6つの要素で組織を作る
「組織づくり」とは何をイメージしていますか
と聞くと、人によって大分イメージが異なっていることが多々あります。
たとえば、
・理念の話をする人
・組織図、業務分掌や職務権限など、指揮命令系統の話をする人
・教育や育成の話をする人
・目標や評価の話をする人
など、たいていの場合がバラバラです。
もちろんこれらは間違いではなく、大事な話ばかりです。
そもそもたった1つの要素だけで組織が作れるわけではありません。
だから全部正解といっていいでしょう。
けれども、それぞれたった1つしか出てこないようでは、断片的すぎます。
「組織づくり」を包括的に教えて貰える機会というものは、人にもよりますがそれほど多くはありません。なんとなく自分の上司や、会社の風土を見て「なんとなくこうなのだろう」から派生していくだけです。
しかし、今後はそういうわけにもいきません。
社会の中で一歩進出することになるわけですから、今後生まれる新米管理職も悩んで立ち止まり続けているわけにはいきません。
必要なのは
「組織として機能するために、最低限、何が必要か」
「組織と呼ばれるための条件とは何なのか」
を見極めることです。逆に言えば最低限、すなわち下の6つのうちどれがかけていてもそれは組織として不十分である、と大抵の書籍やサイトでは言われていることでしょう。
目標
これは分かりやすいと思います。
多くの会社でも、経営層から部長クラスあたりが自部門の「方針」などを発表する機会があったりすると思います。その際に配布/周知される資料や情報の中には、各組織の「目標」や「計画」も記載されています。
近代経営学の父、P.F.ドラッカーは
「組織は目的ではなく手段」
「問題は、その組織は何かではなく、その組織は何をなすべきかである」
と述べていますが、この一言には組織づくりの本質が込められていると言っても過言ではありません。何をする組織なのか、その目的を明らかにしない(できない)ということは、その組織は存在しなくてもいいということです(何を目標としている組織かハッキリしていないのですから)。
組織とは、個人でできない目標を達成するために集まった人の集合体です。
目標を持たない個人、目標に向かって進まない個人は、組織では役に立ちません。
中でも、特に小さな部門の管理職…すなわち品質保証部のような少人数組織や課であれば、最も重要となるのは「組織の具体的な目標」です。ここを飛ばしてしまうと、後のプロセス設計や施策の洗い出しの際に、単に現状を追認するだけで終わってしまうことが多数出てきます。
なお「売上目標」や「利益目標」は「目標」という名前が着いてはいますが、ここで言う目標とはまったく異なります。売上や利益は活動目標ではなく、活動の結果にあるものだからです。
組織の長が考えなければならないのは「何をすれば、結果として売上や利益が得られるか」と言うプロセスです。結果としてどれくらいの数字になるかしか見ないのは、「宝くじが当たったら何しよう…」とウキウキしているただの皮算用と変わりません。
したがって「何をすれば」の部分を目標とすることが重要になります。
具体的には
「今期は◯◯を◯◯の規模で行う。」
「今期は◯◯の活動を行う。」
「今期は◯◯の地域の人々に◯◯を届ける。」
という形で、目標を設定することです。
また、目標はパフォーマンスを正確に測定するために
・組織全体の目標
・プロジェクトの目標
・チームの目標
・個人の目標
と、階層単位で設定する必要があります。
このあたりは、QMSを推進している組織や、PMBOK、機能安全などISO規格関連を熟知している人には耳にタコができるほど言われていることかもしれませんね。
仕事のやり方・進め方
さて、もちろん目標を決めただけでは「組織づくりができた」とはいえません。
次に必要なのは「仕事のやり方」です。
組織づくりがなされている企業と、なされていない企業の大きな違いの一つは"属人性の有無"にあります。
人は永遠には生きられません。
ずっと同じ人が続けてくれるわけではありません。
いずれは世代交代があります。
にもかかわらず、
「この人しかできない」
「あの人に聞かないとわからない」
という仕事は極力発生しないようにするのは、組織作りから逆行するする行為です。
この「やり方」を言語化することにより、特定の人にしかできなかった属人的な方法が"努力さえすれば誰にでもできる"ようになり、「社員の入れ替わり」に耐えうる組織が出来上がるというわけです。長く存在できる企業であるためには絶対に必要なことです。
属人性を排除するのに必要な「仕事のやり方」には以下の項目を含みます。
・業務フロー
・KPI
・様式
・マニュアル
・データの形式
・緊急対応、例外対応の方法
・記録の方法
・チェック、テストの方法
逆に言えばこういったものを整備せず、常に「優秀なリーダー」「スーパー営業」や「卓越したクリエイター」が必要とされる組織は、それがいかに大きい集団であったとしても、いずれ破綻するだけの一過性のものでしかなく、まともな「組織」とは呼べません。
ちなみに、上記の条件を見て気付いたことはありませんか?
そう、これらは一般的な業務システムを開発するための情報源であったりもするのです。すなわち業務に関する『仕様』です。
仕様がハッキリしていると、システム化しやすいですよね?
