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『湯気にとける香り』

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「湯気にとける香り」



今、わたしの手元に2つのフレグランスがある。

どちらも実は同じもの。


だけど

一つは、

お店に行けばまた会える店員さんから買ったもので

もう一つは、

もう会えないかもしれない、あの店員さんから買ったもの。


何度かお世話になってたくせに

居なくなるなんて知らなくて。

ただ、その入れ物が空になったら

また買いに行けば良い、と

・・・そう思っていた。


「彼女は配属が変わりました。」

あの店員さんを訪ねて行って知る、

衝撃の事実。


自分にとって必要なものだから

私はそこで買い続けるのだけど。



買い物が終わった、私。

「新しくお話ししてくれた店員さんも、

良い人だったな、

これからもお願いしよう」

って

そう思う。



帰宅して、改めて、

お気に入りのそれを、付けてみる。


蓋を開けた時に広がる香りが

いつものアレと一緒で安心する。


だけど・・・


お風呂に入って、

シャワーで流したら

ふいに、なんだか”違う”気がした。


あの人から買った”それ”は


水気を帯びたら

湯気とともに空間に広がって


華やかでやわらかい香しさが

身体を包み込んでくれる・・・


そんな気がしていた。


付けた時から、私の身体を離れる時まで

始終、良い心地にさせてくれる

すごいものだった。


それに対して


新しく手に入れた”これ”は

何の変哲もなく、当たり前に

シャワーの水と共に

するりと流れていく。


私の身体を離れても

気付かない。

鼻をクンクンとさせてみても、

残るのは水のにおいだけで。


私だって、愚かじゃない。

知っている。


あの店員さんから買ったそれと、

新しい店員さんから買ったこれは

全く同じ商品であることを。

2つは何も違わないことを。


頭では知っているのだから、

いつかは身体で理解できる日がくるのだ。



目を覚まそう。

現実と向き合おう。


こんな出会いと別れは

ありふれている、

陳腐な出来事。


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本日も最後までお読みいただき、

ありがとうございました!

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