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【怪異事件】ハロウィン・パーティー

 怪談というより、ただの思い出話です。
 実際の出来事をもとにした話です。
 作中に出てくる地名や登場人物の名前を伏せさせていただきます。


 ハロウィンに近づいた頃、キャンパス内の大講堂でお化け屋敷を開催するのは生徒会の恒例だった。

 そう、数年前のあの事件まで。

 大講堂は地下一階地上三階建て、四角形の建物だった。
 ゲートをくぐってエントランスの両側にトイレと階段があった。
 二階には観客席への出入り口があった。
 そして三階まで登ったら、狭い廊下が見える。
 その両側に各6部屋で構築された部室エリアがあった。
 通称「大講堂前部エリア」、僕もここの常連だった。

 そして、一旦一階のエントランスに戻って、正面のガラス扉を開け、ロビーに入ると、白いタイルで舗装された空間が目の前に広がった。普段は壁際に折り畳み式の椅子を収納されているので、空っぽだった。イベントしか使われていないんだ。
 真正面はステージ、二階には三面の観客席が設置されてた。
 そして、ステージの両側にも階段があった、大講堂前部と同様、いや、一つ訂正させていただく。大講堂後部エリアは地下一階地上四階建てだった。しかし、地下一階しか使われていなかった。
 ちなみに、普段ロビーや観客席への出入り口は鍵かかっていた。


 大学一回生の頃

 台湾は8月末または9月を新学期の始めとする。大学のほうは特に遅い。例えばウチは9月中旬だった。 

 時は10月、とっくに秋に入ったとは言え、北回帰線より南に位置するこの町は、まだ夏のように蒸し暑かったんだ。

 僕はサークルの先輩から色々教われた。もちろん、キャンパスに起きる怪談・怖い話も聞いていた。
 うさんくさい話はあるけど、リアルな話もいくつあった。

 当時四回生の先輩は目を閉じて思い出そうとした。
 そして、淡々と語り始めた。

 「具体的に何年前の話かは忘れたけど、俺大学に入ったばかりの頃だった。ほら、今10月だろう。まもなくハロウィンだ。毎年この時期になると、この大講堂で生徒会はお化け屋敷を開催するんだ。通常、後部エリアで行うけど、当時の生徒会メンバーは特にやる気満々だった。前部エリアまで借りてイベントを行った。しかも、やっちゃいけないことまでやっちゃった。どっかで香炉を持ってきて線香を焚いたり、墓紙を散らしたり、冥銭を燃やしたりした。しかも、生の内臓、人間の髪の毛まで用意してしまった」

備考:線香や墓紙や冥銭など、前々回で紹介した台湾の祭祀で使われる法具や儀式だ。内臓や髪の毛を使用する場合は、何かの呪術のまねであることと考えられてる。

 「霊を招く儀式のような真似をやりすぎたあげく、マジヤバい存在を引いちゃった。数名の生徒は祟りを受けた。その後、除霊や浄化の儀式もちゃんと行われただと聞いたけど、霊場が不安定となり、特に主戦場だった大講堂の後部エリアには、あんまり近づかないの方がいいぞ」

 ぞっとした。何故なら僕らは大講堂の部室にいるからだ。


 時は流れゆく
 大学三回生の秋
 ある日、僕はサークルの書類を片付けたあと、大講堂三階にある部室を出た時は、夕日が沈むところだった。一階のエントランスは相変わらず賑やかだった。
 そうだ、もはや最終日を迎えたと、僕はふいに思った。
 まだ参加してないけれど、もう疲れたし、帰ろう。

 翌日
 学生食堂でブランチを食べている僕は、テレビで見慣れた風景を見た。ウチの学校じゃ!?
 部室に行くと、先輩は既にそこにいた。
 「おぉ、今日は早かったですね、いえ、つーか、先輩は一体何回生?」
 「おぉ、きよ君、おはよう、六回生って文句ある?」
 「いえいえ、ただ部室の地縛霊みたいな存在だなと思って...あっ痛いたいたいたいっ」
 先輩は笑いながら片羽絞を使った。効果抜群。
 まぁ、いつものやり取りだ。
 当時先輩は元幹部として、サークル運営に関する相談を受付する役割を演じているから、部室の鍵を持っていた。部室を使用する場合は必ず幹部がいるのがルールなので、いつも部室を開けてくれた、僕一回生のごろから、ずっと。結局、僕が卒業したまで、先輩はそこに居続けた。

 「そういえば、先輩はもう聞きましたか?」
 「ハロウィンの件だよな...あぁ、またか」先輩はため息をついた。

 これからはししょう・・・じゃなくて、先輩から聞いた話だ。


 さっきまで、スタッフの知り合いと対話してた。

 イベントの最終日の夜だった。

 21時になり、一般参加者は立ち去って、スタッフメンバーだけが残った。

 そろそろ片付けようと思うと、
 「最後だし、みんなで入ろう」
 外にいるメンバーたちは遊びながら片付けすることを決めた。

 大講堂の左側にある出入り口を入り、エントランスをくぐってロビーを一周し、後部エリアの階段をのぼって右側から出る、それを1ラウンドとした。
 血まみれのスタッフが白衣を着て現れ、お客を驚かせた。リハーサルと変わらないから、全然怖くなかった...と思いながら、二階で出口に向かって進んている途中、前方の女性スタッフは急に震えだした。そして、ドミノ倒しのように、腰を抜かした人も、震えながらしくしくと泣いている人も次々と現れた。

