選択肢が増えた今、自分でどれかを選択するという勇気と決断を強いられるようになった」という苦しみが描かれていたと思います。

ストーリーオブマイライフで特に印象深かったシーンがあります。
ローリーとエミリーが婚約したことをを知ったジョーが、母親に向かって屋根裏で目を潤ませながら、しかし力強く内面を語る場面です。

ジョー「結婚だけが女の幸せじゃないって分かってる。女には、才能も、野心もある。…だけど堪らなく寂しいの」

ジョーは自分からローリーをフリました。
想いを綴ったラブレターを彼の目に触れる前に処分したのも、自分の意志です。
妹を尊重したという気持ちも大きいでしょう。
それと同時に、結婚したら小説家という生き方を諦めなくてはならないのでは?という気持ちもあったでしょう。

色々総合的に考えた上で、自分で、「ローリーと結婚しない」という人生を選んだのです。

だけど

それでも

どうしようもなく、堪らなく寂しいのです。

自分で選んだ人生だからこそ、誰のせいにもできない。自分で選んだんだから、自信を持って胸を張って生きていきたい。だけど、今はまだ、そうできない。

もし外部からの強制で結婚させられていたらどうでしょう?
我慢ならない憤りや理不尽さを感じたでしょうが、自己責任という名の寂しさは生まれなかったでしょう。(それが幸せかどうかは置いておいて)

自由という名の自己責任は、なぜこんなにも苦しいのでしょうか?

自立できていないから?誰かに決められたことをやっていたほうが楽だから?

いや、そういうことだけではない。と思います。

“色んな選択肢が許される”と言いながら、どの時代にも“最もメジャーな選択肢”というものが存在します。
みんな声を大にしては言わないけれど、“とは言えこれが最善でしょ”という価値観が、そこここに漂っているのです。

ジョーの時代であれば、「職業婦人という生き方も出てきたよね。でもまぁ、女は結婚するのが最善でしょ」という価値観。
現代であれば、「専業主婦もOK!専業主夫もOK!独身でバリバリ働くのもOK!でも結婚しつつ共働きで家事も育児も分担するのが最善でしょ」みたいな価値観。

そうではない生き方を自由意志で選択するのは、勇気が要ります。
選択肢した後も自信を持ち続けるためには、並並ならぬカロリーが必要です。
と同時に、最もメジャーな価値観を選択した人にはそれ特有の苦しみが生まれるでしょう。「最もメジャーな価値観を選んだのに、辛いなんて言えない。だってそんな事言ったら『何文句言ってるの?』って思われてしまうし…」みたいな感じです。


いくらミルクボーイ的な優しい世界になったとは言え、いいえだからこそ逆に、自由な選択に胸を張る事は容易ではない。
日々揺れ動く価値観の中、私たちはどんな人生を選択していけばいいのでしょう?
揺れ動きすぎて目眩がした時には、もう一度この映画を見返したいと思います。

なぜなら、ストーリーオブマイライフの四姉妹達はそれぞれ苦しみもあるけれど、それぞれ幸せそうだったから。
完璧な人生など無い。
少しずつ欠けて、それでいて暖かいこの映画を道標に、令和という新時代を生き抜いていきたいと思います。


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