見出し画像

短編小説 「断言」


灰色の空の下、本屋の隅っこは俺の隠れ家みたいな場所だった。ここには、普通の高校生が軽く見過ごすような、深く複雑な物語が並ぶ。俺にとっては、この場所が現実から少しだけ逃れられる唯一の場所。だが、その平穏は突然、彼らの乱入で破られた。

足音が響くと、空気が一変した。「おっ、ハルカじゃねえか。こんなトコで何してんだ?」彼らの声はまるで荒々しい風が一陣吹き抜けたみたい。俺の同級生、いつも群れている男たちが、俺の隠れ家を見つけてしまった。普段は、彼らがどこにいようと気にも留めないが、今日はどうやら運がなかった。

「おい、ハルカ。何読んでんだよ、そんなに面白いのか?」下品な笑い声を挟みながら、彼らは俺の隣までやってきた。俺はこの本屋での静けさを愛していたが、彼らはその空気を完全に無視する。彼らの存在は、この本屋にとっても、俺にとっても、あまりにも浮いていた。

「一緒に18禁コーナーへ行こうぜ」と、彼らの中の一人が軽薄な笑いを浮かべながら提案した。その言葉が耳に入ると、俺は内心で深くため息をついた。こんな幼稚な誘いに俺が応じると本気で思っているのだろうか。

「バカ」と俺は言葉を返した。それはただの罵倒ではない。俺の中にある、誰よりも強くありたいという信念から来る断言だ。俺にとっての強さとは、肉体的なものではなく、不変の精神的なもの。男たちの浅はかさは、俺には明らかだ。彼らはただのバカでアホ、その事実をはっきりと見抜いている。

彼らは一瞬、俺の一言に言葉を失った。しかし、その沈黙はすぐに無邪気な笑いに変わった。「ハルカってやつは、いつもつまらねえな。女の子みたいな名前なのに可愛げがねえな」と彼らはあざ笑う。俺はその言葉を背にして、再び手に取った小説へと視線を落とした。俺の世界と彼らの世界は、完全に異なる。俺は彼らの浅はかな笑いを気に留めず、深みのある物語に再び没頭する。

俺は誰にも負けない。小説の主人公のように、俺もまた、自分の人生の主人公なんだ。彼らに振り回されることなく、俺は俺の道を行く。

そして、俺は知っている。本の世界には、現実を超える強さがある。その強さを、俺はこの本屋で見つけ出す。それが俺の、この冷たい現実を生き抜く力になる。

彼らとの遭遇は、俺にとって単なる一コマ。それよりも大切なのは、俺がここで見つける物語。それが俺を、誰よりも強く、誰にも負けない存在にしてくれるんだ。




時間を割いてくれてありがとうございました。

この記事が参加している募集

眠れない夜に

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?