見出し画像

 今回は、パレスチナの暫定首都で行政の中心地である・ラーマッラーに留学されたツイッターのフォロワーの方に寄稿していただきました。直接の面識が無かったにも関わらず(ただ間接的にはあったのですが…笑)、申し出ていただき本当にありがとうございました。前回のパレスチナの他都市・ナーブルスの記事とも比較して読んでみていただければと思います。

はじめに

 こんにちは。私は2018年の秋から19年の春にかけて約半年間パレスチナのビルゼイト大学に留学していた、東京外国語大学のアラビア語科に通う者です。パレスチナは日本の大学生の留学先としてメジャーとは言い難いですが、本稿は教授や先輩からパレスチナ留学に関する情報を得にくい大学に通っている方・学生ではない方でもパレスチナ留学を検討して頂ければ幸いであると考え、執筆しました。少しでも参考になれば幸いです。

留学の概要

 ビルゼイト大学はパレスチナ西岸地区の中心都市であるラーマッラーの郊外ビルゼイト村にある総合大学で、ナーブルスという街のナジャーハ大学と並び西岸で最も教育レベルが高いとされている機関です。

画像1

ビルゼイト大学遠景。ウィキペディアより。
 
 この大学は文学部に付随するかたちでPAS(Palestinian Arabic Studies)プログラムという外国人向けのコースを開講しており、外国人留学生の多くはこのコースに留学をします。アラビア語の授業はフスハー(正則アラビア語)とパレスチナ方言で、3から4段階の習熟度別のクラス分けがされます。また、英語で行われる社会科学系の授業が毎学期1から2講座開設されます。それぞれの授業は2時間です。

 アラビア語の授業は、担当の先生によって授業の質ややり方がかなり違うのが難点です。合わない、と感じたらすぐにオフィスに申し出てレベルを変えてもらうことをお勧めします。社会科学の授業のうち「Palestinian Question」という授業は、イスラエルの刑務所で7年服役したという経歴を持つ先生の凄みのある話が聞けるのでオススメです。ただしこれらの授業は、ヨーロッパや英語圏からの留学生が多数派で英語力に関して配慮がされないので、関連語彙を習得するまでは苦労する可能性があります。

 パレスチナ自治区は国境のコントロールがイスラエルにありますが、イスラエルはパレスチナに留学する学生にビザを出すことは基本的にありません(ビザについては詳しく後述します)。そのため、ビルゼイト大学に留学する学生は90日の観光ビザで滞在します。これに配慮してPASプログラムの各学期も3ヶ月ごとになっています。

留学の目的

 留学生のほとんどはフランスやドイツから来たヨーロッパの大学生です。多くの学生が国際政治や難民問題など自分の専攻・研究分野に関連してアラビア語を勉強しにきています。

 他に、他国で生まれ育ったパレスチナにルーツのある若者が、アラビア語やパレスチナについてを学びたいという目的で留学に来ているパターンも多かったように思います。

 私は正則アラビア語とパレスチナ方言の学習が目的です。ビルゼイト大学を選んだ理由は主に以下の三点です。

1、パレスチナ問題に興味があった
 アラビア語にプラスアルファでパレスチナ問題や難民問題についても学ぶ機会の多そうなパレスチナを選びました。

2、ラーマッラーは他の候補地と比べて開放的であると思った
 「開放的」というと誤解を生む表現ですがジェンダーや宗教に関して、エジプトのカイロやヨルダンのアンマンに比べればタブーが少ない印象です。

3、PASプログラムのオフィスは信用できそうだった
 メールを送っても返信がない、webサイトの更新が数年前で止まっているなどアラブ諸国の教育機関にはコンタクトが難しいところもありますがPASプログラムはオフィスのレスポンスがしっかりしており、全て英語で明快なやりとりが行われます。

画像2

ラーマッラーにあるPLO(パレスチナ解放機構)を長年率いたヤースィル・アラファートの墓。ウィキペディアより。

学費・住居費・奨学金

 学費は主に米ドルで支払います。(ヨルダンディナールも受け付けています)
アラビア語 各700ドル(週4回×2時間×3ヶ月)
その他   各600ドル(週2回×2時間×3ヶ月)

の学費に加え、毎学期の登録料や希望者のみ遠足の費用がかかります。詳しくはPASのホームページをご覧ください。

 家賃は当初、大学が用意するアパートに他の留学生と住んでいました。月に200〜300ドルで、大学の徒歩圏内に手配してもらえます。
 留学後半はラーマッラーに引越し自分で探したアパートをパレスチナ人や外国人とシェアして住みました。月200〜300ドル前後に加え電気代がかかります。(パレスチナの家屋は冬場に冷えるので11月から2月の電気代は嵩みます)
 自分でアパートを探す場合、Facebookのグループである「secret of Ramallah」が便利です。部屋を貸したい人やルームメイトを探す人が書き込みをしています。ただし、大家さんやルームメイトによっては異性の入居や訪問を禁止する方が比較的多くいます。事前に確認してください。

 また、ラーマッラーから通う場合はセルビスと呼ばれるミニバスで大学に行くので往復300円ほどがかかります。

 私は東京外国語大学の交換留学生として留学したため、学費は日本で納め、PASの学費は免除されています。またこの交換留学生が申請できるJASSOの奨学金を月8万円貰っていました。しかしトビタテなど他の奨学金でより金額が多く手厚いものがあります。また、現在は東京外国語大学とビルゼイト大学間の交換留学は一時停止していると聞きました。(2019年度)

