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【"ゆとり教育"を再考する #1(全3回)】ゆとり教育の意外な効果 - PISAデータが示す真実

「ゆとり教育で日本の学力は落ちた」

この「常識」、実は完全に間違っているかもしれません。OECDが実施しているPISA(国際学習到達度調査)のデータを見てみましょう。

2000年(ゆとり教育開始直後)と2018年(ゆとり教育世代が15歳の時)を比較すると:

  • 読解力:522点 → 504点

  • 数学的リテラシー:557点 → 527点

  • 科学的リテラシー:550点 → 529点

※出典:OECD, PISA 2018 Results (Volume I): What Students Know and Can Do URL: https://www.oecd.org/publications/pisa-2018-results-volume-i-5f07c754-en.htm

確かに、点数は下がっています。しかし、順位を見てみると:

  • 読解力:8位 → 15位

  • 数学的リテラシー:1位 → 6位

  • 科学的リテラシー:2位 → 5位

順位はそれほど大きく変わっていません。なぜでしょうか?

実は、この間にPISA参加国が増えているのです。2000年は32カ国、2018年は79カ国が参加しました。つまり、競争相手が2倍以上に増えた中で、日本はほぼ同じ順位をキープしているのです。

さらに興味深いのは、日本の生徒の「学ぶ意欲」が大きく向上していることです。2003年と2018年を比較すると:

  • 「数学は楽しい」と答えた生徒:33.7% → 56.9%

  • 「理科は楽しい」と答えた生徒:50.5% → 81.2%

※出典:国立教育政策研究所「OECD生徒の学習到達度調査(PISA)」
URL: https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/index.html

これは注目に値する変化です。ゆとり教育の目的の一つが「自ら学ぶ意欲の育成」だったことを考えると、むしろ成功だったと言えるかもしれません。

では、なぜ「ゆとり教育=学力低下」という印象が広まったのでしょうか?

  1. メディアの報道バイアス 点数の低下だけが大きく取り上げられ、順位の維持や学習意欲の向上はあまり報じられませんでした。

  2. 大学入試の変化 ゆとり教育に合わせて入試問題が易化されたため、「学力が下がった」という印象が広まりました。

  3. 世代間ギャップ 親世代と子世代で受けた教育が大きく異なるため、互いの「常識」にズレが生じました。

しかし、ゆとり教育の評価はこれだけでは不十分です。実は、日本の教育には別の深刻な問題が存在しています。それは「教育の機会均等」の問題です。

文部科学省の全国学力・学習状況調査(2019年)によると、家庭の年収と子どもの学力には強い相関関係があります。

  • 家庭の年収が400万円未満の子どもの平均正答率:約62%

  • 家庭の年収が1000万円以上の子どもの平均正答率:約76%

※出典:文部科学省「令和元年度全国学力・学習状況調査 報告書」
URL: https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku-chousa/sonota/1347088.htm

この14ポイントの差は、およそ1年分の学習量に相当すると言われています。

さらに、日本学生支援機構の調査(2018年)によると、大学進学率にも大きな格差があります:

  • 年収400万円未満の世帯の大学進学率:約28%

  • 年収1000万円以上の世帯の大学進学率:約62%

※出典:日本学生支援機構「平成30年度学生生活調査結果」
URL: https://www.jasso.go.jp/statistics/gakusei_chosa/index.html

つまり、「ゆとり教育が失敗した」というより、「教育の機会均等が実現できていない」ことこそが、日本の教育の本当の課題なのかもしれません。

この教育格差の問題は、単に個人の問題ではありません。社会全体に大きな影響を与える可能性があります。例えば:

  1. 社会の流動性の低下 教育格差は、世代を超えて固定化される傾向があります。これは、社会の流動性を低下させ、イノベーションや経済成長を阻害する可能性があります。

  2. 人材の損失 経済的理由で十分な教育を受けられない子どもたちの中には、潜在的な才能を持つ人材が埋もれている可能性があります。

  3. 社会の分断 教育格差は、長期的に見て社会の分断を深める可能性があります。これは、社会の安定性や民主主義の健全な機能を脅かす可能性があります。

次回は、この教育格差の実態をより詳細に分析し、その解決策について考えていきます。


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