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「君は私の春」 - 同じ根を持つ癒しと罪の不思議な共存

★★★★★

事前の情報だけでは想像のつかない広がりを見せるドラマ。要素で言えば「椿の花咲く頃」に近しい印象をおぼえましたが、染み渡るような大人のラブロマンスと殺人を軸に研ぎ澄まされたサスペンスが、融合するでも分離するでもなく、それぞれのアイデンティティを保ちながら共存する世界観はなんと呼べばいいのでしょうか。初めてリンキンパークの音楽を聴いて、「これはミクスチャーと言うのだ」と教えられたときのような感覚です。日本のドラマにはなかなかないつくり。

個人的に大好きな「風船ガム」の脚本家作品ということもあって、ラブストーリーパートに期待していましたが、それ以上に新しい面白さに触れた感じがしました(「風船ガム」もこちらも視聴率が奮わなかったのは淋しいところ)。

クズ男ばかりが寄ってくることを自覚しながら、新たな出発を夢見て99ビルディングの4階に引っ越してきたダジョン(ソ・ヒョンジン)は一流ホテルでコンシェルジュとして働いています。しかし99ビルディングでは入居直前に殺人事件が起きており、なんだかいわくつきな状況に。そしてそこで出会うのは3階で精神科の医院を営むヨンド(キム・ドンウク)。隠したい人の気持ちまで言い当ててしまうヨンドに居心地の悪さを感じるダジョンですが、そんなヨンドと、もう一人やたらと彼女に言い寄ってくる無邪気だが得体の知れないところがあるジュン(ユン・バク)によって過去を思い出すことになっていきます。

ゆったりした時間をまとい、日々誠実に患者たちと向き合っているヨンドと、こぼれる笑顔が可愛いのになんだか人を不安にさせるジュンという二人の男性の対比が面白い序盤。ダジョンは次第にジュンに心を許すようにもなっていき、「あ、この二人のロマンスなのか?」と思わされます。

ですが癒しすら感じるラブストーリーの合間合間にちょっと鳥肌が立ちそうなサスペンスが放り込まれてくるので油断できません。最初の数話が結構濃密で、人間関係を何層も積んでくるような感じがありますが、そこで起こる衝撃の事件。そうか、殺人事件から始まっているんだった、と現実に引き戻される感じがします。

ですが面白いのは、そんな背景を前提にしつつも物語の地盤はやっぱりラブロマンスだということ。徐々にダジョンとヨンドの間に愛のような感情が見え始めてくると、一気にそちら側に意識を持っていかれました。やっぱりこの脚本家さんの恋愛描写が好きなのかもしれません。大人の恋でありながらも、童心を忘れないというか、二人がとても可愛らしいのです。

殺人事件、そしてその犯人が誰なのかという謎は終盤まで追い続けることになりますが、その状況にあっても着実に進行していく主人公ふたりの恋模様。当然のようにあちこちから難題は降りかかってくるものの、すべて絆がステップアップするために踏み固めていく土台なのです。

主人公たちは子供のころに負った心の傷をそれぞれに抱えていて、互いの傷に触れながら心を深めていく。その様子はすごく滲み入るものがありました(ダジョンが号泣するシーンで一緒に泣いてしまいました)。

ラブロマンスとサスペンスのミクスチャーと言いましたが、根本的にはその両方が過去から繋がる痛みと愛への渇きをあらわしているように思います。二つの側面から掘り下げていく幼少期に閉じ込めたトラウマがいつしか結びついて、気持ちを分かちあって、それぞれの距離感で互いを癒していく。物語の幹はそういうことなのかもしれません。事件は起こるものの不必要に派手ではなく、あくまで焦点は登場人物たちの心模様。

個人的には、ジュンというキャラクターが哀しくて愛しく、最終的にはそこに結構ハマっていました。ヨンドの海のように深い優しさと恋にはしゃぐ可愛らしさもまた、話が進むにつれてたまらなくなっていきます(キム・ドンウクの中毒性が思いのほか強い)。そしてダジョンの、強さと脆さ、共感できる普通さを兼ね備えたヒロイン像がうまく世界を日常の範囲にまとめてくれています。

人によって評価の分かれそうな作品ではありますが、とても気に入って既に2周目に突入している私です。


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