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Episode 102 「幸か不幸か、電通という広告代理店に就職した話」

或いは、人生における岐路にいたのかもしれない。大学で勉強した内容(そう、いわゆる航空大学的なそれ)とは異なる道を行く事を選んだ。あれは、大学を卒業し、バイトをしながら飛行訓練複をおこなっていた頃なので、今から15年も前の、2009年頃の話だ。(Episode101参照)

気持ちを切り替え、インターネットにて色々と仕事探しを開始した。その中で、とある求人をみた。「電通」というキーワードが目に飛び込んできた。もちろんその名前は耳にした事はあったが、具体的にどの様な会社なのか、具体的に何をしている会社なのか、といった事は理解してはいなかったものの、根拠はなかったが、なぜか「面白そう」という強い印象があった。

本社は、或いは威圧的である。

求人内容を詳しく見てみると、作業内容の多くは英語で行われる、との事だったので、取り敢えず履歴書を送ってみた。その後何回かのやり取りがメールで行われ、面接のために汐留にある電通の本社ビルに行くことになった。

今でも憶えているが、面接当日、(今では、なぜそんなに派手なネクタイをして行ったのか、は不明だが)派手なバーバリーのネクタイを締めて面接に挑んだ。今では、スーツを着る際は派手な色なんて選ぶ事は先ず無い。今のスーツなら、今のネクタイで合わせる、といった様に。改めて、「若さ」とは、格好悪いものである。

最近では、紺のスーツ+紺のネクタイ、が(自分の中で)定番である。

面接の時間になる直前、電通ビルの中の商業施設があるエリアのトイレで、緊張しながらネクタイを締め直したのだった。詳細は省くが、複数回の面接を経て電通に入社することになった。

当時の自分のデスク。懐かしい。
汐留の電通ビル

配属先はスポーツ局という局(営業局(もちろん幾つもの営業局が存在する)、新聞局、テレビ局、雑誌局、デジタル関連の局、などなどおそらく数十に及ぶ局が存在する)の放送映像事業部という部署だった。

我々の部の具体的な作業としては、様々なスポーツにおける放映権の売り買いであった。つまり、平たく言うと、次のような内容である。日頃我々がテレビなどで目にする様々なスポーツの放送権利・放映権利というものを権利元から購入するために(必要に応じて様々な)諸々交渉を行い、契約を結ぶ。その後、その放映権をキー局(日本テレビ、フジテレビ、テレビ朝日、TBS、テレビ東京)に販売する、である。

当時は仕事なので一生懸命やっていたが、僕はテレビというものに興味が無い。もちろん、その昔やっていた一部の音楽番組などは例外となるが、基本的にはテレビ番組をみるくらいなら読書などをしたい、と思ってしまう。尚、日本に戻ってきて約15年経つが、家にテレビがあったことはない。今も、ない。

例えば、テレビ朝日が放映しているゴルフ全英オープンを例にとってみる。この番組をテレビの前のゴルフ好きの方々が見れる様になるまでには、次の様な事が裏では行われている。

先ず、テレビの放映権と呼ばれるものを我々がR&A(ロイヤル・アンド・エンシェント・ゴルフ・クラブ・オブ・セント・アンドリュースというゴルフ競技の世界的総本山として知られるイギリス連合王・スコットランド国セント・アンドリュースに本部を置くゴルフ組織)と価格交渉など行い、また契約内容を締結させる。

当時、ビジネスにおける法的効力を持つ「契約書」の重要性をいやと言うほど学んだ

その後、無事交渉し契約を締結させたこの放映権をテレビ朝日に対し我々電通が販売するのである。つまり、平たく言うと、広告代理店である電通のビジネスモデル(このスポーツ局の放送映像事業部の放映権関連の作業においては)は100円で買ってきたものを130円で売り、30円を儲ける、といった具合である。もちろんその30円から人件費やその他諸々の費用は引く必要はあるが、つまりはそういうスキームでビジネスを行っていた。

映画「Wolf of Wall Street」ではないが、あまりにも下品で、あまりにも”お金儲け”が上手く、あまりにも持続性の無い、そんなビジネスである。

もちろん、契約内容は毎年同じという事ではない。仮に、世界的に更なるゴルフブームが起き、権利元であるR&Aが、「この人気は凄まじいな、特に日本のゴルフ熱は尋常ではない。よし、ここはひとつ、放映権を値上げして更なる儲けを出すぜ、ケケケ」となった場合、電通としては今まで100円で仕入れてくる事のできた放映権が120円に値上がりしていた、という事にもなるかもしれない。

そうすると、もちろん120円以上でテレビ朝日に販売する事になり、それ即ち、今までは130円でその放映権を購入していたテレビ朝日からしても、「あれ?!電通さん、困りますよ!前回は130円だったはずです!それを160円だなんて!しっかり交渉してくださいよ、権利元と。そこが腕の見せ所でしょ、電通さん」なんていう事になりかねない。

さて、ここまで読んで、お気づきになられた方もいらっしゃると察するが、「なんでテレビ朝日は直接権利元であるR&Aから放映権を購入しないの?」と、思われた方もいると思われる。直接購入をすれば、電通に仲介する事で発生している金額を抑えられるのではないか、と。

つまり、ゴルフのルール諸々を世界的にガバナンスしている組織なのである。個人的には、ゴルフは特に興味はない。たまーに、打ちっ放しに行くくらいである。

しかしながら、ここが(電通としての)ビジネスのカラクリとなっている。つまり、R&A(権利元)との関係を固めておく事で電通を介してでないとこれら放映権を(実質)購入できない様にしてしまっているのである。

しかしながら、別に電通の肩を持つつもりでもないが、仮に電通がテレビ朝日に対し「わかりました、我々を仲介しないで、どうぞご自由にR&Aと交渉して放映権を取得してください」と言ったところで具体的にその作業を電通の力なくしてできるのかというと、その答えは分からない。つまり、(テレビ局と電通はお互いに)持ちつ持たれつの関係なのかもしれないと個人的には感じている。

頻繁に通った、六本木にあるテレビ朝日。尚、或いは過激的な発言になってしまうかもわからないが、日本をここまでの後進国としてしまった原因の一つに「テレビ局」の責任があると感じている。テレビ局の責任はあまりにも大きいと、個人的には感じている。当時から、違和感しかなかった。

この様に我々放送映像事業部は、同じ様な内容でその他の多くのスポーツのビジネスを行っていた。サッカー、野球、水泳、体操、卓球、陸上など。

サッカーであれば、日本サッカー協会、野球なら日本野球機構、水泳であれば世界水泳連盟、体操なら世界水泳連盟、卓球であれば世界卓球連盟、陸上であれば世界陸上連盟という具合である。

尚、テレビの放映権の他にもデジタル周りのニュービジネスの作業も、権利元及び販売先(つまりテレビ局)と共同で行っていた。また、併せて、日本のコンテンツ(例えば、Jリーグや日本代表の試合の放映権)を海外のテレビ局にオファーする、という作業も行っていた。

具体的には、サッカーの熱狂的なファンが多いインドネシアやベトナム、またオーストラリアのテレビ局に対し我々電通とJFA(日本サッカー協会)で共にオファーを行いに向かったりもした。

尚、これらの作業は全て、当時(約15年前)の話なので、現状(2024年時点での)電通のスポーツ局にどう言ったビジネススキームが存在するのかは、全くわからないし、或いは・・・興味も全く無いのが正直なところだったりする。

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