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 今回は、筆者と同時期にパレスチナとヨルダンに留学していた友人に寄稿していただきました。寄稿していただき、本当にありがとうございました!
 また、パレスチナについてはラーマッラーにあるビルゼイト大学についても次の記事で紹介しますので、そちらもぜひご覧ください。

1. はじめに


 私は2019年10月~12月パレスチナのナーブルスという町にあるナジャーハ大学2020年2月~3月中頃ヨルダンの首都アンマンにあるヨルダン大学にアラビア語の私費留学をしました。本来は5月下旬までヨルダンで留学する予定でしたが、コロナウイルス蔓延によるヨルダン国境閉鎖のため3月中旬で帰国しました。
 以下に私の留学生活を留学報告書という形でまとめます。


2. パレスチナでの留学生活


① 日本での準備


 AIG損保の海外留学保険(海外留学保険)に加入しました。食生活や文化の違いから留学を初めて1カ月ほど経つと、かなりの確率でお腹を壊し重症化することも考えられます。万が一のことを考えて留学保険には加入しておくと良いです。また私は念のためA型肝炎・破傷風・狂犬病・腸チフスの予防接種を受けました。ワクチンによっては複数回の接種を必要とするものがありますので、ご注意ください。私は梅田トラベルクリニックで接種しました。

 健康面以外では、留学前に少しだけパレスチナ方言の学習をしました。アラビア語には書き言葉(フスハー)と話し言葉(アンミーヤ)が存在し、両者の差は大きいです。日本でフスハーを勉強したとしても現地ではフスハーなど一部の教養人を除いて誰も話しませんので、必要最低限のアンミーヤは事前に学習しておくと良いです。タクシーやレストランなど大学以外における現地での生活は基本的にアンミーヤを使うとお考えください。以下おすすめの参考書です。
・『アラビア語パレスチナ方言入門』大阪大学世界言語研究センター
・『アラビア語エルサレム方言文法研究』 大阪大学世界言語研究センター

 どちらとも大阪大学の依田先生が執筆しています。『アラビア語パレスチナ方言入門』の方が学習しやすいと思いますので出発前に是非勉強してみてください。

② 治安


 パレスチナ自治区(ヨルダン川西岸地区)の治安に関しては、私が3カ月滞在している限りでは全く問題なかったです。スリなどの軽犯罪もありませんでした。ただし、夜遅くに一人で町を歩くことや同伴者なしで難民キャンプを訪問することは避けてください。

 また検問所や入植地周辺では時折イスラエル軍とパレスチナ人との間で衝突がおきますので、絶対に近づかないでください。
 エルサレムは至る所に武装した軍や警察がいてかなり物騒に思われますが、治安自体は特に問題ないです。ただしどこにいても何が起こるかは分かりませんので、油断はせず、最大限の警戒はしてください。

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エルサレム近郊にあるカランディア検問所

③ 生活

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ナーブルスの遠景

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オスマン帝国のスルタン・アブドゥルハミト2世の時計台。帝国領の各地に建設され、一部は現存している。


 私はナーブルスという町で生活しました。ナーブルスはエルサレムから北に50km離れたところに位置し、人口は15万人弱と小さな町ですが、その歴史はローマ帝国にまで遡ります。「地球の歩き方」には掲載されていませんが、旧市街がとても美しく、旧市街の中にあるお菓子屋「アル・アクサ―」のクナーフェは広大なアラブ世界の中で一番美味しいはずです。クナーフェ以外にもお菓子屋が町の至る所にあり、どれも美味しいです。

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 またナーブルスのゲリジム山には「善きサマリア人」で有名なサマリア人の集落があります。サマリア人博物館も訪れる価値があります。

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 留学中はナーブルス旧市街まで歩いて20分ほどのアパートでシェアハウスをしました。家賃は1カ月光熱費合わせて2万5千円ほどで、家具・家電付きでした。インフラ設備はそれほど安定しておらず、停電や断水が何度か発生しました。

 物価は日本よりも安いです。(エジプトよりは高いです)ペットボトル500mlが60円ほど、ファラフェルというサンドウィッチが100円ほどです。ただし、ベツレヘムなどの観光地に行くと観光地価格が適用されます。また、エルサレムの物価はかなり高いです。日本とほぼ変わらないくらいの物価で、先程のファラフェルサンドウィッチが600円ほどです。

 携帯電話に関しては、留学前にiPhoneをSIMフリーの状態にして、現地でSIMカードを購入しました。イスラエルのSIMカードはパレスチナではほとんど使えません。旧市街や大学近辺に携帯電話屋はあります。

 ベングリオン空港から入国する際に何もトラベルがなければ3カ月の観光ビザがもらえます。パレスチナで3カ月以上留学する場合は、現地でビザの延長手続きが出来ないので、一度他の国に出国する必要があります。その後再度入国し、ベングリオン空港で運が良いと再度3カ月の観光ビザがもらえます。私の知り合いでも2回目の入国時に疑われて1週間のビザしか貰えなかった人がいます。入国時審査官に入国の目的を問われた際は絶対に「パレスチナでアラビア語の勉強」と言ってはいけません。「イスラエルの観光」と言った方が賢明です。最悪の場合入国を拒否されますのでご注意ください。ベングリオン空港からナーブルスへは、一度エルサレムに行き、その後ラマッラー経由で行くことができます。

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 ヨルダン川西岸地区に入るとき(例えばエルサレムからラマッラー)は検問所で何のチェックもありませんが、出るときはパスポートチェックがあります。特に質問などはされませんが、バスではなく徒歩で検問所を通過する際は身体検査と荷物検査があり、時間帯によっては待ち時間が長いです。また検問所は稀に閉鎖されますのでご注意ください。