裏を返せば、仕様がハッキリしていない会社様、なかなか出てこない会社様は、属人的で、組織とは呼べない活動をしてきた、あるいはさせてきたということを意味します。当然、IT化/システム化しようとしても仕様を言語化・明確化できずに炎上してしまいかねないリスクを抱えていることになります。
仕事の改善のしくみ
目標と、仕事のやり方は決めたとします。
組織であればここまでの2つは"必須条件"と言ってもいいでしょう。
しかし、それだけあってもいずれは陳腐化します。
だからこそ、次に必要とされるのは「改善活動」…すなわちPDCAです。
改善活動は以下の活動を含みます。
・パフォーマンスの測定
・測定結果の報告
・報告されたデータの分析
・改善活動の立案、実施
・改善活動の効果測定
これらのプロセスを、仕事を実施する中で動かすのです。
中には、自身のパフォーマンス測定を嫌がる人もいますが、嫌がった時点で何かしら後ろめたいのだということを理解しましょう。PMBOKがそうであるように、PDCAは個人の良し悪しを決めるものではありません。仕組みや取組みの良し悪しを評価し、改善するためのものです。それ以外の目的で使おうとするから、人の感情を逆なでして話がややこしくなるのです。
これらには「機械化」「システム化」などによって、
「2人でやっていたことを1人でできるようにする」
「4日かかっていたところを1日でできるようにする」
などの大きい改善から、様式を見直したり、仕事の手順を改善したりすることなどの細かい改善活動までが含まれます。どんな些細な改善でも、たった1秒の改善でも、それが5人、10人、あるいは100回/日、200回/日となれば、年間にするととてつもない量の改善効果が出るというものです。
組織として機能していない状態では、一人ひとりのノウハウが個別に運用されているだけですが、「組織」は誰か一人の良いやり方が全体に共有されます。そうなっていなければ組織としてどこかおかしいということです。
だからこそ、この仕組みを作ることが「組織づくり」においては重要となってくるのです。
キャリアパス
人材育成は「組織づくり」の中でも重要なテーマの1つです。
そして「育成」というと教育や研修のことを思い浮かべる方も多いことでしょう。
しかし、組織づくりの最初に必要なのは教育や研修ではなく「キャリアパス」…すなわち「育成した結果、どこに行きつくのか?」というゴールの設定です。
キャリアパスには以下のことが含まれます。
・階層(役割)
・階層ごとの責任と権限
・階層に応じた、必要とされるスキル、パフォーマンス基準の明確化
どのような人材を目指すのか、何ができれば一人前で、何ができたらリーダー足りうるのか、組織はそういった基準を必要としています。そうでなければ組織活動の不透明さに対しての不信感や不満が高まるだけになってしまいます。
そう言った組織では有能な人材から辞めていってしまいます。
逆にキャリアパスが存在すれば、必要な技能に応じて適切な教育や研修を適用できるようになります。相対的に「人材の育成」もスムーズに運ぶようになります。特に技能の未熟な新卒や若手を多く採用するような組織は、キャリアパスの存在が非常に重要となってくるでしょう。
評価方法
ここまで来ると、組織に必要なことはほぼ作り上げたことになりますが、肝心なことを一つ残しています。それは「評価方法」あるいは「評価基準」です。
ここまで説明した
「目標」「仕事のやり方」「改善のしくみ」「キャリアパス」
を持つ会社は、ようやく「データに基づく評価」を行うことができるようになります。
データとは、"事実"に基づく情報のことで、人が思っているあるいは考えている評価等よりもよほど信憑性が出ます。逆に、以上の4要素が作られておらず、上司の恣意性が大きく反映される評価は属人性が高く、中には公平感に欠いた人事なども横行するため、「組織づくり」の過程において排除すべきことの一つと言われています。
評価については巷で
「うちの評価は、結局上司の好き嫌いだから」
という声が聞こえてくるケースがあると言います。
しかし、それは単なる部下の愚痴であることも多いでしょうが、大半は上の4つの要素のいずれかがうまく機能しておらず、手元に評価のための十分なデータがないことによって不信感を募らせられている結果ともいえるでしょう。
文化・風土
これまでの5要素は、主として組織のテクニカルな側面についての必要事項ですが、組織はそれだけでは十分に動きません。なぜなら、部下1人1人が足並みを揃えて1つの目標へ向かうための風土が醸成されていないからです。
そこでもう一つ重要なのが、構成員のモチベーションやマニュアル化されていない事態への対応に必要となる「文化」です。
組織の「文化」は、主として以下の要素のどれか、または組み合わせにより従業員に伝達されることになります。
・組織の長の人格・行動・発言
・理念や判断基準
・評価基準
・顧客への態度
・報奨制度
ですが、影響が大きいのはやはり組織の長の人格・行動・発言でしょう。
たとえば
「部下や周囲に嫌われる」
「嘘ばかり言っている」
「外面だけ良くて、部下にはキツい」
「不信感を抱かれる」
「いざと言う時、誰も助けてくれない」
「いい歳してケンカっぱやい」
等、どんなに能力があっても、どんなに期待値が高くても、人格的に周囲と打ち解けられる努力を怠る人には組織的な活動は向きません。組織が必要な理由が理解できていないからです。ひょっとしたら、自分の立身出世や権力欲しかないのかもしれません。
こういった人を成熟させないまま昇格させてしまうと、その配下についた部下は苦労することになります。結果的に企業組織そのものが信用できなくなってしまうことでしょう。
本業に従事する社員が不信感や不満を増幅させるようになったらおしまいです。
組織というのは、個人ではできない目標を達成するために、同じ目標や目的を共有し、達成するために集まった集団です。私物化していいようなものでは絶対にありません。
そもそも、「個人でできない」ことを達成するためにその場に立っているということを忘れ、一緒に活動していく仲間たちを度外視し、嫌われ、いざと言う時に助力を得ることもできない人が、どうして組織的活動に向いていると言えるでしょう。
組織には、組織を束ねる能力も当然ながら必要となりますが、能力さえあれば組織を束ねられると思ったら大間違いです。
上記6項目のように、能力だけでは測れない要素も不可欠であることを知っておきましょう。
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