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「ブラインド」 - 黙殺される闇の深淵に灯る兄の本心、弟の情熱

★★★★+

2PMテギョン主演のミステリースリラー。「ヴィンチェンツォ」の振り切った悪役演技ですっかりサイコパスな印象を残したテギョンが猟奇殺人事件を追う熱血刑事役を演じると聞いて、直感的に一筋縄で行かなそうなものを感じて観始めました。軍入隊中は「キャプテン・コリア」なんてニックネームがついたほど男気もフィジカルも抜群の彼が、「ヒーローものを見ながら悪を凝らしめる夢を育んで刑事になった」という絵面だけでも面白そうです。加えてわりとゴリゴリの連続猟奇殺人がテーマなのでミステリーとしての仕上がりも見どころに。

京畿道ムヨン市。河川敷に放置された黒いビニール袋から20代女性の遺体が見つかります。女性はペク・ジウン。遺体の口元は刃物でジョーカーのように切り裂かれており、現場へ駆け付けた刑事リュ・ソンジュン(オク・テギョン / 2PM)は強い怒りをもって操作に乗り出します。被害者の足取りを追ってやってきたクラブで女性に暴力を振るう男を連行したソンジュン。一緒に署に連れてきたクォン・ユナ(カン・ナイン)が勝手に帰ろうとするのを止めているところにユナの保護者を名乗るチョ・ウンギ(チョン・ウンジ / Apink)が現れます。

クラブで捕まえた男はアリバイが確認され、控訴されてしまうソンジュン。そんなソンジュンに対して兄で判事のリュ・ソンフン(ハ・ソクジン)は不安を抱いている様子です。暴走して自分を抑えられなくなったらいつか殺人まで犯すのではないか…。

しかし止まることを知らないソンジュンは被害者の父ムンガンから聞いた話をもとにチョン・マンチュン(チョン・ジヌ)という男に怪しさを感じて一悶着の末に逮捕します。けれど容疑を否認するマンチュンは裁判員裁判を申請することに。そして法定に集められた陪審員たちの中には、なんと先日署で出会ったウンギの姿がありました。そして裁判が始まるとマンチュンはあろうことか、事件当日の現場にソンジュンもいたと言い出して…。

少々エグい場面もありますが、疑わしい犯人がどんどん変わっていくことでグイグイ推進していく物語は見応えがあります。初回から主人公が怪しい展開はなかなかに新鮮。いきなり逮捕されることで逆に真犯人ではないだろうと思わせるマンチュンも、そうはいってもどう見ても何かあるタイプですし、他の登場人物も全員脛に傷はありそうなのです。正義感の塊みたいな性格で表情の乏しいソンフンがソンジュンをどう考えているのかも比較的ずっと謎。

また各話の冒頭に少し昔とおぼしきシーンが挿入されているのですが、これは明らかにソンジュンの過去に紐付いて見えます。どこかしらの施設に閉じ込められ労働させられている少年たち。彼らは番号で呼ばれており、逃げようとする彼らを大人たちが追いかけてきます。このテの謎の組織や施設が出てくるとチープな結末に陥らないかちょっと疑わしい目で見てしまいがちなのですが、むやみに壮大な展開になるわけではなく限られた登場人物たちの範囲で(とはいえ結構な人数はいますが)引き締まった空気の中、真実が徐々に明らかになっていく印象でした。

ソンジュンは謎の鍵を握っているような片鱗は見せつつ、基本的に一本気で正義感を滾らせる人物。物事を冷静に捉える判断力も持ち合わせ、感情に揺さぶられることはあっても呑み込まれはしないタイプです。そういう意味ではとてもフラットなキャラクターなので、後半になっていくとむしろ能面のようでいくつもの顔を持っているソンフンの存在感のほうが相対的にぐっと増していきます。やがて入れ替わっていく兄弟のコントラストに面白さがありました。テギョンとハ・ソクジンの演技のバランスも絶妙なのかもしれません。疑いの目を向けることはあっても心の底では兄を慕っているソンジュン、冷たい素振りをとるようで弟を大事にもして見えるソンフン。ふたりの間に実際どんな絆があるのかを探っていくほどに先が気になって引き込まれました。

ウンギが爽やかでさっぱりしたヒロインとして物語にスパイスをもたらしていて好きです。全体に役者陣が派手すぎず丁寧な演技でおのおのの人物を表現していて、誠実なドラマに仕上がっている気がしました。あと音楽も印象的なものがいくつか。後からくる味わいが深くて、なんとなく少し経ったらまた観たくなる作品だと思います。


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