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【経理】中小企業の経理さんの多すぎる兼任と、内部統制の話。

こんにちは、きくちきよみと申します。
税理士です。

それぞれの企業によりますが、中小企業の経理さんは、経理以外の業務も担当されていることが多いと思います。優秀だからこそできてしまいますし、お話を伺うと、それを「特別な負担だと思ったことはない」という方も多いです。

今日は、「中小企業の経理さんの業務兼任を見直したら、会社の仕組みそのものが変わる」ということについて書きます。


記憶力&記録力に優れているから、重宝されてしまう。

中小企業の経理さんは、記憶力・記録力に優れている方とてもが多いと思います。

毎年、毎四半期、毎月、毎週、毎日。

何をどのタイミングですべきか、どのような手順ですべきかを整理し、記憶や記録に基づいて、最善・最短で業務を進めることができます。

その上で、不測の事態や急な依頼にも動じることなく対応し、(他の人から見ると)いとも簡単そうに業務を完了させてしまいます

でも、それって、本当に会社のためになっているのでしょうか

今日は、その問いについて考えていきます。

それって、 ”経理の仕事" ではないですよね?

中小企業においては人材不足・人員不足のため、「経理」として採用されても、大企業で区分されるような「経理」以外の業務も兼任することが多いです。

①管理部門ではあるが、明らかに部門が違う。

中小企業では、管理部門が細かく分かれていないことが多いので、あらゆる業務を兼任することになります。

(よく見る兼任の例)
・財務
 資金調達やキャッシュフロー管理など。経理部採用でも、優秀だと見込まれると、急に経営者に銀行に連れて行かれたりします。
・総務
 電話対応、備品管理、来客対応、文書管理など。他の人では対応が難しい電話対応もお手の物です。
・法務
 契約書作成、登記申請、訴訟対応など。弁護士や司法書士に相談することが多いですが、簡単な登記手続などは自分でできたりします。
・人事
 経理部採用なのに、なぜか採用面接に同席し、経営者に意見を求められたりします。
・労務
 給与計算や社会保険の手続など。労務の法律に詳しくなり、自社が法律違反をしているかもと不安になりがちです。
・経営企画
 経理(=実績管理)の延長で、予算策定をしたりします。

これらの兼任ですが、経理部員自身のステップアップにつながる、ということは間違いありません。一方、経理部で結果を出せる方はどの業務を兼任しても結果を出せたりするので、「ひとり分の給料で、何人分もの働き」をしてしまったりします

そのため、その方が何かのタイミングで退職すると、次の人材を採用するときにとても困ることになります。経営者の頭の中には、「ひとり分の給料で、これだけの業務ができるはず」ということがインプットされているからです

何度人材を採用してもその人の成長が遅く感じられてしまい、結果的に管理部門の人員が定着しない、という負のスパイラルに陥ります

②"経理" の解釈が広すぎる。

一方、経理の業務の一環ではあると認められるものの、「解釈が広すぎる」「(他部門の方に対して)過保護すぎる」と思うような業務もあります。

(経理業務の解釈が広すぎる例)
・従業員の経費精算申請のリマインド
 経費精算があるはずなのに申請されていないと、その従業員にリマインドすることまでを「経理の仕事」と思ってしまいます。リマインドしなかったためにその従業員への支払いが遅れたり、その会社の財務諸表が正しくなくなったとしても、経理さんの責任ではないでしょう。

・顧客の祝い事のリマインド
 営業部の方が、顧客のお祝い事(例:誕生日、お孫さんの入学式、還暦、etc…)などを忘れていそうなときに、「そろそろ、〇〇さんの~ですから、お花代を発注しますよね?どのお花にしますか?」と何気なく確認します。(そして、その営業部の方は「経理の〇〇さんが、何気なくこの話題を出してくれて、本当に助かったー!!」と裏で同僚に言っていたりします。)
 

③内部統制が効かない。

兼任が多くなる場合の、最大の問題。それは、内部統制が効かなくなるということです。

中小企業における経理さんの多すぎる兼任は、「その経理担当の方が、会社の不利益になるような、企業倫理から外れたことはしない」という性善説の基に成り立っています

経理部長としてその中小企業の改革を任される場合は別として、内部統制に慣れ親しんだ大企業経理出身の方が、なかなか中小企業の作業人員としては定着しないのは、この内部統制の問題が一番大きいと思います。

例えば、経理部で採用されたAさんが、
→「商品を発注」
→「支払申請」
→(社長が)承認
→「支払実行」
→商品納品後に「検品、検収」
→「会計記帳」
したら、どうなるでしょうか?

発注した商品が本当に会社に納品されたのか、Aさん以外の人によって証明されません。何か問題が起きた時、Aさんがどれだけ頑張って説明しようとしても、自分の身の潔白を証明することができないのです。そして、経営者もAさんを守れません。

"経営者が妄信的に優秀な経理さんを信じた結果、その経理さんを守れない。"

・・・そのような会社にして良いのでしょうか?

経営者が「優秀な経理に頼りきる=会社のためになる」?

中小企業の経理さんには、限られた時間の中で膨大なマルチタスクを普通にやり切ってしまうような方が多いのですが、その経理さんに頼りきってしまうことは、その企業の成長のためにはなりません。

企業の成長のためには、そのような優秀な経理さんがより長く働けるような、適切な内部統制が必要です。

「経理業務以外も兼任できるような人材を低コストで使い倒す」というような考え方ではなく、「そのようなマルチタスク人材が、経理部で自らの能力を120%発揮できる」ような環境において、その企業の発展が望めます

もちろん、コストの問題はあるので、その内部統制のために新たな人材の採用はできないかもしれません。

それでも、例えば「営業部の〇〇さんに商品の納品確認をお願いする」というような工夫をすれば、中小企業でも充分に内部統制を確立することは可能です。

是非、貴社の内部統制について、改めて考えてみてはいかがでしょうか。

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ここまでお読み頂きまして、ありがとうございました。