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続~平日の昼下がり

はっきり言って心のなかは
モヤモヤしていた。
今日は、物事の在り方のすべてが
中途半端な気がするのだ。
傍から見れば、そんなことは
ないのかも知れないが
俺自身は、そんな風に感じてしまう。

今後の展開も気になるところだ
この物語の主人公は目的地に着き
お客と今まさに、会おうとしている。
「さあ、どうしよう。」
ここでひとつ事件が起きるのか?
それとも、普通の流れに沿って
話を進めていくのか。

この時点では、まだ決まってはいない。

この物語は、「とある平日の昼下がり」からの続きである

時計の針はすでに4時をまわっていた。
「ちょっと遅刻だな。」
約束の時間は過ぎていたが
やっと目的地に着いたところだ。
約5分の遅刻である。
ふっと肌を通り過ぎた空気は、
まだ温かく感じた。
上着を羽織るには、
ちょっと暑く感じるであろう。
そんな陽気ではあったが、
オレは後席のハンドグリップに
かけてあるハンガーの上着を着て、
カバンを手に取った。

そして、車を降りてから、
車の窓ガラスに自分を映しながら
衣服の乱れなどを軽くチェックし、
キーに備わっているドアロックの
スイッチを押して
車からのアンサーバックを確認した。
説明がくどくなってしまうが
アンサーバックとは
車のドアがロックされたことを
ハザードランプの点滅や
電子音などによって
お知らせする機能なので
これだけでも、ロックされたことは
確認出来るのだが
車のドアのハンドルを
手前に引くことによって
再度、ロックされていることが
確実であることを確認してから、
玄関の手前まで歩いて行き
ひと息ついて、
そして、
とびらの脇にある
インターフォンを鳴らした・・・。

「ピンポーン」

「はいはい、ちょっと待ってね。」
インターフォンの奥からの声を
聴いてから、
数分後、玄関のドアが開き
「あぁ、どうもどうも」
「急で悪かったね。」
「まぁ、中に入ってくださいよ。」

「ん?今日は、機嫌がいいのかな?」
俺は遅刻したことを咎められるのではないか?
という不安を抱いていたが、
まったく触れることはなかった。

数年前ではあるが、
以前、一度だけ遅刻したことがあって
その時は、ムシの居所が
悪かったのか、えらく叱られた憶えがある。
今回も、その可能性を懸念していたのだが
まったく、そんなことはなかった。

手続きは玄関先でも出来るのだが
奥の書斎まで案内され、
俺は促されるまま、腰かけに座った。
書類と、ノートパソコンを
手前のテーブルの上に乗せて
内容の説明に入ろうとしたところで
口を開いてきた

「知人に聞いたんだけど、
 電話だけでも契約できるそうじゃないか」
「わざわざ、今日、
 ここまで来ることはなかったんじゃないの?」

「はい、確かに、電話募集という形でも、
 ご契約は出来るのですが、なにぶん、
 内容の確認については、対面の方が
 ご理解も得られやすいのではと思いまして」

「まぁ、確かに、そうなんだけどね」
「こちらとしては、めんどくさいんだよね」

「はい、お気持ちは、ごもっともなんですが」
「現在のご契約の状況の確認や、
保険会社から、新しい特約や、
細かい内容の変更があったりするので
実際、こうしてお会いして、ご説明するというのは
私にとっては、凄く重要なことかと思うんですよ」
「実際、定期的にお顔を合わせると
   いうことも大事かと思いまして」
俺は少し説明が長いかとも思ったが
自分の思いの丈を話した。

「ん、まぁ、分かったよ。」
俺は、自分の思いが通じたかと思ったが
次のひと言で、それは杞憂であると悟った。
「だけど、前回と同じ内容でいいから」
「早めに済ませて」
「細かい説明もいらないしね。」

「かしこまりました。」
これ以上、話してもムダだと思い
俺は、手続きを進めた。
「お電話でも、ご説明しましたが、
 免許証の確認だけさせてください」

「いやいや、いいでしょ。」
「前回と変わりないし」

「申し訳ございませんが、
 ここは、お願いいたします。」
俺は緩い口調ではあるが、強く迫った。

世の中には、口頭のみで
済ます場合も多いかも知れない
しかし、なかには、免許停止中だったり
ひょっとしたら、免許取り消しに
なっているという場合もある。
そして、保険の契約をするときは
免許証の次回の更新年月日を
記入するところがあるが
実際、この目で見ないと
信用できない部分があった。

そうなのだ、過去に苦い経験があったのだ。

だから、免許証を確認するときは
必ず直接、この目で見るべきだと思っている
私が電話だけで契約をしない理由も
ここにあった。

お客は、観念したのか、部屋を出て
そして、数分後に、戻ってきた。
「はい、どうぞ」
目の前に置かれた免許証を見て
問題がないことが確認できた。

そして、年齢条件や、
本人限定であることの確認
免許証の色と、有効期限。
それらを確認したうえで
補償内容などの説明をして
契約を完了した。
意識して時間を計っていたが
所要時間は、おおかた
15分くらいだったと思う。
まぁ、長くもなく、短くもなくである。

後日、保険証券が郵送されることと
貴重なお時間をいただいたことへの
お礼を告げて、
俺は、お客の家をあとにした・・・・。


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