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小説版『アヤカシバナシ』謝罪する男

この話は誰の身にも起こりうる、私の実体験です。


家族で買い物に行きました、天気のいい日だったのを覚えています。

気持ちよく帰り道を車で走っていると、今まで草ボーボーだった場所が、どーん!と開けて住宅六戸くらいが贅沢なスペースを取って建っていました。

旗がド派手に立てられているので、モデルハウスだと分かり、絵の資料にもなるので観たいと家族に申し出て、行く事になった。


車を止めると元気なスタッフが駆け寄ってきて『いらっしゃいませ!』

と声をかける。

私は『買うとかじゃなくて、見たいだけなのですが構いませんか?』

と聞くと、どうぞどうぞと快く通してくれた。

入った家は居間の天井が大きな天窓になった家で凄く素敵だった。

そこへ170cmくらいのスリムな体型、髪を七三に分けて前髪部分をピ!と立てた20代前半であろうスタッフがやってきて挨拶をしてきた。

顔は俳優で言うと鋭さが無いエミリオエステベスって印象。

『家の購入をお考えですか?それとも・・・』

と営業トークを始めたので『いえ、見るだけです』と遮って私が答えた。

するとアンケートだけでもと出してきたので、『申し訳ないけれど、これを書いても絶対営業とか来ないで欲しいんですよね、その時が来たら考えようと思っているので・・・』と返すと、『はい、大丈夫です、ご来場いただいた客層などの情報収集です』と言った。

他愛もない話をしながら四戸くらい観て帰る事にした私たち。

するとそのエミリオエステベス君が名刺を差し出し、『購入お考えの際は是非!』と言うので『わかりました』と言って立ち去った。


名刺には 高円寺 武(こうえんじ たける)【仮名】と書かれていた。


それから数日後、郵便受けに手紙が来ていた。

見ると〇〇宅建 高円寺 と書かれていたので、直ぐに気が付いた。

内容は先日のお礼で、機会があればまた・・・と言うモノだったので、ふふ、はいはい・・そんな感じで手紙差しにしばし保管した。


何日かするとまた〇〇宅建 高円寺 と書かれた封筒が来ていた。

読むと、予算の中でプランを組むこともできるから一度お話がしたいと言う内容だったので『やっぱり来たか・・・』と思った私は高円寺さんに直接電話をして断ることにした。

その気もないのに彼の時間を使わせるのは悪いし、営業さんは成績が命、脈ありの人を押して利益出さなきゃ怒られると思ったからである。


電話に高円寺さんが出たのでお断りの旨を伝えたのだが、『ちなみにご購入の際は頭金とかその・・・蓄えなんかお持ちですか?』と聞かれたので『貯金する余裕なんかなくって』と適当にはぐらかした。

高円寺さんは納得して切ってくれた・・・この時はそう思っていた。


数日後、呼び鈴がなったので出てみると高円寺さんだった。

プランを作ってきたからお話がしたいと言う事だったので、そういうのはお受けしないと言いましたよね?と説明するが、勝手に作っただけでセールスじゃないのでと言って退かない。

まず今日は伴侶が居ないから一緒の時に話を聞きますからと、この場は帰らせることができた。


次の日の朝、郵便受けに封筒があった。

高円寺さんからだった。

内容は突然伺った事への謝罪文と反省文でびっしり便せん3枚。

『ただ今午前2時、会社の帰りに車内で書いてます…』から始まっていた、なんだがゾッとした・・・ここで気が付き以前の手紙を全部確認した、やはり・・・消印も切手もなかった、つまり郵便で送られたものではなく、

直接郵便受けに入れに来ていると言うことだった。

かなり気持ち悪かったけれど、反面大変なんだなって気持ちもあった。


その日電話が高円寺さんからあったので、話だけ聞いてあげる事にした。

伴侶に話すと、これを最後にきっちり断れば二度と来ないだろうと言うことで、その日の夕方に来た高円寺さんと上司を迎え入れる事に。


淡々と説明を受けた後、上司の男が『さぁ!まずは銀行に融資の依頼を』と進めようとしてきたので、待ってくれと切り出し、伴侶と一緒に今の状況などを説明し、買う意思がない事をはっきり伝えた。

すると高円寺さんが急に涙を流し、鼻水を垂らしながら『そんな!!!!買うって言ったじゃないですか!!!!!』と叫び出した。

『買うなんて一言も行ってません、むしろこういうことをしないでくれと頼みましたよね?』と問うと、『土下座でも何でもしますから!』と絨毯に頭をこすりつけだしたので、慌てた上司の男が掴みあげて適当な謝罪の言葉を残し、外に出た。


とても後味が悪かったが、取り敢えず終わった。


しかし・・・・


トイレに起きた私は少し長い廊下を歩き玄関に差し掛かると、人影に気づいた。

直ぐに壁に隠れて様子を伺っていると、スッスッスッと封筒が差し込まれた。

高円寺だ・・・・そう思った、時間を見ると朝の4時頃だった。

少ししてから中身を見ると『今は午前3:00、帰るところで立ち寄らせていただきました。先日の反省を胸に私は日々努力を・・・』と言うような内容で、びっしりと反省文が3枚ほど書かれていた。


『こわ・・・・』


そう思った程度だったのですが、深夜から早朝にかけての手紙は、その日から毎晩続いたのです。


『今は午前2時、車の中で書いています、ここは静かで良いです、どこかわからない山の中です・・・』


『今日は早く終わりました、午前0時です、どこかの真っ暗な駐車場です…』


そんな書き始めから、結局は謝罪文となり、お客様の気持ちを考えず、勝手な行動をしてしまった事、今でも後悔しています、本当にとんでもない事をしてしまったと毎晩悔しくて悔しくてと書き綴られ、感情が高ぶるのか最後は読めないような殴り書きになっていました、そこから読み取るに、情緒不安定なのではないか・・・と思いました。


そんなことが数週間続き、物音にも敏感になってきた私は寝不足と、ジワジワと感じる恐怖でノイローゼ気味でした。


それから入れられる手紙には『今日はお子さんとお買い物、楽しそうでしたね…』

『今日、家の前をウロウロしている人が居たので追いはらっておきました…』

と言う内容に変わってきており、身の危険を感じる程でした。

しかし私はその手紙に違和感を感じました、筆圧が今までと違ってやたらと強いのです、光に当てて見ると、文章とは別にくぼみがありました。

この手紙を書く前に何を書いたのだろうと、鉛筆を寝せて擦ってみたのですが、読めたのはところどころに『もういやだ』『つらい』『俺ばかり』と言う、自分の心境を書いたらしい内容だった。


凄く怖かったけど、可哀想な気もして、〇〇宅建の上層部に電話でこの件を話すことにした。


『御社の高円寺さんの件でお話が・・・』


『あーあの時の!高円寺がご迷惑おかけしてすみませんでした、えっと高円寺はあの日の夜に辞表出して国へ帰りましたよ、止めたんですけどね、なんかずっと成績上げられない事に悩んでたとかで…何か御用でしたか?』


『あ、いえ、では結構です、失礼します』


高円寺さんは我が家で泣いて土下座した夜に会社を辞め、それから数週間私の周りに居て、毎晩手紙を書き続け、届け続けていたようです。


恨んでいたのか、何か相談したかったのかはわかりませんが、それから自然に手紙は来なくなりました。


皆さまも、アンケートにはご注意ください。

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