見出し画像

ウェルビーイング経営の先駆者-丸井グループの事例-


はじめに

「ウェルビーイング経営」という言葉を再三取り上げておりますが、近年、この概念が企業経営の新たなトレンドとして注目を集めています。しかし、その本質を理解し、効果的に実践している企業はまだ少ないのが現状です。

ウェルビーイングとは、単に「幸福」や「健康」を意味するだけではありません。世界保健機関(WHO)は、ウェルビーイングを「個人が自身の能力を発揮し、人生における通常のストレスに対処でき、生産的かつ効果的に働き、そしてコミュニティに貢献できる状態」と定義しています。つまり、個人の幸福感だけでなく、社会との関わりや自己実現も含む、より包括的な概念なのです。

今回は、このウェルビーイング経営の先駆者として注目を集める丸井グループの取り組みをご紹介します。彼らの革新的なアプローチは、企業経営の新たな可能性を示すとともに、私たちの働き方や生き方に対しても重要な示唆を与えてくれます。

丸井流ウェルビーイング経営とは?

多くの企業が「働きやすさ」や「従業員満足度」を重視する中、丸井グループが目指すのは「統合的ウェルビーイング」です。これは何を意味するのでしょうか?

丸井グループは、6つのステークホルダー(顧客、株主・投資家、取引先、社員、地域・社会、将来世代)全ての利益と幸せの重なりを拡大することを目指しています。つまり、社員だけでなく、企業に関わる全ての人々の幸せを追求しているのです。

この考え方は、従来の株主至上主義や顧客第一主義とは一線を画しています。全てのステークホルダーの利益を同時に追求することで、短期的な利益だけでなく、長期的かつ持続可能な成長を実現しようとしているのです。

例えば、環境に配慮した商品開発は、将来世代や地域社会のウェルビーイングに貢献します。同時に、そうした商品は環境意識の高い顧客の支持を得ることで売上増加につながり、結果として株主の利益にもなります。さらに、こうした取り組みに携わる社員の満足度や誇りも高まるでしょう。

この理念を実現するため、丸井グループはCWO(チーフ・ウェルビーイング・オフィサー)という役職を設置しました。日本企業としては先駆的な取り組みといえるでしょう。CWOは、従来のCSR(企業の社会的責任)やサステナビリティ推進の役割を超えて、全てのステークホルダーのウェルビーイングを考慮した経営戦略の立案と実行を担っています。

具体的な取り組み

1. 「応援投資」

丸井グループの革新的な取り組みの一つが「応援投資」です。これは、エポスカード会員が丸井グループの社債を購入できるサービスです。顧客が企業の成長を直接支援し、その恩恵を受けるという、まさに「共創」の理念を体現しています。

従来、社債の購入は機関投資家や富裕層が中心でした。しかし、この「応援投資」により、一般の顧客も比較的少額から企業の成長に参加できるようになりました。これは、金融の民主化とも言える取り組みです。

顧客にとっては、好きな企業を応援しながら利回りも得られるというメリットがあります。一方、丸井グループにとっては、顧客との絆を深め、長期的な関係を築くことができます。さらに、このサービスを通じて得た資金を新規事業や店舗改装などに活用することで、さらなる成長につなげることができるのです。

2. 手挙げ方式

社内では「手挙げ方式」を導入し、社員が自主的に参加したいプロジェクトや事業に関われるようにしています。2023年度には、この方式で参画する社員の割合が85%にも達しました。

この方式は、従来の上意下達型の組織運営とは大きく異なります。社員が自らの興味や能力に基づいてプロジェクトを選択できることで、モチベーションの向上や潜在能力の発揮につながります。

例えば、ある社員が店舗運営の経験を活かしてECサイトの改善プロジェクトに参加したり、別の社員がサステナビリティに関心があって環境配慮型商品の開発チームに加わったりすることができます。こうした自由な参加が、部門を超えた新しいアイデアの創出や、社員の成長につながっているのです。

3. フロー状態の重視

丸井グループは「フロー」という概念を重視しています。フローとは、心理学者ミハイ・チクセントミハイが提唱した概念で、行為に没頭し、時間の経過も忘れてしまうほど集中している状態のことです。2030年までに、フローを経験する社員の割合を60%まで高めることを目標としています。

