見出し画像

小説『FLY ME TO THE MOON』第8話 死を呼ぶ声

『スティールってナニ部?』


返事がないのでもう一度聞いた如月。

ゾンキーの集団は2人に向かって集まってきた、答えないと答えるまで何千回でも聞きそうなので…

『合唱部です・・・』と答えた。

『へー!歌手目指してるとか?』と笑顔で質問を続けてきた、

この状況で。

少し恥ずかしかったけど、初めてできた友達だし、夢かたってもいいよね!と思った羽鐘は、

『メタルバンドのてっぺん目指してます!合唱部ではハイトーンボイスを売りにしてるけれど、本当はその・・・・デスボイスが得意なんですよね、わかります?デスボ』とキラキラした顔で如月に近寄ってきた。

この状況で。

『知らん!わかんないからやってみてよ!景気付けに思いっきりファッキュー!とかやっちゃってよ!スティール!』と、ファイティングポーズを取り、覚悟を決めた顔で言った。しかし目は玉砕ではなく、勝ちに行く目に見えた。

『よし!いいよ!』如月が気合を入れた。

羽鐘は目の前5メートルまで迫ったゾンキーに向け、ハンマーをマイクのようにし、デスボイスで叫んだ!行きますよ如月先輩!

『如月で良いぞ!』

『はい!では如月さん!行きます!』

『バッァギュウウウウウウウァアア!!!』

魂のファックユーを叫んだあと、2人が臨戦態勢を取ると、先頭のゾンキー3体の眼球から血が流れ出し、パン!と目玉が弾けて次々と倒れた。

『は?ナニコレ』

戸惑う羽鐘に如月が一瞬で何かに気が付いた。羽鐘の後ろに付き、背中をパン!と一発叩いてこう言った。

『デスボで歌って!思いっきり歌って!』

なんだかわからないけど釣られて羽鐘は歌いだした。

『ブラァアアイアアアイアアアアウドインザヅァアアアアアアアアアイイイインンンダァアアアアブァアアアアアアア!!!!』

身体を揺らしながら、右足を前に出し、波動砲を口から発するように、凄まじい声量で歌う羽鐘。

パン!

パン!

パパパパパパン!

次々と眼球を破裂させ、血を噴き出して倒れるゾンキー!

『ひゃっほーい!なんか見つけちゃった!』

と如月がデスボで歌い続ける羽鐘をなでなでしながら喜んだ。


-----------------------------------------


『助けなくちゃ・・・』


パイロンはセーラー服のスカーフを外して強盗のように口に巻き、体育教師伊藤の死体を仰向けにした。

『よっこい・・・・しょ!』

高校生でも普通にこのフレーズは言うらしい。

伊藤のブラウスのボタンを、少し恥ずかしそうに外して、胸をはだけた。私より小さいわね、うん・・・と小さく納得したあと、覚悟を決めた顔つきに変わり、バールの曲がっている方を伊藤の胸骨の辺りに突き刺した。

『セイッ!』

骨の砕ける音だろう、ガゴン!と言う音がした。あるとしたらその説明書には決して掲載されていないだろう使い方で、伊藤の胸部をこじ開けた。ゾンキーになる前だったので、出血量が凄まじく、まさに現場は血の海となり、猟奇殺人犯になった気持ちを少しだけ味わっていたパイロン。

巨大な花が咲いたように、胸部が完全に開かれた。

『よし!』

如月がよくやるやつをやって、胃袋と思われるものを素手で握り、ブチブチと引きちぎったが、その反動で一度後ろに転げた。真っ赤な制服かと思うほどパイロンは血で染まっていた。そんなことを気にもせず胃袋を引き裂いた・・・

『あった!』

絶対食べ物ではないだろう金属を胃の中から発見した。血を拭き取りもせず、急いで鍵穴に挿し込んで扉を開けた・・・。レールに挟まった砂が、扉を開けた事により、ズリズリと擦りつぶされたような音がする。開けば開くほど生臭い臭いが強くなった。

『睦月!スティールちゃん!』

飛び込んできたパイロンが大きな声で2人を呼んだ。

はー・・・・はーーーー・・・・

肩で息をして、まさに戦で勝ち残った武士のように、死体の山の上に立っていた。

『パイロン・・・だいじょぶだった?』

力の無い声でパイロンに声をかけたのは如月。

『バカッ!こんな・・・・こんな思いしたのに人の心配?だから睦月は!・・・だから睦月はほっとけないんだよ無理するから!・・・・・・・・言い過ぎて申し訳ございません』

真っ赤なパイロンは、真っ赤な血まみれの中で、真っ赤になって下唇を噛んで、鼻の穴を大きく膨らませて如月を怒っていた。

『ごめん、ごめんよパイロン・・・・スティールも頑張ったね、ありがとう、ほんと救われたよ』

如月は疲れ果てた顔を笑顔にゆっくりと変えて、握手を求めた。

『友達・・・ですから如月さん、そしてパイロンさん』

カッサカサに擦れた声でそう言うと、ガッチリと握手し、そのまま如月に引っ張られてハグされた。背中をバッシバッシ叩かれながら。


-------------------------


『え?そうなの?』

驚きをそのまま顔で表現しながらパイロンが食いつく。

ここは体育館に設置された制御室だ。

色々な機材があり、試合ではここで電光掲示板を操作したり、スピーカーで出す音声を操作するラジオのブースみたいな場所。

8畳くらいの広さに機材などが設置されているので、人のスペース的には4畳半と言ったところ。

体育館は閉鎖し、ここから監視が可能だったので、とりあえず修羅場も続いて疲労の回復が先決と判断し、次はここに籠城することにしたのだった。

選手の水分補給用に作られたスポーツドリンクが、冷蔵庫にたっぷりあったので救われた。ついでに倉庫を探すと、カロリーフレンドと言う、スティック状のビスケットのような栄養補給食材をみつけた。

