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短編小説 「2人の紫陽花」

高校2年生の亮介と麻里は、同じクラスで、同じく生物部という共通の趣味を持つ友達だった。二人はクラス中でも個性的で、それぞれが自身の個性を活かしてクラスの雰囲気作りに貢献していた。

麻里はクラスのムードメーカーであり、その自由で活発な性格は彼女をクラスのアイドル的存在へと押し上げていた。スポーツが得意で、特にバレーボール部でも活躍していた彼女は、常に周囲をエネルギーで満たす存在だった。

一方の亮介は、落ち着いた性格でありながらも、その内面には強さと頼りがいのある雰囲気を持っていた。彼は文学に興味があり、特に自然科学や生物学に強い興味を持っていた。それゆえ、彼は生物部の一員として、自分の知識を共有し、学ぶことに情熱を傾けていた。

紫陽花の季節が訪れると、二人は年に一度の特別な日を迎えた。それは、小学生の頃に偶然、雨降りの中で見つけた紫陽花の公園で過ごした一日が、彼らにとって忘れられない記憶となっていたからだった。

彼らが小学4年生のときに行ったこの遠足は、二人にとって特別な経験となり、それぞれが持っている共通の記憶を深めるものとなった。彼らがその公園で見た鮮やかな紫陽花は、その日以来、二人の間で特別な意味を持つようになった。

そして、その時期が再び訪れた。雨が降りしきる空から、紫陽花の鮮やかな色彩が生まれる季節が。二人は電車に乗って思い出の公園に向かっていた。亮介は、窓の向こうに広がるその風景を静かに眺めていた。

その一方、麻里は静かに亮介の横顔を見つめていた。電車の窓からの風景と亮介の顔を交互に見つめる彼女の視線は、紫陽花の美しさだけでなく、亮介への深い思いをも映し出していた。長年にわたる思いが押し寄せる中、彼女は亮介への感情を伝える決断をしていた。

その日、二人は遠足で見つけた紫陽花の公園で、美しい花々に囲まれて一時を過ごした。紫陽花の深い色彩に囲まれ、時折舞い降りる雨粒の音を聞きながら、二人はそれぞれの思いを胸に秘めて黙々と時間を過ごしていた。

そして、麻里はその場所で、ついに自分の感情に正直になる決断を下したのだ。麻里が呼びかける声は、亮介に向けられた心の告白の始まりだった。

「亮介、私…」彼女の言葉は紫陽花に紛れて静かに響いた。彼女が続けるまでの間、時間がゆっくりと流れているように感じた。

そして麻里は告白した。「私、亮介のことが好き。」その一言は彼女の感情を包み込むように柔らかく、それでいて力強く響いた。それは、長年抱き続けてきた、隠し続けてきた感情の全てを一瞬にして解放した言葉だった。

彼女の告白に、亮介は驚きの表情を浮かべて彼女を見つめた。それは、亮介が麻里の感情を初めて知った瞬間でもあり、彼女が初めて自分の心を赤裸々に表現した瞬間でもあった。彼女の声が、雨粒が花びらに打ち付ける音と共に静かに響き渡る中、紫陽花の中で二人は新たな関係への扉を開いていた。

終わり。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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