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【短編ホラー小説】短夜怪談「赤い紫陽花」

幼少の頃、私が住んでいた母の実家には、庭に紫陽花があった。青い紫陽花で、私はその紫陽花を見るのが好きだった。ある年、青い紫陽花の花々の中に、染めたように真っ赤な紫陽花を一つ見つけた。
「おばあちゃん、あの真っ赤な紫陽花なあに?」
聞いてその紫陽花を一目見た祖母は、血相を変えてあちこちに電話をし始める。
「あれが咲いた。しばらく無かったから……そう……くれぐれも気をつけて……」
どの相手にも、こんなことを言っていたように思う。その年、親戚の一人が若くして亡くなった。突然死だったらしい。それから、家を引っ越すまで何回か、真っ赤な一つの紫陽花を見た。そして必ずその年に、親戚の誰かが亡くなったのだ。
「やっぱり、お父さんがもう居ないから……」
お父さん、というのは祖父のことだ。祖父は、私が最初に赤い紫陽花を見つけた、その前の年に亡くなっている。祖母が一度だけそう呟いたのが、やけに印象に残った。
その後、私が成人した年に祖母の家は全焼した。祖母は焼死し、庭も燃え、あの紫陽花も全て焼失したのだ。
「我が家から犠牲は出ないけど、終わりにしないとね」
と最後に会った祖母が寂しそうに言った意味は、今も分からないままでいる。あれから、赤い紫陽花を見ることは無かった。

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