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SF短編小説 「宇宙の花びら」


人類が誕生するわずかな時を前にして、火星からの訪問者がいた。

その名はタコ、彼は自らの宇宙船を操り、果てしなく広がる宇宙を旅して地球へとたどり着いた。彼が選んだ着陸点は、海のそばの静かな陸地。そこに拠点を設置し、地球の神秘を解き明かそうと周囲の探索を始めたのだ。彼の探索は、地球上のさまざまな生命との出会いをもたらした。木々、動物、そして多くの植物。しかし、その中で彼が最も心を奪われたのは、ある一輪のピンク色の花だった。その花びらは桜にとても似ていて、可憐な姿をしていた。

タコはその花を火星に持ち帰ることを決意し、細心の注意を払ってその花を採取した。彼の心に一つの願いが芽生えた。火星でも、この花が咲き誇り、火星の荒れた大地に色と生命をもたらしてほしいという願いだ。

探索を終えたタコは拠点に戻り、採取した土と花を円柱形の容器に入れ、花を眺めながらスケッチとその特徴を分厚い一冊のノートにまとめはじめた。

「名前はどうしようか」タコはつぶやいた。頭をかきながらじっくり考えた末、チェリーと名付けた。


そして、長い宇宙の旅の末、タコは無事に火星へと帰還した。彼はその花を火星の大地に植え、日々その成長を見守った。彼の願い通り、やがてその花は火星の大地に根を下ろし、美しいピンク色の花を咲かせた。

しかし、その喜びもつかの間、タコはあることに気づく。地球と火星とでは、環境があまりにも異なり、その花は永遠に持続することができないことを。花は徐々に弱っていき、やがて枯れてしまった。

その時、タコは深い悲しみに包まれた。彼はその花を通じて、地球の豊かな自然と生命の美しさを火星に持ち帰りたかっただけだった。しかし、彼の試みは、火星の過酷な環境の前には無力だった。

タコは、失われた花のそばで長い時間を過ごし、その花がもたらした短いけれども美しい記憶を胸に秘めた。そして彼は悟った。生命とは、その場所、その環境に根ざしてこそ真の美しさを発揮するものであり、それを他の場所に移そうとすることは、時としてその生命を危険にさらすことになると。

その後、タコは再び宇宙船に乗り込み、新たな旅へと出発した。彼の心には、地球で出会った一輪の花の記憶と、その花に学んだ教訓が刻まれていた。彼は宇宙の旅を続けながら、生命の尊さとその多様性について深く考え続けた。

そして、彼は知った。どんなに遠く離れた場所にいても、心の中に持ち続けることができる美しいものは、決して失われることはないと。





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