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【経理】「経費精算は、レシート or 領収書?」を改めて考える。

こんにちは、きくちきよみと申します。
税理士です。

先日、経理の仕事を始めて間もない経理担当者の方に「従業員の経費精算は、レシートは絶対にダメですよね?今からでも領収書にしてもらった方が良いか、迷っています。」というご質問を受けました。

今日は、「経費精算はレシートが良いのか、領収書が良いのか」ということについて書きます。

基本的な内容ではありますが、経理として、税理士として長年この問題に付き合ってきて、これまで考えてきたことなども併せて整理してみたいと思います。


結論:どちらも同じものですが、会社のルールに従います。

最初に結論を書きますが、レシートも領収書も、その効力は同じです。

支払先、日付、内容、金額などが記載されています。
インボイス制度の登録事業者であれば、さらに、登録番号や税率・税率ごとの対価の額・消費税額などの記載もあるでしょう。

違いがある部分は、2点です。
①レシートには宛名(誰が利用・購入したか)が記載されていないが、領収書には宛名が記載される。
②レシートには内容明細(何を利用・購入したか)が詳細に記載されるが、領収書には細かい明細が記載されない(ことが多い)。

レシートも領収書も同じように支払った内容を示すものですので、従業員の経費精算をする際には、どちらでも構わない、ということになります。

ただし、会社のルールとして「経費精算は宛名にその企業名が記載された "領収書" のみ認める」としている企業も多くあります。領収書には宛名が記載されるため、確実に業務上の経費であると示せる(と一般的に考えられている)ことが理由です。

税務上は、レシートの方が証拠能力が高いことが多い。

前項で「領収書の方が、確実に業務上の経費であると示せる(と一般的に考えられている)」と書きました。

とは言え、「そんなことないよね?」というのは、多くの方が考える通りです。領収書の宛名をお店の人に伝えれば、お店の人はその通りに書いてくれます。もちろん、業務上の経費かどうかをお店の人が判断しているわけではありません。

余談ですが、プライベートの経費では?と思うような場面で領収書を依頼する方を見ると、「この方は、何が理由で領収書を切っているのか?」という思いが頭をよぎります。(思いもよらない理由でその方の業務につながっていることもありうるので、答えを知りたい、、、)

結局、領収書を発行してもらったところで、それが本当に業務上の経費だったかどうかは、その領収書を切った本人以外、誰にもわかりません

しかも、領収書は情報が少なく、申請書などに細かく情報を記載しない限り、その内容がわかりません。

例えば、飲食店で5万円の領収書を発行してもらった場合、「何名で飲食したのか」「何を食べたのか」などの明細が一切表示されない場合がほとんどです。一方、レシートのままであれば、そのテーブルに座った「人数」や「何を食べて飲んだのか」などが赤裸々に表示されます。

税務の考え方からは、領収書よりもレシートの方が証拠能力が高いことが多いとされていますが、それは、この情報量の違いによるものです。(たまに小さな商店で買い物をすると、明細が全くわからないレシートのこともあります。その場合は、領収書の方がわかりやすいですね。)


それでも、なぜ領収書が好まれるのか?

過去に勤務した会計事務所で、個人事業の方や小規模企業の記帳代行を請け負っていたことがありました。一人の担当件数は100件以上だったので、一分一秒を争って作業を進めるしかありません。

個人事業や小規模企業の方が記帳代行を依頼するような場合、領収書の整理自体、ほとんどできていないことが多いです。そのため、どうしても私用の領収書と業務上の領収書が混じってしまいます。「整理できていないのは仕方ないかもしれませんが、内容を判別できないので、レシートはレシートのまま、絶対に領収書に変換しないでください」と、こちらからお願いをしていたほどでした。

何万枚もの領収書・レシートを見てきた身からすると、「レシートのままにしておいてください!」とお願いしていても領収書に変換する方からは、どうしても「本当のことを隠したい気持ち」が見え隠れしてしまいます。

お酒が入った飲食でも、一見業務に関連しないように見える内容でも、それが業務に関連すると信じるのであれば、理由を添えて正々堂々とレシートのまま経費精算に回せば良いのだ!と自分は思います。

ただ、あまりにも赤裸々だと、それが不特定多数の他人の目に触れることによる弊害も生じるため、会社内での飲食経費証明としては、領収書に変換する慣例になっているのかもしれません。レシートのままだと、例えば「営業部の田中さんは、焼肉はいつもタンから始めるよね」と社内で広く知られてしまうことになるからです。


経費精算をなくせば、もやもやは晴れる?

企業の一員である以上、会食や接待などは避けられないでしょうし、必要な物品を立て替えて購入することもあるでしょう。

経費の利用方法の透明性を突き詰めるのであれば、例えば渡切交際費や手当を従業員に渡してしまい、経費精算自体をなくしてしまう、という方が逆に単純明快・公明正大だと思うこともありました。多めに給料を出すから、その中で交際接待経費や細々した経費はまかなってね、ということです。

ただ、この方法だと経費を細かく精算する方法よりも "どんぶり勘定" になって経費がかさんでしまうので、企業側として経費コントロールを考えると、どうしても経費精算が必要になるかもしれません。

また、企業人としてのモラル・倫理観を育てる上では、「経費精算」という仕組みの中で、きちんと業務とプライベートを分けるように教育する、という考え方もあるでしょう。

もう少し増やして欲しい、その情報。

個人情報の取扱いやシステムの対応で難しいとは思いますが、領収書の情報は、もう少し増やして欲しいと思うことがあります。

例えば、不正調査をしていると「領収書の記載事項が足りない」と思うことが多いです。もちろん、不正調査のために領収書が存在するわけではありませんが、この領収書を見ても意味がなかったな、という結果になることが多いです。

また、レシートを領収書に変換する際に、内容明細が消えてしまうシステムは、変わらないものでしょうか。手書きの領収書でしか対応できない場合は仕方がないと思います。ただ、POSレジで領収書を出力するのであれば、明細を記載したまま、領収書の宛名欄を表示することは技術的には簡単なのではないかと、ずっと思っています。

内容明細が消えてしまうのは、レシートと領収書を明確に区別して、同一内容のレシートと領収書を重複して交付しないための工夫かもしれません。ただ、明細を記載したままレシートとの区別を明確にするのも、それほど難しくないのではないかと思っています。

自社の経費精算を考える。

経費精算の仕組みは多くの企業で導入されていると思いますが、手数が少なく、不正を防ぎやすい方法を考えると、非常に奥が深いです。

領収書・レシートはどちらでも効力は同じですが、自社に合った経費精算のルールを考えてみてはいかがでしょうか。


最後までお読み頂きまして、ありがとうございました。

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