短説の会・関西座会

短説は、原稿用紙2枚で書く短編小説、掌編小説です。集まって相互批評する座会もやってます…

短説の会・関西座会

短説は、原稿用紙2枚で書く短編小説、掌編小説です。集まって相互批評する座会もやってます。大阪府堺市。

記事一覧

粟餅

男は困惑していた。 宿場町の茶店にいて、目の前に粟餅が置いてある。 見覚えのある店だった。 男が子どものころ、奉公していた旅籠屋の近くの茶店だった。 腰の曲がった婆…

停電の夜

     もう五十年ほども昔の話だ。  私の育った海辺の村は毎年恒例のように台風に襲われた。  台風の夜には停電がつきもので、どこの家でも日の暮れる前から早寝を決…

夕焼け屋

     私は、夕焼けを売ってるんです。そんなものが売れるのかって? 買う人はたくさんいますよ。おや、夕焼けなんてタダだとおっしゃる? とんでもない。あなたも生…

粟餅

粟餅

男は困惑していた。
宿場町の茶店にいて、目の前に粟餅が置いてある。
見覚えのある店だった。
男が子どものころ、奉公していた旅籠屋の近くの茶店だった。
腰の曲がった婆さまが働いている。
男が九つのとき、亡くなったはずだ。
茶店の前を通るたび、粟餅を蒸すにおいにひかれて、何度、立ち寄りたいと思ったことか。
奉公人で、子どもだった男には粟餅を買う金を持っていない。
いや、一度だけ、茶店で粟餅を頼んだこと

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停電の夜

   

 もう五十年ほども昔の話だ。
 私の育った海辺の村は毎年恒例のように台風に襲われた。
 台風の夜には停電がつきもので、どこの家でも日の暮れる前から早寝を決め込んでいたのだが、そんなに早い時間から無闇に眠れるはずもなく、台風は怖いながらももう運を天にまかすしかすべもなく、雑音入りのラジオに耳を傾けながら、暇を持て余していた。
 そうなると私の出番なのだった。
 まだ小学生だった私は、懐中電

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夕焼け屋

   

 私は、夕焼けを売ってるんです。そんなものが売れるのかって? 買う人はたくさんいますよ。おや、夕焼けなんてタダだとおっしゃる? とんでもない。あなたも生きて来た中で、いちばん綺麗だった夕焼けってあるはずです。それが人生の財産ですよ。でも不思議なもんでね、たとえば同じ夕焼けを見ても、人によって見え方が違うんです。同じ夕焼けを見ていても、心に響かなかったり、涙がとまらないくらいに美しく見えた

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