「起業家的」と「伝統的」というマネジメントの違い
シナリオプランニングからの戦略実行時に遭遇する課題
シナリオプランニングに取り組んでいる企業が、せっかく時間をかけてシナリオを作成し、それを元に戦略を策定したにもかかわらず、いざ戦略を実行する段階になって、シナリオでやったことが活かせなくなってしまうことがある。
それにはいろいろな原因があるが、そのひとつとしてマネジメントスタイルを意識していないことがある。
シナリオプランニングに取り組んだ結果、不確実なテーマに対応できるような事業に取り組んでいくことを決めて動き出した。しかし、そのためのマネジメントは、従来型のスタイルまま。
「新しき酒は新しき革袋に盛れ」のとおり、新しいことに取り組む場合、マネジメントのやり方を見直すことにも目を向けなければいけない。
不確実性を元にしたマネジメントの分類
私が2015年に翻訳した『成功するイノベーションは何が違うのか?』では、既存の組織、特に大企業や中堅企業でイノベーションの取り組みを行う際には、求められるマネジメントスタイルの違いを意識しなければいけないとしている。
その違いを表したものが次の図だ。
この図は横軸で個別の製品を市場に投入してからの時間(右にいくほど時間がたっている)、縦軸はその製品の成熟度(上にいくほど成熟している)を表している。
ただ、図はあくまで概念的なもので(と自分は受け取っている)、注目すべきは、その製品なり事業が抱えている「不確実性」が高いのか、低いのかの違いだ。
右側の「不確実性が低い」製品とは、市場である程度の認知を得て、一定の顧客がついているような製品が相当する。一方、左側の「不確実性が高い」製品は、例えば新しいカテゴリーの製品など、まだ市場での評価が定まっていないような製品が相当する。
もっとざっくり理解するのであれば、右側は、その企業が長年取り組んできた製品、左側は、その企業にとっての新製品くらいでイメージする。
伝統的マネジメントと起業家的マネジメントの違い
そのように分類した場合、図に書いてあるように
・不確実性が低い製品→伝統的マネジメント
・不確実性が高い製品→起業家的マネジメント
という区別をする必要性が説かれている。
伝統的マネジメントは、製品が市場に出てしばらくたち、いろいろなことをひととおり経験しているので、マネジメントしなければいけない点が明らかになっている。
例えば、生産管理だったり、顧客サポートだったりという具合だ。そういう場合は、それぞれの分野の専門的な知識や経験を踏まえて、どちらかといえば計画的なマネジメントが可能になる。
一方で、起業家的マネジメントでは、何が起きるかわからない。
課題が起きるのは、開発プロセスかもしれないし、生産プロセスかもしれない。市場に投入してから、対顧客部分でさまざまな対応が必要になるかもしれない。
そもそも、市場に投入する前に、仮説検証を繰り返しながら、製品のコンセプトを見直しを何度も繰り返さなければいけないかもしれない。
このように何をマネジメントしなければいけないのかが読みにくい(=不確実性が高い)場合は起業家的マネジメントが必要になる。
起業家的マネジメントでは何を行えばいいのか?
それでは、起業家的マネジメントを行うマネジャーは、何をやれば良いのだろうか?
同書では、具体的に4つの役割を示しているが、中でももっとも重要なものとして「トップの意思決定者ではなく、トップの実験者となる」ことを進めている。
起業家的マネジメントが必要とされる状況では、マネジャーは部下からあがってきたものを見て「良い悪い」を判断する意思決定者ではない。
マネジャー自ら、顧客に対して仮説検証を行い、メンバーと一緒にその結果を検討するような実験者として振る舞うことが重要な役割なのだ。
つまり、社内にいて情報や報告があがってくるのを悠長に待っているのではなく、自ら顧客の元におもむき、五感を使って判断をして、頭をひねって仮説をブラッシュアップしていかなければいけないのだ。
起業家的マネジメント型の組織へ
ここまでは、上で紹介した図の意味を、『成功するイノベーションは何が違うのか?』に書かれている内容に忠実に(ほんの少し解釈は入っているが)紹介した。
もう一歩踏み込んで、不確実性が高い製品や事業をマネジメントする際に必要なことを考えていってみよう。
■任せる人材を見極める
まず一番大事なことは、組織の中で「伝統的マネジメント」を任せる人材と「起業家的マネジメント」を任せる人材を分けて考える必要があるということ。
大企業の中でも、既に整っている仕組みを運用していくことが得意な人もいれば、新しいことをゼロから考えていくことが得意な人もいる。
その得手不得手を見極めて、「伝統的」か「起業家的」のどちらの役割を担ってもらうのかは考えなければいけない。
■人事評価を分けて考える
このように同じマネジメントでも役割を分けて考えるとなると、役割に応じた人事評価も分けて考えていかなければいけない。
どちらも同じ基準で評価をしてしまうと、事業として比較的安定している「伝統的マネジメント」の役割を担うマネジャーの方が良い評価になる可能性が高くなってしまう。
同じ組織の中でそういうことが起きてしまうと、「起業家的マネジメント」の役割を任された人は「冷や飯を食わされた」ととらえてしまい、誰もその役割をやりたいと思わなくなってしまう。
そうならないためにも、単にマネジャー職を任せるだけではなく、組織の仕組みから考えなくてはいけない。
■2者択一ではない
この本の図では、説明の都合上、単純に不確実性を高い/低いに分け、それに対応する「伝統的マネジメント」と「起業家的マネジメント」という2種類に分けている。
ただ、こういう単純な分け方が、あらゆる組織に当てはまるとは限らない。
自社を取り巻く外部環境や自社の内部環境、自社の戦略等を踏まえて、どのような役割を設定するべきなのかを考えていかなければいけない。
【PR】シナリオプランニングの意味やつくりかたをコンパクトに解説した実践ガイドブックを公開しています。
Photo by Denise Jans on Unsplash
この記事が参加している募集
サポートいただき、ありがとうございます。いただいたサポートはより善い未来を創るための資金として、知識や知恵の仕入れのために使っていきます。