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「なんか思ってたのと違う…」狙ったゲームを作るって、難しい!|PM座談会 note vol.5

皆さんこんにちは!ゲーム業界でプロジェクトマネージャー(通称:PM)として働いている内川です。
前回まではソーシャルゲームにおいて運営がどのようにプレイヤーの反応を掴むかに焦点を当てた記事をリリースしました。今回はゲーム開発における「すりあわせ」について書いていこうと思います。

▼前回の記事はコチラから

開発における”すり合わせ”

ゲーム開発とその他一般の人に向けたサービスの開発、これらの開発の差を聞かれたらなんて答えるでしょうか?
一般の人に向けたサービスは、web、BtoBのシステム、行政のシステムなど数多くありますが、ゲームの開発はこれから作ろうとしているものがはっきりとしていない傾向が強いという点が大きな違いです。

他のIT系のプロジェクトでは「最終的にこういうプロダクトに仕上げる」というビジョンの下で開発していきますが、ゲームは中々そうもいきません。ディレクターやプランナーが作成した仕様通りに制作すれば終わり…というケースは少なく、いざ触ってみたら「面白くない」「遊びにくい」などと言ったことはよくあると思います。

作り手といえども、あらかじめゲームから生じるあらゆる遊びの状態を見越すことはできないからだ。自分たちが作っているゲームから生じるはずの経験を、完全に予想しきるのは無理な相談だ。ゲームは、デザインで狙ったことを達成できているだろうか。プレイヤーたちは、何をすることになるか理解できるだろうか。プレイヤーは、楽しんでいるだろうか。もっと遊びたいと思うだろうか。設計書を書いたり、ゲームのルールや道具を作ったりしてみたところで、こうした疑問に答えが出るはずもない。答えを知りたければ、とにかく遊んでみるしかないのだ。

ケイティ・サレン;エリック・ジマーマン.ルールズ・オブ・プレイ -ゲームデザインの基礎 《ユニット1/4 核となる概念》:1(pp.41-42).NewGamesOrder,LLC..Kindle版.

ゲームデザインの書籍、『ルールズ・オブ・プレイ』でも、”ゲームを作ることにおいて、元々作りたかった遊びを仕様どおりに作れば満たされるというのはかなりレアで、その判断のためには遊んでみるしかない”と書かれています。これはゲームにおいて、「意図したものを作ることは難しい...まず触ってみなければわからない...」という前提になります。

しかし、そこで「とりあえず作って触ってみよう!」と雑にするのは危険です。
ちゃんと仕様の段階でこれから作りたいものをちゃんとすりあわせる必要があるのを忘れてはいけません。擦り合わせないとそもそも作ることに苦労が発生しますし、きちんと行うだけで開発の手戻りの回数を減らしたり、意図したものを作れる確率を高めることができます。

すりあわせについてゲームデザインの側から書きましたが、それだけではなく一般的なお仕事に必要な連絡、スケジュール、広報などでもすりあわせは重要です。
例えばゲームのα版を完成させる条件に「仮素材を使用してはいけない」という取り決めがあったのにも関わらず、その情報を知らなかったメンバーが仮素材を使用してしまっていたり、開発中でリリースする範囲に入るかどうかわからないゲームの機能について、広報がプレイヤーに周知してしまってプロジェクトに制約が生まれたり……(開発が完了するかわからない機能を発表してしまったら、作り切るしかなくなるやつです)

ゲーム固有の問題というよりもあらゆる業務ですりあわせは重要になってきます。
ただ今回は一般的なお話ではなくゲームの部分についての話だけを取り扱います。この点を解決するためのわかりやすい方法を一つ取り上げます。

参考にするゲームを用意しよう!

狙ったゲーム作りをする上で、まずは参考にすべきゲームを用意するのが一番よいと考えています。
例えば急に「さぁゲームを考えてください!」と言われると何から考えればいいのかわからないですよね?ですが、これに「マリオをもとにしたゲームを作ってください」と言われると、ほら、作りたいものが一気にイメージしやすくなりませんか?

