見出し画像

【雑談】経理人材の採用に関して、よく受ける質問。

こんにちは、きくちきよみと申します。
税理士です。

顧問税理士として、企業の方から経理人材の採用に関してのご質問を受けることがあります。あくまで自分の経験上ではありますが、よく受けるご質問について、思うことを書いていきたいと思います。

なお、基本的には中小企業の経理人材についてのご質問ですので、経理部の総数は1~5名程度の前提です。実際のご質問はより具体的・個別的ですが、特定を避けるために一般化した表現で記載しています。

注:自分は人事コンサルではありませんので、単に「顧問税理士の立場」での視点であることをご了承頂けますと幸いです。


Q:簿記2級は、経理人材の資格としては必須ですよね?

A:そうとも限りません。逆に「簿記2級を持っていればOKなはず」という思い込みの方が危険です。

簿記は経理の共通言語なので、簿記が理解できないと業務上で言語が通じないということになります。経理職の資格として「簿記2級以上が望ましい」と考える方が多いのは当然でしょう。

ただし、他業種からの転職の場合、「単にまだ簿記の試験を受験できていないだけ」というケースがあります。すこぶる魅力的な人材であれば、単なるタイミングの問題で逃してしまう手はありません。

スタッフレベルの経理業務や簿記は、「ルールの趣旨・内容を理解した上で身に着け、そのルールを臨機応変に運用する」ことが得意な人が向いている傾向があります。そのため、例えば前職で総務の実績があったり、庶務で抜群の能力を発揮していたり、という経理未経験者が、経理経験10年の方の実務能力をわずか2~3年で追い越してしまうことも実際に起こります。

もし「現時点で簿記の資格がないということ」が唯一の懸念点のときは、社内でよく検討し、経理人材の採用を進めるのが良いと思います。

私見を申し上げると、どちらかというと「簿記2級を持っていれば大丈夫なはず」という思い込みの方が危険だと思います。確かに、試験に合格するということは一定の知識を示すものではあります。しかし、車の運転免許を持っていても運転が得意な人と不得意な人がいるように、簿記資格を持っていても簿記をうまく使いこなせる人とそうでない人がいます

Q:人と話すことが苦手そうに見えます。でも、経理採用なら大丈夫ですよね?

A:中小企業の経理こそ、コミュニケーション能力が必須です。

中小企業の経理にコミュニケーション能力は必須です。ここでいう「コミュニケーション能力」は、説明力・交渉力を指します

時折「他者との交流が少ない仕事が良い」と言って経理部を志望する方がいらっしゃいますが、残念ながら経理はそのような仕事ではありません。大企業の経理スタッフであっても経理部内のコミュニケーションは避けられませんし、中小企業の経理さんにとっては、あらゆる交渉ごとや調整作業は日常茶飯事です。

仕事を獲得しなくてはならないという必然性から中小企業の経営者の方は営業畑の方が多く、経理などの管理部門に詳しくないことが多いです。そのため、「営業部では採用しないけれど、経理部なら良いかな?」という感覚で採用を進めてしまうケースがあるようです。自分が詳しくない管理部門の人材であっても、コミュニケーション能力に関する採用基準は他の部署と大差ないと考えて頂いた方が良いと思います。

Q:経理マネージャーに法務や税務の知識は必須ですか?

A:採用時点では必須ではありませんが、入社後にスピーディーに身につける気概と胆力がない方を採用した場合、社内トラブルや決算作業の遅延に至るケースが多いです。

2人以上の経理部である前提ですが、経理マネージャーを採用する場合は、細心の注意が必要です。

経理マネージャーは、経営者や社内の他部署の方、弁護士・公認会計士・税理士などの外部専門家との交渉が必要です。経理・会計の知識はもちろん、法務・税務の知識を理解していない場合には、経理部の作業の手戻り・やり直しが頻発し、なかなか仕事が進みません。経理スタッフの信頼も得られません。そのため、採用時点で経理・会計以外の知識が少ない場合は迷うことが多いかと思います。

「既に経験や能力がある人材は "前職のくせ" がついているので避けたい」「フレッシュな人材を入れたい」という場合には、どうしても知識や経験が浅い方の中から採用を検討することになります。

もちろん、採用時点では法務や税務の知識は不要だと思います。ただし、着実に自分で知識をスピーディに吸収し、不明点は外部専門家に逐一確認し、それを自分の業務に反映させられるような気概と胆力のある方でなければ、業務の継続はかなり難しいと言わざるを得ません。

何を優先すべきかの判断もありますが、社内トラブルや決算作業遅延が起こると、その復旧作業に多大な労力と時間を使います。「今、本当にこの採用方針で大丈夫か?」ということは慎重に検討する必要があると思います。


Q:経理・総務の兼任者の採用を考えています。

A:今後、企業を大きく成長させることを考えるなら、できるだけ兼任者の採用は避けた方が良いです。

あくまで「自社を今後大きく成長させることを考える」前提ではありますが、それぞれの業務のボリュームや重要性はそれほど軽くはありません。現時点では「簡単な経理作業」「簡単な総務作業」であっても、それぞれ人を分けることをお勧めします。

特にスタートアップの時点からこのルールを決めておかないと、会社運営の仕組みが適切でない形に固まってしまいます。そして、いざ、自社を大きく成長させようとするとき、内部統制などの面から大きな足枷となってしまいます。

また、採用した人材に長く自社で働いてもらおうという視点からも、この兼任採用はボトルネックになりやすいです。なぜなら、兼任することにより「より専門性を高めたい」「より深く仕事をしたい」という本人の要望が通りにくくなるからです。経済産業省の「リスキングを通じたキャリアアップ支援事業(転職したい方へのサポート事業)」などの影響もあり、「専門性を高めたいから、職場を変える」というケースも増えているようです

当然ながら「現時点ではそれほど人材にお金を割けない」という事情もあるかと思いますが、「今後、会社をどうしていきたいか」「そのためにどのような人材を採用したいか」ということは、最初から考えていくのが望ましいのではないでしょうか。

         ***

ここまでお読み頂きまして、ありがとうございました。