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「振り返る」効果と意義

最近、徐々に私の周囲でもドラッカーの言葉を引用する人が増えてきているような気がします。まぁそれは別にいいんですけど、とはいえドラッカーの言葉だけ用いても当然活動と実績が伴わなければ絵に描いた餅です。

今まで幾度となくPDCAについて説明してきましたが、PDCAの本来の目的は

 繰り返される改善による、質/生産性向上

です。具体的には

 ①まずやる
 ②改善を加え、質を向上する
 ③これ以上質が向上しなくなったら、そのプロセスをさらに改善し
  生産性/効率性を向上する

という流れで進めるものです。

問題や不良を減らすことも、良いものをより良く改善することも、突き詰めて言えば業務の生産効率を向上させるためにあるものです。副次効果として品質の向上や安定したマネジメント、ノウハウなどの知的情報の共有なども出てきます。

繰り返し何度も経験することとの相乗効果によって強みが生きるという側面も確かにあります。

ですから、物事は

 計画を立ててから行動するか
 行動しながら修正していく

をいたちごっこのように繰り返し議論されてきました。

ですが、私たちのような「プロジェクト」と言う単位によって常に一つひとつが異なるオーダーメイド品を作成するような活動の場合、「行動しながら修正する」と言うのではどうしても後手に回ってしまいます。

大型で数年かかるようなプロジェクトであればそれでもなんとかなるかもしれません。アジャイルのような進め方であれば可能な部分もあるでしょう。

しかし、短期的なプロジェクトではその余裕すらないのです。

ドラッカーも、大学の学生には「まずはつべこべ言わず社会に出なさい」と助言していたといいます。まずはやって見なければ、改善するスタートラインに立つことすらできないことを指していたのでしょう。

考えるべきときと動くべきときがあります。
あるいは考えながら動くべきときもあります。

はじめから自分が何者かわかっている人などほとんどいないのですから、大学あるいは大学院を出た後に

 まったく成り立ちの異なる新しい学校に入学するつもりで社会に出る
 現実という最高の教師に教えていただく

といった発想が大切なのでしょう。

知識社会において、企業は最高の大学あるいは大学院なのかもしれません。
学校時代は、基本的には与えられた範囲で過去の経験値をもとにやっていくことができます。

けれども、社会人になるといったん過去の経験値が役に立たない局面を誰しもくぐり抜けることになります。「プロジェクト」という独自性を持つ業態の場合は特にその傾向が強くなります。リーチを越えたところで自分を展開する必要に迫られるわけです。

今まで付き合ったことのない年代や価値観の人たちとときに活動をともにしなければならないことだってあります。

誰でも状況は変わりません。
これは人を半ば強制的に成長させてくれる得がたい一時期です。

自分の強みや自分にできることがわかるようになるまで揺らぎの中に身を置くことが必要なのだと思います。ドラッカーも「自分が何者かわかるようになったのは30歳を越えたあたりだった」と書いています。こうしたことは多くの人々の実感としても合致していると思います。

ちなみにわたしもピッタリ30歳を過ぎてから、過去を改めて振り返って色々気付かされたことが多かったと記憶しています。ちょうど1度目の転職をした頃の話です。20代は偉そうに何かを語れることはあまりありませんでした。失敗のほうが多かった気がします。

1社目は今でいうブラック要素の濃いエッセンスをすべて体験させられたような状況でした。(休憩時間も休憩せず)1日22時間働き続け、それを1年半も続けていた年度もありました。朝方に心臓が苦しくなって救急搬送されても、午後から終電近くまで働かされる…なんてこともありました。勤務中に急に視界がブラックアウトして頭から倒れ込んだこともありましたし、祖母が無くなっても葬式にすら参加させてもらえませんでした。

2社目は肺炎になっても入院することも許されないほど業務を押し付けられ、自宅療養+通院にさせてほしいと医者に嘘をついて終電まで仕事していた時期もありました。橈骨神経麻痺になって左腕がしびれ、ボタンをとめることもできず、非常に動きづらくなっても1日も休むことなく(帰ることなく)延々と仕事していたこともありました。

30代半ばまではAM4時や5時まで仕事を強要させられることばかりだった気がします。

同じように3社目では腸閉塞になって入院しても誰もフォローしてくれることもなく、早々に退院させてもらってやはり朝方まで仕事していたプロジェクトもありました。

日本中各地で起きるトラブル案件に都度突っ込まれていれば、考える余裕も生まれるわけがありません。

 「もう二度とあんな苦労はこりごりだ」

と、落ち着いて同じ状況に陥れられないないためのリーダー像、マネージャー像を考え始めたのは40歳になる前だった頃でしょうか(それまでは「与えられた環境下で最高の結果を出してやる!」って思ってましたけど、結果的にいいように利用されていたのでしょうね…)。

