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【バイリンガルの憂鬱な日常】黒うどんって美味しいですか?

20代の頃、ある会社の大阪支社で働いていました。
東京本社から月1出張で来る上司がいて、その方からは毎度「行きたいお店リスト」が社内メールで送られてくる。その中から店を選び、集まる人数を把握して予約するのがわたしの仕事でした。
その方は毎月、前泊で大阪にやってきます。
しごとするのは次の日だから日帰りでもいいんだけど、必ず前泊。
なぜなら「大阪にしごとで来る」というより、「大阪にごはんを食べにくる」ようなものだったからです。

その方は次の日のランチも、必ずお気に入りのうどん屋へ。
「うまい!うますぎる!〇〇屋のおじやうどんは最高だ」
「おにぎり3つもついて750円なんて信じられない!」
と、毎回同じテンションで心斎橋のうどん屋に興奮します。

「ランチ行かないの?」
「あ、今から行きます」
「〇〇屋(うどん屋)、行きなよ」
「あ、行かないですけど」
「なんで行かないの!?きのう行ったの!?」
「いや、まぁ……」

正直、わたしからすると普通のうどんなんですよね。
そりゃあ美味しいけど、そこまで言うほど美味しいか……?という感じ。
「関東のうどんは黒い」
というし味が違うとは聞いていたものの、しょせん、おうどん。
(黒いのはうどんスープの話。うどんは白い)
そこまで味に振り幅があるものなのかなぁ?と不思議に思っていました。

そんなある日、めずらしくわたしがしごとで東京へ行くことに。
その方がランチに連れて行ってくれることになり、
「せっかくだから黒うどん食べていきなよ!」
「記念、記念!」
と、黒うどんを初体験する運びとなりました。

少し不安はあったものの、まぁ大丈夫だろうと。同じ日本人である関東人がずっと食べているわけだし、どこかの部族の昆虫食じゃあるまいし。
出てきたうどんは関西人のわたしからするとギョッとするくらい黒かったけど、中のうどんが半分くらいは透けていた。どうやら黒うどんの中でも「黒濃度うすめの店」だったらしい。

実食!
軽い気持ちで一口食べたわたしは、衝撃を受けました。
びっくりするくらい口に合わない。
身体がまったく受け付けない。
食べようとがんばるんだけれど、とにかく箸が進んでくれない。
これでも黒が薄めな店なのに。
全席半個室の上品な、天ぷらうどんが2,500円もする高級な店なのに!

ご馳走してもらうのだからちゃんと食べようと決意していたにもかかわらず、半分も食べれずギブアップしてしまいました。

「本当にすみません」
「いやいや、大丈夫だよ」

ムクムクと湧き出る疑問。
関東の人は、こんなマズイうどんを平気で食べてるの?
いやいや、わたしが関西人だから口に合わないだけで、関東の人にとっては慣れ親しんだ味なのかもしれない。

「関東の人は昔からこのうどんを食べてるし、これはこれで美味しいと思うものですか?」

食の好みは人それぞれだし、わたしが美味しいと思うすべてが正解ではないだろう。関西の味は口に合わないという人もいるだろうし。
そう自分を納得させかけたとき、その気持ちをあっさりと打ち砕く答えが返ってきました。

「いや、美味しくないよ」
「関西のうどんのほうが断然おいしい」

なんじゃそれ。
じゃあ何のために我慢して、マズイうどんを食べ続けてるの?関東人は。
鎖国してるわけじゃあるまいし、関西のうどんスープを取り入れたらいいじゃない。
ほんまに意味がわからん。

この数年後、わたしはまさかの関東移住することになったのですが……
その頃にはポツポツと、はなまるうどんや丸亀製麺が関東にも進出していました。
「あれ?はなまるうどん、できてるやん!」
と思っていたら、あっという間にはなまるうどんだらけになったイメージ。
そういえば関東に住んで12年以上経つけど、黒うどん見ないなぁ。
もしかして無くなったのだろうか?
わたしが関東ではほぼチェーン店にしか入らないので、昔ながらの個人店などにはまだあるのかもしれません。

うどん以外にも「食」のカルチャーショックは大きくて、引っ越し当初は数々の戸惑いを抱えながら生きていました。
しかし数少ないママ友の一言で、「そういうことか!」といっぺんに謎が解けた出来事も。
それは次回書きます。

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