サクサクモグモグと、3日くらい食事していない人のように、次から次へと食べては飲んだ3人。

『ゴクッ・・・ぷっはっ!でさ、スティールが低い声でちょっと何言ってるかわかんないけど、ボエ~!!!!って歌ったらゾンキーがさ!パーンて!目がパーン!でボーン!』

ゼスチャーを付けて説明する如月だが、興奮すると擬音が多くなり、さっぱりわからない。

『ジャイアンか!あれはデスボイスですよ如月さん!!で・・・ゾンキーってなんすか?』

スポーツドリンク片手に笑顔で割って入る羽鐘。

『すべてのゾンキーに効くかわからないけど、試す価値はあるよねデスボイス。ゾンキーの脳細胞を破壊する何かあるのかも。で?パイロンは外で何があったの?』

『う・・うーん・・・』

少し躊躇したが、パイロンは伊藤先生が言っていた、付き合っていた彼と如月のせいで別れたと言う話をした。

『その件に関しては私はどうしようもないよね』

話すのを躊躇していたパイロンの気持ちを、スッパリ切り落とすかのように言った。

『うん・・・わかってる・・・でも私、怒りを止められなくって、ゾンキーになる前に・・・ころし・・・ちゃって申し訳・・・』

『ゾンキーってなんすか?』

『いいんだって、噛まれてたもの絶対なってたんだから。なったことないからわかんないけど、なるときってほら、その、苦しいかもじゃん、苦しい思いしなくてラッキーだよ』

パイロンを気遣い如月は励ました。

『でさぁ、ここから少し真面目に会議なんだけどね・・・』

如月は前のめりになって2人の目を交互に見た。

『真面目な話、ゾンキーについて気が付いたこと、話そうよ、敵を知る必要あると思うの、生き残る為に。私のゾンビ知識も映画や書物でのものだから、全てがゾンキーに当てはまると言う訳じゃない、情報を収集して、今用に調整したいの』

『ゾンキーってなんすか?』

『そうね・・・気になってたんだけれど、事件が起きる前は、校舎にあんなに人が居なかったはずなんだけど、時間とともに増えた気がして申し訳ございません。』

『それは映画では生きていた時の習慣の中からチョイスされるって言ってた、つじつまが合うね、だからここの制服ばっかりだったんだと思う。登校してきてるんだよ・・・・・って事はまだまだ集まってくる可能性はあるね。』

『ゼウスシティって人口が約1千200万人だっけ?じゃぁ私たちは単純にゾンなんとかを・・・1千200万人を相手にしてるって事・・・・?』

『めっちゃ単純に言うと、生存者をゼロとすればそうなるよね、更にゼウスシティ以外もこうなってるとすると、そんな程度の数じゃないわね、でもさ、ゼウスシティは火葬だからお墓から出てくることはないよね・・・。って事は単純計算どおりとざっくり見積もってもいいって事よね、つかさ、ざっくりって言葉、何かを切るとか刺すイメージなくない?じゃぁざっくり言うとってのはさ、百歩、いあ百三歩譲って切るのは良いとしても刺すのはおかしいよ、ざっくり刺すってのは大雑把に刺すって解釈なわけ?刺すことに大雑把も正確もあまり関係なくない?ダー行って、ドン刺すじゃん?バー血がでてさ、そりゃ正確に心臓バーン刺せば、一撃でデーンだけど、論点はそこじゃなくって・・・』

『あーもう如月さん面倒くさいっすー!』

『えー!面倒って何面倒って!』

『えと・・・私が見た感じを思い出してまとめてみると、ゾンキーは単純な動きしかしないと思うんです、通常は・・だけれど。言ってしまえば 歩く 掴みかかる 噛む 的な?でも獲物を見つけた場合は掴むのパターンが多くなってくる気はします、それも諦めないって言うレベルじゃなく、死ぬまで止めないって感じ。で、申し訳ございません・・・。』

『そうだね、私もそう思う。遅いけど階段も上れるのは気をつけなきゃね。あーでも梯子は大丈夫っぽい。動きが難しいからじゃないかな・・・動き自体、行動自体は単純なんだよね、でもそれが集団になるとヤヴァい。』

『あ、単純と言えば武器は相手を傷つける為に・・・って使い方は出来ないっぽいっす、当然バールでこじ開けるなんて無理だと思うし、バット持ったソフトボール部のゾンなんとかは見たけど、そのバットは引きずって歩いてたっすよ』

如月はせっせと【死者の書】に書き込んでいた。

『ほぼほぼ習慣で動くとするならば、会社員は会社へ、主婦はお買い物とかになるのですよね?その解釈を応用すると、もしかして夜は家に帰るとか考えてしまい申し訳ございません』

『そうね、でも確かに夜にここに居たゾンキーもいるから、登校して帰るまでの行動はゾンキーによるのかも。例えば帰宅部みたいなおうち大好きな娘はゾンキーになっても帰る。そもそも学校が嫌いな娘は来ないし、家が嫌いなら帰らず残る…的な?的な?的な?』

『睦月の考え、良い線行ってるって思う、私もすべてのゾンキーの行動が同じとは思えなくて申し訳ございません。』

『ゾンキーって・・・ゾンなんとかの事か!』

ポンと手を叩き、とびっきりの笑顔で喜ぶ羽鐘。

しかし・・・・

『おせーわ!』『おせーわ!』
と思いっきり突っ込まれるのでした。


この記事が参加している募集

#ホラー小説が好き

1,085件

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?