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「SKYキャッスル~上流階級の妻たち~」 - 子の心親知らず。毒になるまで煮詰めた受験の狂乱

★★★★★

ふと思い立って今更観てしまいました。こういう分かりやすいドロドロ系ドラマは敬遠しがちなのですが、観てみたら派手な展開とテンポの良さであっという間に観れてしまう納得の面白さ。大学の受験地獄を舞台に子供の名門大入学に命を賭ける母親たちと、出世争いに夢中な父親たち。そんな両親のプライドのアバターのように生きて命をすり減らしている子供たち。大人の野望と欲望を描くドラマでありながら、2つの事件の真相解明を物語の進行の軸にしているのでとても見やすく、また子供たちを演じる役者陣の芸達者ぷりも際立つ上質なエンターテイメント作品でした。

分かりやすく成功した富裕層しか住むことが出来ない超高級住宅街の「SKYキャッスル」。ハン・ソジン(ヨム・ジョンア)は整形外科医カン・ジュンサン(チョン・ジュノ)の妻であり、ソウル医大を目指す優秀な長女のイェソ(キム・ヘユン)と勉強嫌いの次女・イェビン(イ・ジウォン)と家族4人で暮らしています。彼女は今はとにかくイェソの受験がすべてで、隣に住むミョンジュ(キム・ジョンナン)の息子・ヨンジェ(ソン・ゴン)がソウル医大に合格したため、ミョンジュにヨンジェのポートフォリオを見せてくれと頼みますが、息子の資料は公開しないと言われてしまいます。その代わり、VVIPの顧客だけが招待される「入試コーディネーター」の説明会の招待状をソジンに渡すミョンジュ。意気揚々と参加したソジンは、ヨンジェを合格に導いたというコーディネーター・キム先生(キム・ソヒョン)にイェソを見てもらえることになるのです。

ある日、夫からプレゼントされたクルーズ旅行から帰国したミョンジュ。雪の降る晩にふらふらと外に出た彼女は突然、夫の猟銃で自らの頭を撃ち抜いて自殺を遂げてしまいます。大騒ぎになるSKYキャッスルの住人たち。ミョンジュの夫で医師のスチャン(ユ・ソンジュ)は勤め先の病院を辞めて姿を消します。そしてソウル医大に受かったはずの息子・ヨンジェもいなくなり、空き家となったミョンジュの家に越してきたのはSKYキャッスルにはあまり似合わない素朴な女性イ・スイム(イ・テラン)の一家。スイムの息子・ウジュ(チャニ / SF9)は他の子のように必死に勉強する様子もないのにイェソと同じ高校にイェソと共同主席で合格した模範生です。そしてスイムの夫・チヨン(チェ・ウォニョン)はジュンサンと同じ病院にやってきた医師であり、こちらも出世意欲は特になさそうなものの優秀で上のポストに取り立てられています。異質な家族の登場でバランスが狂い始めるSKYキャッスル。そしてミョンジュの死の真相は…。

ただの上流階級の受験戦争の話ではなく、人の死が絡んでくるあたりがまずポイントです。そして様々に裏がある住民たち。サスペンスとしても面白いのですが、一方で当然にセレブファミリーたちのマウントの取り合いを滑稽に描く部分もあり、子供たちには子供たちなりの青春もあるので、多様な雰囲気を並行して楽しめるようにできています。

良家の子女で賢い母でもある、SKYキャッスルでは稀有な女性スンへ(ユン・セア)。この作品ではスイムと並んで子供の意志を尊重できる母親ですが(いやほんとこのお母さん最高)、彼女の双子の息子を演じているのが「悪霊狩猟団: カウンターズ」のチョ・ビョンギュと「梨泰院クラス」のキム・ドンヒだったり、ダントツ問題児(ただし成績は抜群に優秀)のイェソ役が「偶然見つけたハル」のキム・ヘユンだったり。また作中でも最大の良心みたいな存在となるウジュは、SF9で演技ドル筆頭のロウンとまた違う魅力で役者としての才能を見せているチャニ(キム・ヘユンはロウンとも「偶然見つけたハル」で共演しているのでチャニ、ロウンと3人揃ってバラエティ「知ってるお兄さん」に出たりもしていました)。とにかく若手の実力派俳優たちがこぞって出演し、作品の出来を決定づける演技を披露しているのが特筆すべき点だと思います。特にキム・ヘユンのこじらせ倒したガリ勉優等生イェソは秀逸。非現実的なまでに性格が悪いのですが、自分の正しさを信じて疑わず、そんな中でウジュにほのかな恋心を抱いてしまう。いろんな表情を矛盾なく見せられるのがすごいなと思いました。ヒステリーを起こして泣きわめくシーンも癇癪の行き場を失った子供そのもので、受験の狂気を象徴するイェソの存在感なくしてこのドラマは成立しません。

もちろん母親たちの闘いが作品の大きなテーマであり、見事なまでに十人十色な母親たちのキャラクターがまた素晴らしい。これだけ登場人物が多いのにファミリーごと見分けがつくのはひとえに母親キャラがバラバラだからという気がします。子のためを想う親心、自分のプライド、夫や姑の視線といったものの境界が母親によって違って、当然子供たちの性格によっても異なるので、そのグラデーションこそが本作の真骨頂。また、そう簡単に各自の信念が変わることはないですが、他の価値観と交わることで少しずつ変質していく様子は人間らしさがあって、そもそもの浮世離れした世界観とのギャップがさらに面白さを生むのだと思います。

私自身は日本でも高校受験の経験しかないので韓国の大学受験の過酷さは想像すら及ばない感じですが、人生の大きすぎる分岐点を迎えるのに高校生という年齢は本来まだ未熟なのかもしれない気がしました。だからこそ親の介入は必要でもあり、一方で親が子供の視界を限定してしまったらそれは悲劇で、なんだか答えの出ない迷路のようです。「親が絶対に正しいわけではない」と子供が明確に理解するにもやはり成熟は必要なのです。

今が足りないから上を目指そうとばかりすると不幸なので、現状もそれなりに幸せかもしれないと考えてみるのも大事かもしれません。想像以上に思うところの多いドラマで、余韻が残りました。


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