フロー状態は、単に生産性が高いだけでなく、個人の成長や幸福感とも密接に関連していると言われています。丸井グループでは、社員がフロー状態を経験しやすい環境づくりに注力しています。

具体的には、以下のような取り組みを行っています:

  1. 業務の難易度と個人のスキルのバランスを最適化

  2. 明確な目標設定と即時フィードバックの仕組み作り

  3. 深い集中を妨げる不要な会議や割り込みの削減

  4. 社員の興味と業務内容のマッチング

これらの取り組みにより、社員は自身の仕事により深く没頭できるようになり、結果として個人の成長と企業の生産性向上の両立を図っています。

4. フェイルフォワード賞

失敗を恐れず挑戦する文化を育むため、「フェイルフォワード賞」という表彰制度を設けています。これは、失敗から学び、次につなげた取り組みを評価するものです。

多くの企業では、失敗は避けるべきものとされがちです。しかし、イノベーションを生み出すためには、新しいことへの挑戦が不可欠です。そして、挑戦には必然的にリスクが伴います。

フェイルフォワード賞は、単に失敗を称えるものではありません。失敗から学び、その経験を次の挑戦に活かした行動を評価するのです。これにより、社員は失敗を恐れずに新しいアイデアを試すことができ、組織全体の革新性が高まります。

例えば、ある店舗で新しい顧客サービスを試みたものの、期待通りの結果が得られなかった場合。その経験から学んだことを基に改善を重ね、最終的に成功につなげた取り組みが評価されるのです。

この賞の存在自体が、「失敗は学びの機会である」というメッセージを組織全体に発信しています。

成果は?

これらの取り組みの結果、具体的にどのような成果が出ているのでしょうか。

  • 職場で尊重されていると感じる社員の割合:28%→66%

  • 自分の強みを活かしてチャレンジしている社員の割合:38%→52%

数字を見ると、明らかな改善が見られますね。特に、職場で尊重されていると感じる社員の割合が2倍以上に増加したことは注目に値します。これは、手挙げ方式やフェイルフォワード賞などの取り組みが、社員の自主性や挑戦を尊重する文化の醸成に寄与していることを示しています。

また、自分の強みを活かしてチャレンジしている社員の割合の増加は、個人の成長と組織の発展が好循環を生んでいることを示唆しています。社員が自身の強みを認識し、それを活かせる機会が増えることで、より高いパフォーマンスと満足度につながっているのでしょう。

さらに、これらの取り組みは単に社員の満足度を上げるだけでなく、企業の創造性と革新性を高め、業績改善にも寄与していると評価されています。実際、丸井グループの業績は、これらの取り組みを本格化させた2014年以降、着実に向上しています。

例えば:

  • 営業利益:2014年度の約240億円から2019年度には約419億円に増加

  • ROE(株主資本利益率):2014年度の5.0%から2019年度には11.6%に上昇

これらの数字は、ウェルビーイング経営が単なる社会貢献や福利厚生ではなく、企業の持続的成長のための重要な経営戦略であることを示しています。

あなたの職場は?

ここで少し立ち止まって、自分の職場について考えてみましょう。

  1. 失敗を恐れずチャレンジできる雰囲気がありますか?

  2. 自分の強みを活かせていると感じますか?

  3. 会社の方針や決定に、自主的に関われる機会はありますか?

  4. 仕事に没頭できる環境が整っていますか?

  5. 自分の仕事が、顧客や社会にどのような価値を提供しているか理解していますか?

  6. 職場での取り組みが、長期的な視点で社会や環境にどのような影響を与えるか考える機会がありますか?

