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【短編ホラー小説】短夜怪談「見送る」


信号待ちの足元で、みゃあ、と微かな声。視線を下ろすと、灰色の猫が背後にある建物のドアから歩いて来る。そのまま赤信号の横断歩道を渡り、夕闇に溶けて消えた。
「あ、」
と呟いた声は、隣の見知らぬ青年と重なる。顔を見合わせ、同時に振り向く。廃墟になった動物病院のドアは、鎖でガチガチに封鎖され、猫の子一匹通れる隙間も無い。
「……可愛かったですね」
「そうですね」
信号が変わるまで、笑い合った。

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