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【Steve* クリエイティブ酒場】 第3回(後編)「デザインはいいんだけどね」と言われるのが一番ショック

日本のどこかにお酒を酌み交わしながら、腹を割って語り合える一夜限りの酒場がある――。その名も「Steve* クリエイティブ酒場」。ブランディングや商品開発を企業と一体となり行うクリエイティブカンパニー、Steve* inc.の代表取締役社長で唎酒師でもある太田伸志が、今語り合いたいクライアントをおもてなしする特別な席。

今回も第3回(前編)に引き続き、株式会社メンバーズ取締役の高野明彦さんをお迎えしています。

後編では、クリエイティブの価値や目指す役割を語り合いました。


プロフィール

今回のお客様:

株式会社メンバーズ 取締役
高野 明彦(たかの あきひこ)

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一橋大学卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。2005年に株式会社メンバーズに入社し、2016年4月常務執行役員に就任。2006年11月の株式公開を始めとし、リーマンショック後の全社変革プロジェクト、人事制度改革、中期経営計画の策定・実行、ミッション・ビジョンの浸透プロジェクト、東京証券取引所市場第二部上場など全社的な重要プロジェクトの推進を数多く担う。2021年からは持続可能な脱炭素社会の実現のため発電事業を行う子会社、株式会社メンバーズエナジーの代表取締役社長も務める。


オーナー:

太田 伸志(おおた しんじ)

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株式会社スティーブアスタリスク 代表取締役社長。宮城県出身。クリエイティブディレクターとして、広告企画や商品開発を多数手がけると同時に、大好きな地元、東北を中心にした地域ブランディングにも積極的に取り組む。また、武蔵野美術大学や東北学院大学の講師も歴任するなど、大学や研究機関との連携にも力を入れている。作家、唎酒師としても活動。『アニメ 大福くん』脚本執筆、Pen Online『日本酒男子のルール』連載、七十七銀行FLAG『大学で教えてくれないことは東北の居酒屋が答えをくれる』連載など。


■より良い未来を自分たちでデザインする


太田:昨年は「未来デザインフェス」のオープニングトークでご一緒させていただいて、ありがとうございました。参加していた学生のモチベーションが高くて、質問もたくさん出て良かったです。

高野:こちらこそご登壇いただき、ありがとうございました。あのイベントは、メンバーズが運営している学生向けのオンラインコミュニティー「Practica(プラクティカ)」が母体になっていて。社会課題解決スキルやクリエイティブスキルといった「未来創造型のデザイン思考」を学生に持ってもらうために、色々と活動しているんです。

太田:いいですね。確かにフェスでは「Futures Design(フューチャーズデザイン)」をはじめ、未来をどのようにデザインしていくべきかというキーワードがたくさん出てきました。

高野:「Futures Design」は、僕たちメンバーズのスキルフェローであるデンマークのデザインコンサル会社、Bespokeが生み出した未来を描く課題解決手法なんです。デザイン思考という基本的なフレームワークをもとに、環境やサステナビリティ、人間の幸せなどとの調和をとりながら、望ましい未来に向けてデザインをする。理想的な未来を生みだすためのデザイン思考ですね。

太田:なるほど。僕も僕なりにFutures Designを解釈したのですが、課題の多い社会において自らが行動するためのデザインのような気もしていて。例えば、自分のキャリアをデザインすることもFutures Designになると思うんです。

高野:そうなんですよね。国際的なデータをみても、未来を自分の手で変えられると思っている若者の割合が日本は著しく低い。でも、未来デザインフェスに参加した学生たちの意識は、どんどん良い方に変わってきている。

太田:それはすごい。良い未来をつくるために、クリエイティブ視点でどのようにアプローチするかを大切にしているSteve* inc.としても、高野さんがやろうとしていることは企業活動としても最先端だなと思いますし、思っていても実際に大規模に組織で運営することはなかなか出来ません。本当にすごい!って思っています。