生産性を高めるためには、まず

 「自分のやり方」
 「自分の価値観」

を知ることです。

誰か別の人になろうとしてもうまくいきませんから、自分のやり方、自分の価値観を知ることが正しく成功することの近道といっていいでしょう。そのために必要なことが『フィードバック分析』とドラッカーはいうのです。すでに起こったことをクールに振り返り内省する大切さを説いています。

たとえば、今まで定期試験や受験勉強のときなどにどんなところでどんな方法で勉強するとうまくいったかなどを思い出してみるといいかもしれません。どんなときにホームランを打ったか、そのときの手の感触を丹念に思い出していくことです。

成功体験を内省していくと、自分がどんな場所で、どんなスタイルで、どんな方法で強みを発揮できるかが見えて来ることも少なくありません。

失敗には失敗する条件や環境が、成功には成功する条件や環境というものがあります。

それらを再現するためには、具体的にどのような条件や環境によって帰結したかを内省しなければなりません。そのツールとして目標…すなわち「ゴールのイメージ像」を活用することが推奨されています。

ドラッカーは目標を考えるプロセス、目標から考えるプロセスをとても重視しています。というのも、目標を考え抜くことそれ自体が自分の強みを体系的に展開していく上での基本活動そのものだからです。

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外交官で政治学者のE・H・カーは、医学、工学、物理学など、知識が体系化され進化していく中心にあったのは「これをなしとげたい」という目標(ゴール)だったと言っています。

考えてみればその通りです。

漫然と考えていたら、結果的に医学が体系化されていたなどということはありません。たまたま散歩していたら富士山の頂上に登っていたということがないのと同じかもしれません。

ですから、目標をどう立てるかは生産性向上のまさに"要"と言っていいでしょう。

目標を考え抜くプロセスには絶対的な意味があるのです。
自分が何をなすべきかを徹底的に考えるわけですから。
目標を考え抜くプロセスは、意思決定にも役立ちます。

強みを知る方法は一つしかない。フィードバック分析である。
何かをすることに決めたならば、何を期待するかを直ちに書きとめておかなければならない。そして9カ月後、1年後に、その期待と実際の結果を照合しなければならない。
私自身は、これを50年続けている。
しかも、そのたびに驚かされている。
これを行なうならば、誰もが同じように驚かされるにちがいない。

P.F.ドラッカー『明日を支配するもの』

原理はシンプルです。
ですが簡単に見えるものほど、案外簡単ではなかったりもします。

そもそも目標を考え抜くこと自体が、とてつもない知的負荷をもたらします。ゴール"だけ"を考えても、

 捕らぬ狸の皮算用
 絵に描いた餅

では意味がありません。そこに至るまでに実現性の高いプロセスが構築できていなければなりません。もちろん、不確実性によって構築したプロセス(計画)通りにならないことはありますが、それすらもリスクとして想定し、うまく乗りこなしていかなければなりません。

これが案外難しくて、多くの人が挫折していきます。そう

 プロジェクトマネジメント

です。プロジェクトマネジメント専門の会社ができ、ものすごく業績が良かったりする市場を見てもわかるように、多くの企業ではプロジェクトマネジメントを苦手としていて、アウトソージングするニーズが大きいためにそのような市場がにぎわっているわけですね。

自分のことなのに、いかに何も知らないかを実感させられることもあります。

しかし、目標の方向性が見えてくると何度も繰り返すうちに「何を行うべきか」とともに、「何をするとうまくいくか」も見えて来るようになります。

やってみれば、できるかできないかははっきりしてしまうわけですから、現実ほど雄弁な教師はいないということもわかってきます。ドラッカー自身も、生涯フィードバック分析を活用して自分の強みを研ぎ上げていきました。自分自身に対してフィードバックを継続すると、これまで気づかなかったいろんな情報が耳や目に入ってくるようになります。

もちろん耳に痛いことや、目を背けたいこともたくさんあります。触れたくないということは、そのなかにいくぶんの真実が含まれているということですから、やはり現実こそが最高の教師と言うことになります。

外部からの情報に合わせて自分自身を変革していくと、どんどんフィードバックが回り始めます。学習回路がフル稼働してくるのです。そうなるとフィードバックすればするほどいろんなことが学べるようになり、同時に何をすればうまくいくかもわかってきますから、強みも磨かれていきます。

何をなすべきでないかも見えてきます。

もし、フィードバック分析…すなわち「振り返り」によって自身を向上させていく、あるいはそれを日常の習慣として取り込みたいと言う人がいれば初学書として

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を読んでみると良いと思います。

私も一時期バイブルにしていました(何十回…いや3桁以上は読んだかな?)。ふだん漠然と考えている問いに対する一つの道筋が明晰な言葉で書かれているのに驚くと思います。フィードバック分析のことも詳しく書かれています。

ただし、読むだけでも、読んで知識にするだけでも意味はありません。

読んだからと言って、それだけで勝手に生産性が向上することもありません。読んで「どうするのか?」「何に活かすのか?」と言う目標設定が必要になります。

それもまた自身の行動に対するフィードバックですよね。

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