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「その男の記憶法」 - 忘れることができない男と陰があるから眩しい現在

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本当は「君は私の春」を観たときにこれも観たいなと思っていたのですが、なんとなくスイッチが入らず観れていなかった一本。ですがいざ観始めると独特の優しさと少しだけ恐ろしさの入り混じる不思議な温度の世界。「君は私の春」で感じたのと同じ感覚がありました。キム・ドンウクという役者の成せる技なのでしょうか。たくさんの感情がすべて静かに穏やかに濃縮されていくのです。そして今回はヒロインであるムン・ガヨンの華やかさとの出会いがより一層新鮮な面白さを生み出していました。妙に癖になるドラマです。

ニュース番組でアンカーを務めるジョンフン(キム・ドンウク)は、冷静沈着でスマートに仕事をこなしていく完璧男。番組に出演するゲストは大物であろうと容赦ない質問で追い詰めます。ですが実はジョンフンは見たもの全てを記憶してしまう「過剰記憶症候群」という病気を抱えていて、ふとしたきっかけからでも過去の出来事を今目の前で起きているかのように思い出してしまい当時の感情までありありと蘇るのです。ジョンフンにはかつて恋人を目の前で喪った過去があるのですが、その時降っていた雪を見ると当時のことを思い出して車の運転もままならなくなってしまうほど変わらない痛みを抱え続けています。

そんなある日、ジョンフンの番組に何かと炎上しがちなお騒がせ女優のハジン(ムン・ガヨン)がゲストでやって来ることに。あまりにも自分に正直で天真爛漫といった感じのハジンに苛立ちすら感じるジョンフンでしたが、ハジンの発したふとした言葉が彼の亡くした恋人が口にしていた言葉だったので耳を疑います。

その後、局長(チャン・ヨンナム)に呼び出されてハジンと食事することになるジョンフン。どうやらハジンはジョンフンに対して好意を持っている様子で、しかもそんなふたりの姿がパパラッチに撮られてしまいます。不本意な熱愛報道が出てしまいますが、ハジンはここぞとばかりに報道を認めるような発言をし、ジョンフンも迂闊に否定できない状況に。結局ハジンの主演映画が公開終了するまでは付き合っていることにすることになります。

初めこそあり得ないと思っていたジョンフンですが、無邪気で明るく、時折なぜか死んだ恋人の面影を見せるハジンのことがどうしても気になっていきます。すると次第に分かってくる数奇なふたりの因縁…。

ジョンフンとハジンを繋ぐ運命が、分かってくるとシンプルなのですがとても丁寧に織り込まれていて、話が進むほどに惹かれあっていくふたりなのに、それに伴って困難が待ち構えているのが見えてきて、一筋縄では行かない特別なロマンスの展開を感じさせます。恋愛模様だけに焦点を当てれば静かにじっくりと発酵していくような物語。そこに少しサスペンスというか、ちょっとヤバい人が混ざってくることで抑揚が生まれます。ヤバい人たちは引くほどヤバくて、よくもまあそんな奴ばっかり引き寄せて…と悲しくなるほど。ただ事件や問題はそれ自体が重要というよりも、ジョンフンとハジンがそれでも変わらない想いを築くためのマイルストーンみたいなものなのです。ちょっと突拍子のない話もところどころある気はしますが、そういうのも全部ふたりの道のりなので愛しく感じました。

ハジンはごく当たり前の人間の感情として恋のありように悩みます。ジョンフンは、普通の人なら言える「時間が解決してくれる」が通じないわけで、その設定が終盤で特に面白いなと思いました。時が経っても彼の想いは決して色褪せることができないのです。だからこそ、大事なのは今を愛せるかどうか。迎えるエンディングは素敵です。「恋人にインタビューするジャーナリスト」の図ってたまにあるかもしれないですが、思いのほかときめきますね。

サイドで展開されるジョンフンの後輩記者とハジンの妹とのラブストーリーも可愛らしくて癒されます。あとはチャン・ヨンナム演じる局長のキャラクターがカッコいい女!という感じで好きでした。チャン・ヨンナムは最近怖い役でばかり見ていたのもあって余計に。

ものすごい沼にハマるタイプのドラマでは必ずしもないのですが、見終わって「ああ好きだな〜」とじわじわ来る一本です。キム・ドンウク自体がそういう存在なのかもしれません。

余談ですが1話の冒頭でロウン(SF9)が出てきて地味にツボりました。


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喜怒哀楽ドラマ沼暮らし

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