薄暗い廊下、悲鳴が響いていた。

 「ギャァァァァァァ」前方の女子が訳も分からず暴れだした。手足は激しく動いている。てんかん発作のような痙攣ではなく、そう、赤ちゃんのように手足をばたつかせている。また、周りの人を攻撃しようとしているようにも見えた。五人の男子は力合わせてはじめて出口まで女性を護送した。その後、似たような男女を合計20人ほど確保され、タクシーで地元の霊廟まで運んできた。

 霊廟とは道教の寺院で、名は聖王宮。名前が示すように身分の高い方が住んでいる場所、ただし、この世の方ではなく、王爺(おうや)と呼ばれる高位の土地神である。たしか大昔この地にお亡くなりになった武将の英霊のようだ。その王爺さまを主祭神として祀る寺院である。

 話を元に戻す。
 敷地外、寺院はすぐ前なのに、
 「イヤァァァァァァ」と一部生徒は再び暴れだした。っていうより、必死に抵抗して入りたくなかった。まぁ、なんとなく連れてきた。

 どんどん人が集まってきた。
 小さい敷地内に四十人以上の人が集まってきた。
 その時だ、敷地内からおじさんが何人も出てきた。
 どうやらここの管理者のようだ。
 地元では「廟祝」や「廟公」と書かれて「ビョコン」と呼ばれている。言わば神主や住職みたいな者である。便利上、これからは「おじさん」と呼ぶ

 人は多すぎてお祓いでもトリアージをした。
 暴力傾向のある重傷者は寺院の中へ、しくしく泣き止まない軽症者は外。

 外にいる場合、
 おじさんは一束の線香を焚いてペンを持ちように、生徒の頂上に留まって方言で呟いた、神様を召喚してくれた。その生徒の前後の空に何か文字や呪符みたいなものを書いていた。暫くの間、外側の生徒たちは全員落ちづいた。

 で、室内の場合、
 あとでおじさんから聞いたけど、ちょうどお祈りの儀式を行っていた最中だったそうだ。
 そこで、おじさんたちは仏壇の前に生徒たちを跪かせ、神様の像が置かれた神輿を担ぎ、躍り回り始めた。一方、もう一組のおじさんたちは線香や呪符を取り出し、神輿チームとタイミングを合わせて空書きをした。

 三時間ほど経過、
 聖王宮で少々休んだあと、なんだか少し楽になった。おじさんたちにお礼を言ったあと解散した。


 後日譚
 聖王宮のおじさんたちは学校の周辺地域に陣を張り、そこに存在する無名の幽霊や魑魅魍魎を制圧してから、はじめて事態を収めることが出来た。

 今回の件において、約20人ほどの生徒たちが祟りを受けた。防犯カメラ映像が流され、代表的なオカルト事件の一例としてマスコミに報道された。その結果、ハロウィンのお化け屋敷は二度と開催されることはなかった。


 そして、憑りつかれた原因については様々な説はあるんだが、それらをまとめてみると:

 台湾人の宗教観によれば、長時間使われていない建物は霊を引きよせやすいと考えられている。好兄弟(幽霊のこと)の住む場所になる。
 「全然怖くねぇじゃん、何か面白いことでも起きるかな」と、一部の生徒は思ったから、そちらに留まる霊的な存在にいたずらされた。
 人は普段、邪魔されたくないように騒がしいところから避けるけれど、時折、賑やかな雰囲気のなかにいたくなることもある。お祭り気分を盛り上げたいんだ。幽霊だって元人間だし、悪戯したい気持ちもわかる。

 「いえ、毎年霊に憑りつかれた人が出るのよ、十数名ほど。俺も一度スタッフに志願したことがある。ほら、くだんの件だよ。強烈のあまり、二回目も三回目も全然余裕で笑っちゃった。え?俺自身が?一回目はマジで怖かったけど、ゼロ感だから平気よ」と先輩に言われた。

 しかし、毎年各地に同様なイベントがいくつ開催されるのに、何故かウチに限って祟られる。それも、今回まで続けてきた。これ以上、はっきり説明できない。

ところで、ある事情で、僕は大講堂で一夜を過ごしたことがある。そもそもゼロ感(はず)の僕は何も感じていなかった。強いて言えば、あの時住んでいたアパートより、風や家鳴りみたいな音が頻繁だっただけ。でも、何故か部室に訪れた新入部員は例年より少なくなった。交流を深めるチャンスは減って、後継者を育てるのは大変だった。一幹部として、それが一番怖かった。


 はい、以上。 怖い話どころか、思い出話ばかりですまなかった。
 
 その大講堂は、今も実在している。ちなみに先輩もまだ......いえ、卒業したらしい。

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