これらの質問に「はい」と答えられる人は、既にウェルビーイングな職場環境にいるかもしれません。一方で、「いいえ」が多かった人も、落胆する必要はありません。これらの質問は、自分の職場環境を改善するためのヒントにもなります。

例えば、質問1に「いいえ」と答えた場合、小さな挑戦から始めてみるのはどうでしょうか。新しいアイデアを提案したり、些細な業務改善を試みたりすることから、徐々に挑戦の文化を築いていけるかもしれません。

質問3に「いいえ」と答えた場合は、自分から積極的に意見を述べる機会を作ってみるのも一案です。会議で発言したり、上司に提案したりすることで、徐々に自主的な参加の文化を醸成できるかもしれません。

重要なのは、ウェルビーイングな職場環境は、経営者だけでなく、社員一人一人の意識と行動によっても作られていくということです。自分にできる小さな一歩から始めてみましょう。

最後に

丸井グループの事例から学べることは、ウェルビーイング経営が単なる福利厚生の向上ではなく、企業の持続的成長と社会貢献の両立を可能にする戦略的アプローチだということです。

特に注目すべきは、以下の点です:

  1. 全てのステークホルダーを考慮した統合的アプローチ

  2. 具体的な施策とKPIの設定

  3. 失敗を恐れない文化の醸成

  4. 社員の自主性と強みを活かす仕組み作り

  5. 短期的な利益だけでなく、長期的な価値創造を重視する姿勢

今後、多くの企業がこのような統合的なウェルビーイング経営にシフトしていくことが予想されます。その中で、具体的なKPIの設定や、経営構造全体への価値観の組み込みが重要になってくるでしょう。

また、ウェルビーイング経営は、SDGs(持続可能な開発目標)の達成にも大きく貢献する可能性があります。例えば、社員のウェルビーイングを高めることは、SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」に直接的に寄与します。さらに、以下のような関連性も見出せます:

  • 目標8「働きがいも経済成長も」:フロー状態を重視することで、社員の働きがいと生産性向上を同時に実現

  • 目標10「人や国の不平等をなくそう」:多様な社員の強みを活かす仕組みづくりが、職場での平等性向上につながる

  • 目標12「つくる責任つかう責任」:全てのステークホルダーを考慮することで、より持続可能な生産と消費のサイクルを創出

このように、ウェルビーイング経営は単に一企業の取り組みにとどまらず、社会全体の持続可能性向上にも貢献する可能性を秘めているのです。

ウェルビーイング経営は一朝一夕に実現できるものではありません。丸井グループの取り組みも、長年の試行錯誤の結果です。しかし、その過程自体が新たな企業文化を形成し、価値を生み出す源泉となるのです。

重要なのは、経営者だけでなく、社員一人一人がウェルビーイングの重要性を理解し、日々の行動に反映させていくことです。例えば:

  1. 自分の強みを認識し、それを活かせる機会を積極的に見つける

  2. 同僚の多様性を尊重し、お互いの強みを活かし合う関係性を築く

  3. 仕事の意義を常に意識し、社会や顧客にどのような価値を提供しているか考える

  4. 失敗を恐れず新しいことにチャレンジし、その経験を次に活かす

  5. 自分や周囲のウェルビーイングに気を配り、必要に応じてサポートを求めたり提供したりする

これらの小さな行動の積み重ねが、やがて大きな変化を生み出すのです。

最後に、ウェルビーイング経営は決して企業だけの問題ではありません。私たち一人一人が、自身のウェルビーイングについて考え、行動することが、より良い社会の実現につながります。仕事、家庭、地域社会など、様々な場面で自分らしく生き、周囲の人々とポジティブな関係性を築くこと。それが、個人と社会全体のウェルビーイングを高める第一歩となるのです。

あなたの職場や日常生活で、どんな小さな一歩を踏み出せるでしょうか?今日から、自分なりのウェルビーイング向上の取り組みを始めてみてはいかがでしょうか。


◯YouTubeリンク

◯参考記事
ハフィントンポスト
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_66879e3fe4b0971108c2b926

◯妊活なんでも相談:https://www.stork-consulting.jp/ninkatu-soudan/
※妊活や不妊に関することなど、テキストベースでご相談をお受けしております。

◯企業様向け研修・コンサルティング
ウェルビーイングやダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン・ビロンギングの推進に関するご相談を承ります。まずは以下までお気軽にご連絡ください。
info@stork-consulting.jp

●X:https://x.com/kifune_kazuya
●note:https://note.com/storkconsulting
●HP(株式会社ストークコンサルティング):https://www.stork-consulting.jp/


#ウェルビーイング
#少子化
#ダイバーシティ
#エクイティ
#インクルージョン
#ビロンギング
#deib

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?