④ 勉強

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 ナジャーハ大学に設置されている留学生向けのアラビア語教育機関で勉強しました。授業は週10コマ(9時~12時40分)で、授業は全てアラビア語で行われます。プログラムは春もしくは秋の3カ月プログラムが一般的で、授業のクラスはレベル分けに応じて振り分けられます。授業内容はレベルによりますが、リスニングやスピーキングなどの授業に加えて、新聞記事を読む授業やパレスチナ方言の授業もあります。
 私は週10コマ全てパレスチナ方言の授業を受けました。このように個人の目標や要望に応じて柔軟に対応してくれます。フスハーの教科書はもちろんですが、パレスチナ方言の教科書も用意されています。
 ナジャーハ大学への留学は「中東LINK」という留学斡旋会社を利用しました。学費などの詳細はこの会社のホームページを参照してください。

⑤ その他


 パレスチナには私が留学したナジャーハ大学以外に、ビルゼイト大学(ラマッラ―)があります。毎年東京外大から数名この大学に留学しています。またナーブルスのProject HopeというNGO団体も施設内でアラビア語を教えています。私も数回この施設に行きましたが、寮も備えついていました。詳しくはFacebookで「Project Hope Official Page」と検索してください。

 
3. ヨルダンでの留学生活

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アンマンの遠景

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ローマ劇場

① 治安


 首都アンマンの治安も全く問題ありませんでした。しかしながら、油断はしないでください。

② 生活


 ヨルダン大学まで歩いて20分ほどのアパートでシェアハウスをしました。家賃1カ月2万7千円ほどでした。パレスチナとは異なり、停電・断水はほとんどありませんでした。1カ月の生活費は家賃込みで5万円ほどです
 物価は日本よりは安いですが、パレスチナよりは高いです。大学周辺には安いレストランがありますが、ダウンタウンのレストランは比較的高めです。
 ヨルダンでもSIMカードを購入しました。1カ月2千円ほどです。大学周辺に携帯電話会社がいくつかあるので、簡単に購入できます。

 都市間移動は基本的にバスです。バスを使うととても安いです。私は近距離移動(例えばアパートからダウンタウンまで)の際Uberを使用していました。もちろんバスやセルビス(乗り合いタクシー)でも行くことはできます。タクシーは悪質な運転手が一定数いますのでお気をつけください。

 ヨルダンに空路や陸路で入国した際に1カ月のアライバルビザを無料で取得できます。更に現地の警察署に行き、ビザを3カ月に延長する手続きをします。その後は第三国(エジプトやレバノン、もちろんヨーロッパなども)に出国し、再入国する際にまた1カ月のアライバルビザを取得する方法とイカーマと呼ばれる1年間の滞在ビザを取得する方法があります。ただし、3カ月毎に出入国する場合、パレスチナとの国境ではアライバルビザは取得できません

③ 勉強

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 ヨルダン大学のLanguage Centerで勉強しました。登録期間中にネットから申し込み、現地でお金を払えば受付完了です。レベル分けテストの結果に応じて、レベル1からレベル8に振り分けられます。登録期間中は自分でレベルの変更が出来ますので、この期間中に良い先生を選ぶことが重要です。授業はグループ授業で、だいたい1クラス10人ほどです。
 春学期(2月~)と秋学期(9月~)は16週間で、週10コマ(9時~12時40分)です。1学期20万円ほどです。授業内容はクラスにもよりますが、リーディング・リスニング・スピーキング・文法の授業など様々です。週に1コマはアンミーヤ(ヨルダン方言)の授業がありました。

④ その他


 ヨルダン大学周辺には質の良い語学学校がいくつかあります。私は通っていませんが、多くの留学生は大学が終わった午後にこれらの語学学校に通っているそうです。

4. 最後に


 日本で「パレスチナ」と聞くと、テロやガザ地区のイメージが先行してとても治安の悪い場所を想像するかもしれません。私もパレスチナを訪れる前はそのようなイメージを抱いていました。しかしながら、私の滞在中、危険な目には一度も遭いませんでした。私が滞在したナーブルスは観光客がとても少ない町です。そのためアジア人はかなり目立ってしまうので時には差別的な発言を受けると思います。しかしながら、大多数のパレスチナ人はとても優しく、我々をいつでも歓迎してくれます。留学中は是非たくさんの場所を訪れてください。様々な出会いがあると思います。
 私はパレスチナ・ヨルダン共に語学学校ではなく、大学(の中の付属機関)に留学しました。大学は同年代の学生がいますので、現地の友人がつくりやすい環境だと思います。私が留学した両大学ともに「ランゲージパートナー制度」があり、留学生に基本的に一人ずつ現地の大学生がつき、アラビア語やアラブ文化などを教えてくれます。反対に私は日本語や日本文化などについて話しました。日本人には日本文化に強い興味のある学生がつくと思います。また大学には世界中から留学生が集まるので、留学生の友人もできる可能性が高いです。大学は基本的に集団授業ですので、自分のペースに合わせることはできない、時間の融通が利かないというデメリットはあります。一方、語学学校はマンツーマンで授業を受けることができますので、自分の学びたいことを学べますし、授業の振替も基本的にできると思います。
 パレスチナ・ヨルダンでの留学生活について何か質問がありましたら、以下の連絡先に連絡してください。またアパートの大家さんも紹介できます。
 最後までお読みいただきありがとうございました。

(筆者連絡先:twitter @ilove_brunei)

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