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短編小説 「カメラ」


ジェムは政治家の汚職を暴くことに人生を賭けていた。正義感が人一倍強い彼は、23歳にしてフリーの政治記者として活動しており、昼も夜もなく汚職事件の証拠を追いかけていた。その日も、彼はある汚職政治家を追いかけ、会員制レストランの近くで張り込んでいた。

ジェムはカメラを構え、息を潜めながら目当ての政治家が現れるのを待っていた。心臓が鼓動を速めるたびに、彼の手は少し震えた。しかし、そんなことに構っている暇はなかった。政治家が黒い車から降り、闇の中に消える瞬間、ジェムはシャッターを切った。レストランの明かりを頼りに何枚も何枚も撮影した。

「これで終わりだな」ジェムは心の中でそうつぶやき、カメラをカバンにしまった。

しかし、彼が帰ろうとした瞬間、背後から何者かが近づき、鋭い痛みが肩に走った。振り返ると、黒ずくめの男が無言でジェムに襲いかかり、カメラを奪おうとしていた。必死に抵抗するジェムだったが、カメラは壊され、男はその場を立ち去った。

「くそっ……」ジェムは肩を押さえながら何とかその場を逃れたが、カメラの中の証拠写真はすべて無駄になってしまった。帰宅後、彼は自分の無力さを感じ、悔しさと怒りで眠れない夜を過ごした。

翌日、ジェムは中古カメラ屋を訪れ、壊されたカメラの代わりを探していた。店内を歩き回っていると、レトロな雰囲気のビンテージカメラが目に留まった。古びた革のケースに収められたそのカメラは、まるで彼を呼んでいるかのように感じられた。ジェムは直感でそのカメラを手に取り、レンズを覗き込んだ。

「これだ」と彼は感じ、少し高かったがそのカメラを購入した。

帰宅してから、ジェムはそのカメラを使ってみようと試し撮りを始めた。まずは家の中にあった雑貨を撮影してみたが、なんの変哲もない写真が現像された。次に、自分の姿を撮影してみた。その写真を見たとき、ジェムは背筋が凍る思いをした。写真の中に映っていたのは、今の自分ではなく、見知らぬ場所で見知らぬ人々に囲まれている自分の姿だった。

「なんだこれは……?」ジェムは混乱しながらも、さらに写真を撮り続けた。試しに街中で人々を撮影してみると、彼らの過去の出来事や未来の姿が映し出された。

このカメラは、ただのビンテージカメラではなかった。レンズを交換することで、その被写体の真実と過去、そして未来が見えるという異能を持っていたのだ。

ジェムはこの力を使って再び汚職政治家を追い詰める決意を固めた。彼はその政治家をカメラに収め、現像を始めた。すると、予想外の光景が広がった。政治家の過去、彼が何者かに指示を受けていた姿が写っていたのだ。その指示を出していた人物は、まさにジェムが信頼していた恩師だった。

「嘘だろう……」ジェムの手が震えた。正義を信じて疑わなかった彼が、最も信じていた人間が汚職の黒幕だったのだ。さらに、彼が自分の未来を写してみると、そこには真っ暗な闇に飲み込まれた自分の姿があった。

「俺は……どうすればいいんだ?」ジェムはカメラを持つ手を握りしめた。正義を追い求めた結果、自分の人生が暗黒の道へと向かっているのを知った彼は、苦悩し、答えを見つけられずにいた。

だが、彼は決して諦めなかった。ジェムは、カメラを手に再び立ち上がり、自分の信じる正義を追い求めることを決意するのだった。その先に何が待ち受けているのかは分からないが、彼はその闇の中に飛び込んでいった。





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