オカンから遺伝しました / 「アビエイター」
レオナルド・ディカプリオの成功は「タイタニック」によるところも大きいが、やはりマーティン・スコセッシ監督の映画に主演することで演技力と迫力を身につけたからだと言えるだろう。僕はこのマーティン&レオ組のなかでは2004年の映画「アビエイター」が特に好きだ。
1993年に出版されたチャールズ・ヒガムの著書"Howard Hughes: The Secret Life"を原作としている本作は、イカれた大富豪であるハワード・ヒューズの放蕩を眺める映画のように思われているが、これは「シャッター アイランド」にも通じるサイコ系である。
映画のほぼ全篇にわたって繰り広げられるハワード・ヒューズ(レオナルド・ディカプリオ)の強迫性障害、特に潔癖に関わる描写によって、ありのままの精神障害を見つめている作品だ。お金持ちはアタマがおかしい、などという僻み根性で観るべき類の映画ではない。ハワードという大富豪"でさえ"、精神障害に苦しんでいたということだ。それは母親からの躾によって形成されたものかもしれないし、本作でもそのように解釈できるシーンが挿入されているが、僕は精神障害の"多く"のケースは遺伝だと思っている。それは大勢の人たちを観察してきた僕なりの持論だ。
母親が異常なまでに手を洗うことを躾けたことによってハワードが強迫性障害を抱えたというよりも、我が子にそのような行為を強制するような母親の気質、すなわち脳の構造あるいは癖が、ハワードに遺伝したと考える方が現実に即しているはずだ。こうした遺伝の話をすると、優生学につながるため嫌がる人が多いが、遺伝という現実は重いと僕は考えている。妊娠したらゼロから人間が作られるのではなく、両親からの設計図をもとに作られるのだ。この事実から誰も逃れることはできない。そうでなければ、サラブレッドの血統など意味がないことになる。
たとえば、先祖代々、隣近所から「あそこの家は賢い」と言われる家に僕は生まれている。これが今の僕に無関係のはずがない。胃腸が弱いこと、パッと見たらそれを記憶してしまう能力は母親からの血である。脳のような緻密な神経系統が遺伝にあまり関係しないと考える方が無理がある。精神疾患の"多く"は、遺伝に過ぎない。ただそれが顕著に現れるかどうかの差である。
もちろん、外部からのストレスによって発症する精神障害もあるが、それは気質に基づく病ではない。いわば心の怪我のようなものだ。怪我はいずれ治るが、遺伝によって形成されてしまっている disorder (障害)はどうにもならない。
ススキノで頭部のない遺体が発見された事件において、あの娘の行為の"源"は両親に宿っているもののはずだ。それは事件後に出てきた数々のおぞましい逸話によって証明されているだろう。遺伝による精神疾患は存在するという現実を指摘することは、差別とは全く異なり、学問の話である。僕の住んでいる街には精神病院が複数あるが、やはり患者の両親を見ると、やっぱりな、と感じることが多い。こうした現実を差別だなんだと言って見ないようにしても、それは綺麗事なのだ。遺伝は重い。こうしたことについてもっとオープンに議論するべきだと思う。
僕はかつてパニック障害を"外からのストレス"によって発症していたので、本作のような精神疾患を扱う映画は好きだ。僕はメンタル系の病院には通わず、時間をかけて自分で治した。症状を抱えていたことを知る人も限られている。それはキチガイだと思われたくないということではなく、心の病ごときでピーピー言いたくなかったからだ。別に死ぬわけじゃあるまいし、と楽天的に過ごしたことが良かったと思う。最近はピーピー言った者勝ちのような風潮だが、僕はそういう甘えは嫌いなのだ。死ぬわけじゃあるまいし、という何事にもあまりこだわらない気質はきっと父親からの遺伝だろう。
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