【しらふ日記】 なぜ飲まないのか?
「今日は飲まない」
こう言うと、同席者からかならず「どうして?」と訊かれる。
私が禁酒をする最大の理由は、
「酒を飲むと生産性が下がるから」
これに尽きる。
いまの仕事は翻訳者。頭脳労働が95%の職業だ。脳はいちばんの仕事道具であり、命綱でもある。そんな脳が二日酔いで使えなくなると・・・・・・待っているのは職業的な死。つまり、禁酒は私にとって命をかけた戦いなのだ。
そう説明すると、「二日酔いになるまで飲まなければいいじゃん」と言われる。そう。その通り。もしそれが可能なら。
ご存知のとおり、アルコールはドラッグである。脳に化学的な作用をもたらす薬物である。しかも非常に依存性が高い。(酒がドラッグであることに違和感を覚える人は、アレン・カーの『禁酒セラピー』を読もう。)覚醒剤の使用に関しては「節度を守っていれば大丈夫」とは絶対に思わないのに、お酒になると「適量なら身体に良い」とまで言う人もいる。そんなわけはない。近年、アルコールが少量でも脳に悪影響であることが明らかになっている。以下のCNNの記事によると、飲酒に「安全な」レベルなどなく、少量のアルコールでも脳が萎縮するというのだ。
私の「灰色の脳細胞」が小さくなってしまうなんて! ただでさえまだまだ修行が必要な身なのに(というか、翻訳を続けるかぎり一生修行だ)、一時の快楽のために大切な仕事のパートナーを犠牲にするわけにはいかない。実際、翻訳学校に通って自分の訳文を添削してもらっていたとき、禁酒期に仕上げた訳文は先生からの良いフィードバックがついていたが、飲酒期のものはイマイチだった。
常々、翻訳は最初の「切り出し」が肝心だと思っている。いちばん最初の、横書きの英語を縦書きの日本語に「よっこらしょ」と起こす段階だ。ここで原文に適した訳文が思いつくかがいちばん重要なのだが、脳にアルコールの影響が残っているともうダメだ。そして最初がダメなら、後でどれだけ頭が冴えていても直しようがない。
これが禁酒をする最大の理由だ。脳のため。ちなみに、脳活については脳活について訳書がありますので興味のある方は是非!
そしてさらに、禁酒することは脳だけでなく、私の生活全般につながっている。一時期、話題になったデュヒッグの『習慣の力』。
人間の行動はほとんどが「習慣」によるものだと科学的に言われている。この本のなかで何よりも気になったのが「キーストーン・ハビット(要となる習慣)」というものが存在するということだ。ひとつの「要となる習慣」が、ほかのすべての生活要素(仕事、食事、遊び、生活、消費、コミュニケーションなどあらゆるもの)に影響を及ぼし、ほかのパターンを取り除いたり、つくり替えたりすることができるという。私の場合、禁酒がキーストーン・ハビットとなっている。禁酒をしていると食生活が整い、よく眠れ、仕事もはかどり、娘の世話も丁寧にできる。逆に酒を飲んでいる期間は、ジャンクフードを食べたくなり、睡眠は細切れ、仕事ははかどらず、家事も育児もいやになる。
禁酒が私のキーストーン・ハビットとなり、QOLをあげてくれる。
仕事だけでなく、生活全般の生産性を高めてくれる。
これが私の飲まない理由だ。