■ほんとうのことをちゃんと”伝える”クリエイティブを

太田:そろそろ次の日本酒にいきましょうか。つまみは「浪花家総本店」のたい焼きを用意したので、浪花家の爽やかな甘みのあんこに合うイメージで日本酒を用意してみました。青森県の酒蔵、八戸酒造が造る「陸奥八仙 ヌーボー 特別純米 おりがらみ 生原酒」です。さあ、どうぞどうぞ。



高野:うわあ〜。さっきの日本酒よりも香りがフルーティーですね。このたい焼きもすごい。あんこが滲み出ている。

太田:かなり贅沢なデザートですよね。うん、あんこに負けない濃厚さが陸奥八仙にはあるので、口の中が新しいデザートみたいになっていますね!後味もフレッシュにまとまる感じが素敵。この日本酒は青森を代表するお酒の一つなのですが、やっぱり東北のお酒は良いですねぇ。

高野:唎酒師、さすがですね! 太田さんの日本酒のお店ができたら、もっと色々と教えてもらいたいなあ。

太田:ありがとうございます。今は特に日本酒とつまみの組み合わせを勉強しているんですが、まだまだ知らないことが多いなと感じていて。知らないことが多いっていうのは、もちろん日本酒だけに限った話ではなくて、会社経営となると尚更。組織や事業の作り方など、僕の方こそ高野さんに教えていただきたいことがたくさんあるんです。そういえば高野さんは最近、発電事業を行う会社も始められましたよね?

高野:まだ事業というほどの規模ではないのですが、千葉県にソーラー発電所を建設しました。畑でさつまいもをつくりながら太陽光発電をしています。

太田:なんか楽しそうだなあ。でも、なんでまた発電事業を?

高野:これからは地域ごと、そして企業ごとに産業を興す必要があると思っていて、そのためにも分散型でサステナブルな仕組みを作りたいと考えたのが一番の理由です。これまでのように右肩上がりで企業も社会も成長する時代は、何をするにも中央集権型の方が効率が良かった。でもこれからはそうじゃない。例えば再生エネルギーを作る時に効率性を重視すると、大きな山を切り崩してメガソーラーをつくるのがいいとなってしまいますよね。

太田:たしかに。でもそれって今っぽくはない気がしますね。

高野:そうそう。なので地域に分散しながら小規模に再生エネルギーをつくる。こうした取り組みはサステナブルで続けやすい上に、経済価値もしっかりと出せます。こういう動きをもっと流行らせたいんですよね。メンバーズではこれまでにも地方への拠点作りを進めていて、400人ほどのクリエイターの雇用を創ってきました。今までは大手企業が地方にオフィスを新設するとなると、受託開発のようなケースが多くて、クリエイティビティは求められなかった。でもこれからは、それぞれの主体がクリエイティビティを持って、地域の産業を興す時代だと思っているんです。その一つとして発電があるという捉え方です。

太田:なるほど。地方にオフィスがあって地元で雇用するだけではなく、個々の取り組みを確立させるためにも、それぞれの地域らしい独自性やクリエイティビティを出さなくてはいけない。今のお話を聞いて、高野さんがやろうとしていることをもっと世の中へ伝えたいと一層思いました。

高野:それは嬉しい、ありがとうございます。

太田:そもそも僕は、デザインとはほんとうのことをちゃんと伝えることだと捉えていて。だから「デザインはいいんだけどね」と言われるのが一番ショックなんです。「デザインはいいんだけど、味が合っていない」と言われる時は、味の中身を伝えきれていないデザインが悪い。「デザインはいいんだけど、サービス内容が理解しにくい」と言われる時は、サービス内容の本質を捉えきれていないデザインが悪いと僕は思っていて。世の中にほんとうのことをちゃんと伝えるために、クリエイティブをつくっていきたいです。


■どんな提案にも、実現したい未来のイメージを込める

太田:高野さんは事業を通じて社会に貢献することを体現されていますが、経営と社会貢献の2つのバランスについてはどうお考えですか?

