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standのこれまで-04|伝えたい「産地生地の魅力」を軸にしたブランドづくり

ボタニカルダイをはじめとする、日本の生地産地の持つ技術。その技術の多くが、商品実績がないために既存のアパレルブランドに採用されることはなく、日の目を見られない現状があります。そんな中、「実績がないなら自分たちで作ろう」と、浅草橋のアパレルのOEM企業リブルスが立ち上げたアパレルブランドが、「stand」です。

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今回は、日本産地の生地の魅力を伝えたいという思いを形にするため、デザイン視点からstandを形作っていった、stand元デザイナーの仙石さんにお話を伺いました。

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ー stand立ち上げからデザイナーとして服作りをされていた仙石さん。立ち上げにはどんな思いがありましたか?

OEM企業としてメーカーと製造の間に入る仕事をしてきたリブルス。日本産地の生地の魅力をメーカーに伝えても、コストや納期の問題、実績がないことを理由に選んでもらうことの難しい中、「待ってるだけではなく、自分たちで形にしよう」と、はじめたのがstandでした。「工場や生地産地のこと」「産地生地の魅力を知ってもらうこと」に重点をおいたブランドづくりです。

実はその頃私は、新卒で入社して3年いたリブルスを一度やめて、海外に渡ったりしていました。ですが、「良い生地をもっと使ってもらいたい」という共通の想いがあったので、自社ブランドを立ち上げる話を聞き、最初は契約社員という形で参加することにしました。

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学校で服飾を学び、会社でOEMの服をデザインしながらも「いつかブランドをつくりたい」という気持ちは常に持っていたのですが、まさか自社ブランドとしてできるとは思っていませんでした。

ー 産地や生産者を思って立ち上げられたstand。他のアパレルブランドと違う点、こだわりはどこにあるのでしょうか?

普通は「作りたいデザインが先にあり、生地や技術を選ぶ」という順番ですが、「生産側が使いたい生地や技術が先にあり、それを服にする」という視点が、他のブランドと異なるところです。

多くの人は服を買う時に、「ブランド名」「見た目」「値段」しか見ないのが普通ですよね。でも、産地のことを知れば、ものを買うときの視点が変わるかもしれないと思ったのです。

同じ「綿100%」でも、どの産地で作られたものかによって、その生地の風合いは全く異なります。しかし、どんなに良い生地でも、多くの人の手を経た先の店頭の販売員さんでは中々伝えられない。そこで、自分たちで作り、自分たちで売ることで、産地生地の魅力を伝え、お客様の声も直に聞いて商品作りをしていこうと。

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パッと見で目に見えるデザインの、その後ろにあるストーリーを面白いと思ってくれる人に届くようなブランドにしたいという思いがありました。

ー 産地の魅力を伝えるためのブランド「stand」は、どんな方がターゲットですか?

一番はやはり、ものが作られる背景やストーリーに興味を持って、面白いと思ってくれる方ですね。それでいて、ストイック過ぎない視点でものを選べる方。

例えば「食」で言えば、「絶対国産」「完全無農薬」「100%オーガニック」じゃなきゃダメというストイックな方もいるかと思いますが、standのスタンスはもう少しリラックスした基準を持っていて。基本的に日本産地の生地や技術を使いながら、メンテナンスのしやすさで中国に発注する場面もあったりと、その都度最良の選択をしてきました。

「東京で会社で働いていて、環境への配慮・興味はあるけれど、自分の限られたエネルギーや時間をうまく使って商品を探したい。」そんなライフスタイルの方には、高額すぎたり、ストイックすぎたりして続けられない商品では意味がない。追求しすぎると、着る楽しさも置き去りになってしまいます。

1着5万円、10万円と高額では届く人が限られてしまうし、忙しい方はメンテナンスも難しくなってしまう。大量生産よりはちょっと高いけど、ガチガチには縛らずに届く距離で。大量生産品をちょっと使ってすぐ捨てるのではなく、生産背景やこだわりを知って長く楽しんでもらえる人たちに届けたいなと。

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年齢設定は30歳以上で、生産背景や環境配慮などのマインドを持った女性に幅広く焦点を当てていましたが、実際に購入いただいていた方達はの年齢層は高めでした。百貨店では50~60歳の方をメインに70歳代の方も。全体では40~50歳がメイン層でした。

色々なものを買って失敗も経験して、「流行りを追うのではなく長く使えるものを」という世代の方達に購入いただくことが多かったですね。

ー 「standらしさ」のために、デザイナー目線でどんなことを大切にしていましたか?

