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短編小説 「昼下がりの君へ〜ダンとジュン」

前回のお話↓

ダンとジュンは空から降ってきたメモリーボムを開けた。中身は滅びた国の文字で書かれた手紙だった。手紙を読んで夜空に青い花火を打ち上げた。



ヒュー、ボォーン、夜空に打ち上がった青い花火を見届け終わると、僕とダンは家の中に戻った。ダンは二階の自分の部屋に戻り、僕は自分の部屋ダイニングのソファーに寝転んだ。天井のケチャップのシミが人が叫び声をあげる姿に見えた。


「ダ〜ン!」叫べばすぐに駆けつけてくれるそれがダンだ。ダンの部屋のドアが勢いよく閉まる音が聞こえ、家がかすかに揺れた。雪崩のような足音と共にダンが降りてきた。

「どうしたジュン」もう寝る時間にもかかわらず棒付きキャンディを咥えた、背の低いちょっと太ったダン。アニメのTシャツがダンのトレードマーク。

「天井見てよ」僕は天井を指差した。

「なんだケチャップのシミがじゃねぇか」ダンは僕の隣に寝転んで天井を見上げた。ダンの頭がすこし汗臭かった。でもそれがダン、僕の友達、僕の家族。ダンがいるから僕がいる、僕がいなくてもダンはいる。ケチャップを水鉄砲代わりにして射撃大会を開いてくれるのはダンだけ。

「あのシミ、人が叫んでるように見えない」僕にはケチャップのシミもトイレの木のドアの模様も人が叫んでいるように見えるんだ。そういえば、牛乳にコーヒーを注いだときも人が叫んでいるように見えた。喜びを叫んでいるんじゃなくて、恐怖と憎悪を叫んでいるような様子だった。

「えぇ、人か、俺には決戦前の東京スカイツリーに見えるぞ」どうやら、ダンには滅びた国の電波塔に見えたらしい。僕はその塔を見たことがない。僕が産まれる前にその塔は崩れてクズになったと聞いた。崩れる前は世界で一番高い電波塔だったらしい。見てみたかった。

「ダン、決戦前と後の話をしてよ」僕はダンの『決戦』の話が好きだった。ダンは僕の友達で唯一決戦を間近で見ていた。

「その話はなん度もしたろ。ほんと飽きねぇジュン。いいだろ話をしようじゃねえか」ダンは両腕をあげて動きをまじえながら話してくれた。ダンの飛行機の真似と決戦の轟音の再現が面白くてなん度も笑った。電波塔が崩れるときの音を再現と塔が崩れる動きに笑った。決戦が進むにつれて更地が増えていったとダンは言った。火山が噴火して青い空が数時間で灰色に染まったらしい。

決戦後の話もしてくれた。

山や建物がなくなって更地になったものの瓦礫が増えて後始末が面倒だったらしい。決戦後の空はしばらく灰色のままだったらしい。そして、時が経ってようやく空が見えたと思ったら、空は赤く染まっていた。最初は、夕焼けと思われたらしい、だがしかし、それは夕焼けではなく昼間の空だった。赤く染まった空はそれからずっと今のままで続いてる。

「ダンは青と赤どっちが好き」天井のケチャップを見ながら聞いた。

「俺は断然、赤だ」ダンはすぐに答えてくれた。お互い顔は見えなかったけど、きっとダンの表情はいつもの僕を楽しませる笑顔のはず。


「よかった。僕も赤が好き」




時間を割いてくれてありがとうございました。

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