【短編ホラー小説】短夜怪談「見上げる」
「先輩、いつも思うんですけど。このビルに何か用でもあるんですか?」
「いや別に。何で?」
「何で、って。いつもしばらく見上げてるじゃないですか。店とか入ってなさそうすけど」
先輩は会社の外に出る度、近くの特定のビルをしばらくじっと見上げる。声を掛けてようやく我に返るのだ。
「そんな見てるか?でも何か、気付くと見上げちゃうんだよなあ」
「通行の邪魔になりますよ。戻りましょう」
「おう」
あのビルから飛び降りたらしい女が、今なお飛び降り続けていること、それが先輩の足元に叩きつけら