伝えたい生地の魅力が先にあったので、これはNGというのは特に決めずに色々とチャレンジしていました。

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ブランドの軸である「ボタニカルダイ」は、ほんの数%の化学染料も使いますが、100%草木染めとは違う鮮やかさが魅力の生地です。それを活かすため、使いたい色を軸にテーマを決めていきました。例えば、「土を感じる色」として、ゴボウやサンザシなどの草木で染めた商品を展開したりも。

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また、縫製やシルエットなどの細かな部分にはしっかりとこだわっていました。例えば、年齢が高い方だと袖や襟が開きすぎる服は好まれないので、開き具合を閉めたり。タイトに締め付けずに、着ていて無理がない、それでいて綺麗なシルエットにこだわったり。

ポップアップで出店したときなどに、直接お客さんと話してみて、それまで意識していなかった点へのご意見を頂いては、できるだけ反映させるようにしていました。

ただ、すべての人が全く不満のない服というのは存在しません。シンプルだけどstandらしさがあり、他と違う。ほんの少しだけエッジを残すような工夫を1シーズンに1、2つは入れるようなデザインをしていました。

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生地へのこだわりが一番ですが、それを活かしたデザインで「らしさ」を出すための工夫をする。襟のサイズ感、ワンピースのシルエットの細さだったり、ステッチ入れるか入れないか、ワンピース裾の三つ折りの幅をどうするか…微妙な差でも、「襟の大きさが5mm違うだけ」「糸の太さが少し違うだけ」でも印象はかなり変わってきて、それらの集積が「らしさ」になります。

使い手にとって、「どこが」とは気づかないけど、「何かいいな」と感じる違い。それは、OEM企業として多くのブランドのものづくりに関わってきたからこその知恵の集積でもあり、リブルスの財産です。これから服作りをはじめる方にも役立つ知恵だと思います。

自分も服を着る時、こだわりを感じると嬉しい気持ちになりますよね。「今日は青い服を着よう」と思うのか。「今日はあじさい染めの服を着よう」と思うのか。自分にしか分からない小さなこだわりが、暮らしのちょっとした豊かさになると思っています。

ー デザインや製造をする上では、どんな困難がありましたか?

生産の上では、「少ないロット数」であることが毎回ぶち当たる壁でした。生地作りでも縫製でも、「これはサンプル?」と言われてしまうような少ない数量なのを承知で依頼することもありました。納期に余裕をみてお願いして、大きな仕事の合間に縫ってもらうことで対応してもらいました。

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特に、standのメイン商品である「ボタニカルダイ」は、standの生産の都合上、釜ごとにいくらという計算です。生地を染める大きな釜に、染める生地の重さで金額が決まります。なので、毎回アイテムごとにグラムを測り、同じ染料でスカート、ワンピース、チュニックなどを一緒に染めます。

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「予算が少ないからできない」ではなく、できる方法を模索してものづくりをしていました。これは、これから小さく服作りをはじめたい人にもおすすめな方法だと思います。 

ー 今後アパレル業界がどうなっていって欲しいですか?

いま、大量生産の大規模ブランドと、作り手が1から10までを担う小規模ブランドとの2極化が進んでいます。

もちろん、どちらもあっていいと思うし、どちらも着る人がいて良いと思います。インナーは手頃なものを毎年買い変えて、上に着るものは良いものを…というライフスタイルとか。

そんな中で、小さな規模でも良いものを作っている人たちの声が、より届くようになったらと思っています。産地や、細かなデザインへのこだわりは、気にしない人も多いけど気づいて喜んで買ってくれる人、ファンになってくれる人がいる。

コロナで打撃を受けている飲食業界の人たちも、立地条件だけではなく、ファンと繋がっている人たちは応援されているし、私もなるべく応援する人たちから買いたいと思っています。小規模ブランドの中には、大手ブランドと比べてしまえば完璧じゃない点は色々とあるけれど、そのブランドを頑張って支える本人を含めて、まるごと応援したいという気持ちを持つ使い手がいる。そんな人と作り手がもっと繋がっていけるようになればと思います。


取材|小泉優奈

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