現地での生活

 ビルゼイト村は羊の大群が道を歩いているようなのんびりとした場所です。大学の近くに住んでいた頃は、お昼ご飯をビルゼイトの学食に売っている150円程度のサンドイッチで済ませ、放課後は近所のスーパーやミルクシェイク屋に行って買い物をし、昼寝や散歩や宿題をしていました。アラビア語の授業が8時から12時、社会科学系の授業が2時から4時だったので学校から戻ると疲れてぐったりした記憶があります。徐々に友達ができると、家にお呼ばれして行ったりというイベントが発生しますが、基本的にどうぶつの森並みのスローライフでした。

 ラーマッラーに引っ越してからはカフェや人の家に行って遊ぶ機会が増えました。ビルゼイト大学の学生が居座ってボードゲームをしたりシーシャを吸うカフェがあり、そういった場所へ行くと友達を作る機会にもなります。

 またラーマッラーの街で開催するイベント(フリーマーケットや映画上映)は基本的にFacebookやInstagramで告知されることが多いので活用することをお勧めします。

留学前にした方が良かったこと・留学後の後悔

 一にも二にも、アラビア語とパレスチナに関する勉強です。
 語学は、事前に学習できていればいるほど、現地で伸びるのも早いと思います。日本で勉強できることをしてから留学することをお勧めします。私は日本では劣等生だったので、そこそこの伸びでした。また、パレスチナについて知りたくて留学に行く人は事前に「パレスチナを知るための60章」(明石書店)等の基本的な図書を読んで行くと良いと思います。

 留学後に後悔したことは、やはり「なんであの時〇〇しなかったんだろう」ということです。留学中はそれなりにいっぱいいっぱいだったのかもしれません。でも、何度も出入国が可能だと決まっている場所では無いこともあり、もっとアクティブに色々活動すればよかったなと思うことはあります。(危険がない限り)誘われたらやってみる、行きたいところには行ってみるということをお勧めします。特にパレスチナ西岸地区は県や地域によって占領のレベルが違い、ラーマッラー周辺にいるだけでは見えてこないことが沢山あります。また、私は殆ど出来なかったのですが、イスラエル側に旅行に行ってイスラエルに友人を作っておくことも大切なことだと考えます。

出入国

 パレスチナ留学の一番のネックは、出入国です。個人的にはこの点だけが、ほかのアラブ諸国留学と比べて劣る点だと思っています。基本的にビルゼイト大学の学生には学生ビザが出ません。入国の際には主に以下の三つの方法があると考えられます。

1、観光客のフリをして入る

2、ビルゼイト大学に行くので観光ビザが欲しいと正直に伝える

3、イスラエル側の施設や学校にレジスターする

 ビルゼイトに留学する多くの人は1の方法で入国します。ビルゼイト大学はあまりイスラエル当局から良い印象のない大学のため、正直に伝えるとビザが下りない可能性があるからです。しかし、1の方法では入国審査で嘘をつくということであるので、嘘がバレればビザが下りない可能性は高いです。携帯の中身等は見られても良いように整理しておくのが良いとされています。また、身なりが整っていないと疑われやすいという噂もあります。滞在するホテルや観光する予定の地名を言えるようにしておくこと、3ヶ月以内の帰りの便の予約表の提示も求められることがあります。

 2の手法で成功した人もいます。嘘をつく必要も、嘘のホテルの予約画面や航空券予約表も要らないので、身軽ではあります。なぜビルゼイトで勉強するのかを聞かれます。

 3はほぼ確定でビザが出る方法ではありますが、レジスターした語学学校などに登録料・授業料・キャンセル料などを払わなくてはならないため、この方法でビルゼイトに来た方はあまりいません。

 いずれの手法を使っても、運が悪ければビザは出ませんし、運がよければ出ます。入国審査で落ち着いて感情的にならずに受け答えをする、という点以外で我々にできる努力はありません。考え込まずにリラックスして臨んでください。

後輩にメッセージ

 概して、パレスチナは留学先としてオススメです。ビルゼイトやラーマッラーにいる限り、生活の豊さも治安もそれなりに安定しています。友達が出来れば出来るほど彼らの置かれた境遇を思い精神的には苦しく思うこともありましたが、基本的には明るく過ごせる場所です。ぜひご検討ください。

 また、最後になりますが数点、日本から持っていって良かった!持っていけばよかった!と思ったものを書いておきます。

・蚊除けグッズ:ビルゼイトは9月から11月ごろにかけてびっくりするほど蚊が出ました。電気式の蚊除けは現地でも売っていますが、薬が強すぎるし高いとの噂を聞いたのでスーツケースに余裕があれば日本で買っておくのがオススメです。

・ウルトラライトダウン等の防寒着:パレスチナの家屋は冬場は寒いです。暖房はガス式か電気式で費用も嵩みます。室内での重ね着が必須です。

・ワンデーコンタクトレンズor眼鏡:現地では急遽友達の家に泊まりになることが多い&保存液が輸入物でとても高かったので目が悪い方はワンデーか眼鏡がおすすめです。

 上記は全て2018年から2019年の情報なので状況の変化もあると思います。あくまでご参考程度にお考えください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?