実際のゲーム開発でも他のゲームを参考にするということは多く行われている...というか参考にしたものがないゲームは存在しないと言っても過言じゃありません。
例えば『マジック・ザ・ギャザリング』をベースにデジタルのカードゲームにうまく落とし込んだ『ハースストーン』、そして『ハースストーン』を参考に自社が持っているリソースを日本向けにうまく落とし込んだ『Shadowverse』等、たたきがあるとより作るべき遊びが見えやすくなります。

ゲームを選定する上で大切なこと

では参考にするゲームは何を選ぶといいでしょうか?さっきの例はシンプルすぎるものを挙げましたが、実際のところはここまで似ているケースは少ないかと思います。

選定する上で気を付けるべきポイントとして、ゲームを語るときにありがちな「演出がいい」とか「ストーリーがいい」といった粒度で選んでしまわないことです。この粒度で選定してしまうと、肝心なゲームの体験の部分にまで行き着くことができず、ただ雰囲気だけ似せたゲームを作ろうとすることになってしまいます。

冒頭に書いたようにゲームというのは実際に触れてみて初めて把握できる体験があるはずなので、「これから作るゲームでどんな体験を提供したいのか、その体験が得られるゲームは何が近いのか」を整理した上で選んでいくことが大切ですし、自ら触り、”実体験に落とし込む”ことも同じぐらい大切です。

ひとつ自分が実際に見たことのある取り組み例を挙げます。
昔、自分がいたチームでは『パズル&ドラゴンズ(以下:パズドラ)』を参考にとあるゲームを作っていて、その面白さを「運営からリリースされるとんでもなく難しいステージを、どうやって突破していくか、コミュニティで楽しみながら考えられる点」だと考えていました。

それが本当なのかどうか、実際に「魔王の城」という序盤の壁となるダンジョンを攻略するところまでメンバーの義務とし、ここまで遊ぶことで感じたものを、メンバー間にある程度の共通体験として持たせていました。

現在ではソーシャルゲームのセオリーはだいたい固まってきており、遊ばずとも”楽しい体験とは何なのか”が理解できるようになってきていますが、当時はスマートフォンのソーシャルゲームで成功したものが少なく、このようにちゃんと遊ばないと新しい体験を理解するのは難しかったんです。
今では公式のゲーム配信があったり、ユーザーが自分の手持ちのキャラクターでステージを突破できるように攻略サイトを自社で作っているケースもあります。(余談ですが、ソーシャルゲームにおいて企業運営の攻略サイトは切っても切れない関係にあり、体験の一部に繋がっています。)

一方で、気をつけなければならないこともあります。それは参考にしたゲームに引っ張られすぎて目的を見失いがちになることです。
実際にあった話として、シリアスな世界観を持つゲームを参考にして、かわいいポップなゲームを作っていくとします。ゲームシステムはほぼ同じで、かわいくてポップなコンセプト観に合わせるため、レベルデザインはかなり簡単にする...というゲームを作っていくという時に、参考にしたゲームに引っ張られて想定より難しくなりすぎたということがありました。
なので、どんなに参考にしていても、寄せたいところ、寄せたくないところの分別はどうしてもつける過程が大切です。

また、このやり方は開発工数の削減にも繋がります。細部の仕様を詰めていくときに、企画段階で仕様の漏れが起こるケースはどうしてもあるので、その時に参考にできるゲームがあるだけで対応を選びやすくなります。
これらのことから、参考にするゲームをプロジェクト内で設定しておくことはメリットがとても大きいと考えます。

最後に

今回はすりあわせについて書きました。ゲームを意図通り作るために参考になるゲームを用意し、そのゲームの体験を理解するまで触り続けようという提案です。
ゲームを生で触るという行動だけでは、何か成果がでるというものではないですが、今後の開発においてとても効率よくなるための土台にもなってくるので、ぜひ試してみてください!

▼過去のPM座談会noteはコチラ