Episode 025 「パンクロックという新世界」
アデレードハイスクールへ(Episode022参照)の通学はもっぱらバス。バスに揺られながら、音楽を聴き、本を読むのが好きだった。確かあれは、9年生(中学3年生)か10年生(高校1年生)の頃だろうか、とある放課後にふらっと中古CD屋さんに立ち寄ったことがあった。今から遡る事25、6年も前の1998年または1999年の事だ。ランドルモールというショッピングモールに存在するアーケードに入ったところにひっそりとある、初めて入ったCD屋ショップであった。
お店の中の壁には黒い、様々なバンドTシャツが飾ってあり、店内にあるCDの殆どもは主にへービーメタル系やハードコア系のバンドのCDだった。当時、個人的には特にこれら(ハードロックやメタル)の音楽が好きだったわけでもない。寧ろ、当時の私は、音楽そのものが持つ魅力及び良さ、にまだ気付いておらず、せいぜい姉が日本から買ってきたB’zのCDを何となく聴いていた程度である。尚、数年後、様々なハードコアバンドやヘビーメタルバンドの音楽を聴くことになる。そう、TOOL、Metallica、Slayer、Suicidal Tendencies、Panteraなどなど。
店内で何となく適当にCDが陳列されてるワゴンなどを見回していた時、一枚のCDが目にとまった。手に取ってみると、CDのジャケットの表にはアップで拳が写っており、そこには「PUNK」という英単語の4つアルファベット(P、U、N、K)が一文字ずつ人指し指から小指にかけて、それぞれの指に書かれていた。人差し指にP、中指にU、薬指にN、そして小指にKの文字。CDジャケットを開き、歌詞カードを見るとそこには三人の日本人の写真があった。そのバンド名はHi-STANDARD(ハイスタンダード)と言った。また、後に(このバンドの通称が)「ハイスタ」という事も知る事になる。
もちろん、通常、オーストラリアのCDショップでは、日本のどんなCD(基本的には、英語圏以外のCDはどれも)も並ぶはずが無いにも関わらず、何故だ?と疑問に思った。後に知る事になったのだが、Hi-STANDARDのこのCDは、Fat Wreck Chords(ファットレコーズ)という、おそらく世界で最も有名な独立系(インディーズ系)レコード会社の一つからリリースされたCDであったのだ。つまり、日本のバンドでありながら、世界に向けて発売されていた、ということだった。2024年の今では珍しいことでも無いかもしれないが、90年代半ばから世界進出をしていた数少ない日本のバンドだったのだ。そして、当時から歌詞は英語だったのも、先見性が大いにあった。
聞いたことのないバンドであったが、何か惹かれるものがありそのCDを購入した。このCDが、のちに私の人生を変えたと言っても過言でもない一枚になったのである。Hi-Standard(ハイスタンダード)のセカンドアルバム(1997年発売)の「Angry Fist(アングリーフィスト)」である。今までに聴いたことのないタイプの音楽であった。即、好きになった。このCDを購入したその日からは、毎日の様にこのアルバムを聴きまくった。
音源だけでは足りず、どんな人達がこんなにかっこいい音楽を作っているのだろう、ということからネットで色々と調べた。アメリカのロサンゼルスにある、Fat Wreck Chords(ファットレコーズ)というインデペンデント(独立系)のレーベルに所属している事がわかった。
では、そのレーベルは一体どこの誰が作ったのかという事も知りたくなり調べてみると、どうやらNOFX(ノーエフエックス)というバンドのベース・ボーカルである通称Fat Mike(ファット・マイク)が設立したということが判明した。尚、ずっと後に知ることになったのだが、どうやらFat MikeはEpitaph(同じく、インデペンデント(独立系)のレーベル)で短期間働いてたことがあるとの事で、その経験を基にFat Wreck Chords(ファットレコーズ)を設立したと、とあるインタビューで言っていた。
この様にして、何気なく入ったCDショップにてHi-STANDARDの音楽と出会い、そしてそこからNOFXを知り、私のパンクロックへの道(或いは沼)が拓かれていったのだった。
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