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恋愛短編小説 「満月が咲くガレージ」


その日は、夜空に大きなヤマブキ色の満月が咲いていた。

自宅のカビ臭いガレージで古本を整理している時、小さな天窓から満月は見えた。その月の光が、何か古い記憶の扉を開けたかのように、僕の心に静かに降り注いでいた。それはまるで、時間を超えて、あの日の彼女との思い出が蘇ってくるようだった。

彼女との出会いは、大学時代にさかのぼる。キャンパスの図書館で、黒髪ショートの彼女はいつも一人で勉強していた。僕は彼女の静かな姿に心惹かれ、何度もその場を通りかかるようになった。そして、勇気を出して声をかけたあの日から、僕たちは少しずつ話すようになった。

彼女の名前はアキだった。アキは文学が好きで、よく詩集を手にしていた。彼女とのデートはいつも、古書店巡りやカフェでの長い会話が中心だった。僕たちはお互いの好きな作家について語り合い、時には一緒に詩を書いたこともある。彼女の笑顔、彼女の考え、彼女の全てが、僕にとって新鮮で、かけがえのないものだった。

しかし、卒業を境に、僕たちの道は分かれた。アキは海外で学ぶ夢を持っており、僕は故郷に戻ることを選んだ。最後に会ったのは、卒業式の夜、満月の下だった。僕たちはお互いの未来に幸あれと願いながら、涙をこらえて別れを告げた。それから何年も月日が流れ、僕たちは連絡を取ることもなく、それぞれの道を歩んできた。

今、僕は再び満月の下で、アキとの思い出に浸っている。月の光が彼女の面影を照らし出し、心の奥深くにしまっておいた彼女の声や笑顔が、鮮やかに蘇ってくる。アキがいない今も、彼女が僕の人生に与えた影響は計り知れない。

僕は、ふと本棚から一冊の詩集を取り出した。それはアキが僕に贈ってくれた本だ。ページをめくると、彼女の書き込みがあちこちに見つかる。彼女の字は、まるで彼女自身がそこにいるかのように、僕に語りかけてくる。そして、僕は改めて気づく。アキとの出会いが僕の世界をいかに豊かにしてくれたかを。

月が西へと移動していくにつれて、僕はガレージを出て、家の中へと戻った。手にした詩集を胸に抱え、僕は窓から再び満月を見上げた。もしも時間を戻すことができたら、もう一度だけ、アキと話ができるなら。でも、それは叶わぬ願い。

だからこそ、僕は今を大切に生きようと思う。満月の夜に訪れる、甘く切ない記憶は、僕がこれからも歩んでいくための、かけがえのない糧となるのだから。




時間を割いてくれてありがとうございました。

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