高野:そもそも経営は常に様々な矛盾と対峙しなくてはいけないので、折り合いの付け方はいつも頭の中にあります。社会貢献もその中のひとつという感覚です。会社の経営にとってプラスかマイナスかで捉えるのではなくて、両方プラスにするにはどうすべきかと検討する。でも大前提としては、クライアントにとって一番のデジタルマーケティングのパートナーになることを真っ先に考えています。

太田:まずは事業を通じて、経済的な価値をしっかりと創る。

高野:そうです。マーケティングの効果を出しながら、僕たちが大切にしているCSV(Creating Shared Value)の重要性をクライアントに頻繁に伝える。無視されても提案し続けますからね(笑)。

太田:それはすごい(笑)。

高野:なぜかというと、こういう時代、必ずどこかのタイミングでクライアントにもCSVに興味を持っていただけると信じているからなんです。いきなり最初から「CSVをやりましょう」と言ってもダメ。とはいえマーケティング業界は競争が激しいので、クライアントが少し手詰まり感を持った時には、実験的にCSVについて考えてもらえることがある。その時が僕らなりの相対的ではなくて、絶対的な価値を発揮するタイミング。

太田:僕も、どんな提案にも、実現したい未来のイメージをデザインやコピーに必ず含めるように心がけています。もちろん100%の想いを込められる案件もあれば、10%しか込められない案件もあります。でも、込めること自体を諦めてしまったら、何のためにクリエイティブを学んでいるのかわからなくなるので。

高野:そうですよね。僕たちも社員にはコンペでは受注できなくてもいいから「うちは運用とCSVを大事にしている会社だぞ」と言ってこいと伝えていて。相手からすると「おいおい、全然違う提案をもってきたな」と思われるだろうけど、目立つから心には残るんです。

太田:それは正しい戦略ですね!

高野:受注できたらもっとラッキーなんだけどね(笑)。


■発電所を建てるのも、コインランドリーを作るのもクリエイティブ


太田:僕たちは今ピンポイントでクリエイティブが必要な案件に入らせてもらうことが多くて、もちろんクオリティには自信を持っている。でも社会をクリエイティブの力で良い方向に変えるためには、Steve* inc.は100人、200人という大きな組織にしていかないといけないとひしひしと感じています。

高野:規模はたしかに重要ですよね。メンバーズの社員も今年は新卒が480人くらい入ってきて、2200人ほどになりました。

太田:そんなに! すごいですね!

高野:ありがとうございます。我々は業界のなかでどれだけ存在感を出せるかに重きを置いているので、2030年までに1万人の社員数の規模にはしたいんです。

太田:なるほど。僕もAppleとかGoogleとか、かっこいい概念や理念を掲げながらも規模を拡大している会社に憧れるんです。Steve* inc.ももっと広い範囲に向けてクリエイティブを浸透させていきたい。というのも、デザインといえばMacの画面の中でおしゃれなロゴをつくるようなイメージがまだまだステレオタイプ。でもメンバーズさんのように発電所を建てたり、僕らが関わらせていただいたプロジェクトで言えば、新しい概念のコインランドリーを作ったり、日本酒の魅力を多くの方へ伝えることもデザインだと思っていて。

高野:おっしゃる通りですね。

太田:なのでメンバーズさんも、「もっと、ちゃんと伝えたい」と思ったらいつでも我々を呼んでください。以前僕が高野さんに「大学でゲストとして講義してもらえますか?」とメッセージを送った時、10秒も立たないうちに「やります!」って返信をくれたじゃないですか。あれ、本当に嬉しかった。僕も高野さんやメンバーズさんからのお願いであれば10秒で即答しますので、いつでもお待ちしています。

高野:ははは(笑)。とても嬉しいお言葉をありがとうございます。こちらこそ、これからもよろしくお願いします!


今回登場したお酒「陸奥八仙 ヌーボー 特別純米 おりがらみ 生原酒」

Steve*inc.

Steve* Magazine by Steve* inc.


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