2カ月で会員数1.5倍、チョコレートを新しくするMinimalが推進するDX改革の実例。
2カ月で会員数1.5倍、チョコレートを新しくするMinimalが推進するDX改革の実例。
チョコレートを新しくする—。Minimalが掲げるこのミッションには2つの意味がある。1つ目がこれまでの常識を覆す、カカオ豆という素材を最大限に活かした、嗜好品のように楽しめる毎日を少しだけ豊かにするおいしいチョコレートをつくること。そして2つ目が、チョコレートの生産背景にある社会的課題を解決すること。そのために必要なのは顧客や生産者とサステナブルな関係性を築くことだ。その道のりについてMinimalでCOOを務める緒方恵 (おがたけい) さんとECを担当する兒嶋仁視 (こじまひとみ) さんに詳しく話を伺った。
“引き算”でつくるBean to Barのチョコレート
—Minimalというブランドのはじまりについて教えてください。
きっかけは、代表の山下と現在Minimalでエンジニアリングディレクターを務めている朝日との出会いです。もともと朝日はバリスタとしてコーヒースタンドをやっていて、山下がそこの常連客でした。ある日、朝日がカカオ豆と砂糖だけでチョコレートをつくってそのお店で提供していて、それを食べた山下が衝撃を受けたんです。これまでのチョコとは全くフレーバーが違うと。それが最初のきっかけでした。
豆からチョコレートまでをひとつの工房で一気通貫してつくる製法のことを“Bean to Bar”といいます。この当時、日本でBean to Barでチョコレートをつくっているところはほとんどなかった。それで、自分たちで直接カカオ豆の産地に足を運び、良質な豆の育成・発酵方法などを一緒に見出しながら手探りで進めてきました。
これまでのチョコレートって、いわゆる“足し算”のチョコレートだったんです。油を足したり、ミルクを足したり。ぼくたちがつくるチョコレートは、それとは反対の “引き算”で作るチョコレート。本当においしいカカオ豆ってワインやコーヒーと一緒で、その産地ごとの魅力がある。それを最大限引き出すことで、これまでとはまったく違うチョコレートをつくっています。その結果、世界的なチョコレートの品評会で日本ブランドとして初の最高金賞を4年連続で受賞することができました。
目指すのは三方良しの新たな産業エコシステム
—Minimalのブランドの印象として尖ってるなと感じるところがあります。その根底にあるものは何なのでしょうか。
Minimalを他のブランドと差別化するポイントは思想だと思います。その根底にあるのは、Minimalのミッションである「チョコレートを新しくする」ということ。これには2つ意味があるんです。
1つ目が上質なカカオの個性を生かしたおいしいチョコレートをきっかけに、豊かな食体験をお客さまに届けること。2つ目がカカオ豆の生産者、作り手である私たち、お客さまの「三方良しのサステナブルなエコシステム」をつくること。この2つの挑戦が、Minimalの思想の根底に流れています。
—ただおいしいチョコレートを作るだけではないんですね。
おいしいカカオを仕入れるために現地に足を運ぶ中で、チョコレートの生産背景にある重大な課題に気づいてしまったんです。植民地時代の名残りとして残る搾取的な市場構造もそのひとつ。1日の平均収入が2ドル以下の農家が500万以上。児童労働は西アフリカだけでも230万人ぐらいいる。
そこで、農家にお支払いする高い原価率を組み込んだ新たなシステムでチョコレートビジネスを伸ばして、ビジネスインパクトを出せないかと思いました。そうするとカカオ農家への還元率が高いのでソーシャルインパクトも大きくなる。農家が豊かになれば、高品質なカカオの生産により注力できるようになり、さらにおいしいチョコレートをお客さまに届けることができる。このサステナブルな関係の輪を広げていきたいと考えています。
—生産者・お客さまとサステナブルな関係を築いていくことに重きを置いているんですね。
ビジネスとして成長していくことだけでなく、社会を変えていくためにも「人と繋がり続ける」ことがすごく重要だと考えています。それを繋ぐのが先ほどお話した根底にある思想。その根っこが枝葉に繋がって、接客に出たりパッケージデザインに出たり。
Minimalというブランドの人格が尖って見えるとすれば、そういうところからきているのかもしれません。
ロイヤリティプログラム開始から2カ月で会員数1.5倍に
—今年の7月に「Minimal Collective」というロイヤリティプログラムをローンチされましたよね。その後、どんな変化がありましたか。
ロイヤリティプログラムのローンチから2カ月経って、数値的には会員数がそれ以前と比べて1.5倍まで増えました。お客さまからも「こういうのを待っていた」という声もいただいております。
Collectiveとは、「共同体」という意味。つまり仲間として一緒に持続可能な社会をつくっていこうという想いを込めています。Minimalを買うことが社会に対する投票行動であるということを実感していただけるよう、会員ステージは「Impact」レベルと名付けました。
—今回のロイヤリティプログラムを実現するために、Omni Hub (提供:FeedForce) やVIP (提供:Appify) を導入されていますよね。その背景について教えてください。
それには前提が2つありました。1つ目がすでに運用しているECのカートシステムがShopifyだったこと。2つ目が、店舗には会員という概念がなかったので店舗で導入しているスマレジと連携してOMO型で分析できるようにしたいと考えていたことです。
そこで、まずはOmni Hubを導入して、店舗のスマレジとShopify上の顧客情報を連携させました。連携された顧客情報から会員ステージを計算するために、VIPを導入したという流れです。
—そもそも「オンラインとオフラインの両方で顧客分析できるようにしなければいけない」という課題感はどこから生まれたのですか。
お客さまが自分の都合にあって使い分けができる環境を提供するというのは大前提だと思っています。例えば、地方の方がデジタル上のコンテンツを見てぼくたちのファンになってくださったとしても、都内の店舗でしか買えないとなると体験しづらくなってしまう。
別の側面として、ひとつのブランドに対してオンラインやオフラインの使い分けが進んでるユーザーは、ブランド理解が深いことが多い。こういったマルチチャネルユーザーのLTVは、シングルチャネルのユーザーと比較して1.5〜2倍ぐらい高くなる傾向がありますね。なので、単に会員数を伸ばすことだけではなくて、オンラインとオフライン両方利用していただくにはどうしたらいいか、といったことも考えています。
感謝の証こそデジタルインセンティブにしない理由
—Minimal Collectiveでは、ロイヤリティプログラムのインセンティブとしてポイント付与を採用していませんよね。これはなぜなんでしょう。
ポイント付与、いわゆる値引き施策自体は、ある一定の効果はあると考えています。ただし一度それをしてしまうと、ぼくたちも値引きを手札にしてしまいがちになるんですよね。例えば、ポイントを5倍にして一時的に売上を伸ばすとか。
Minimalの至上命題は単に売上を伸ばすことではなく、お客さまやカカオ農家の人たちと一緒に「三方良しのサステナブルなエコシステム」をつくること。そこから考えると、値引きはブランドに対してノイズになるんです。
社会にいい変化を生みたいから、いいものには適正な対価を払いたいと思ってくださるお客さんに対して「値引き」というのはその社会的インパクトを減らす機構になってしまう。それを提供していくと、思想と行動に矛盾を生むことになってしまうし、お互いにとっていいことではない。
—だからこそ、インセンティブはポイントなどの値引きではないんですね。
そうですね。感謝の証であるからこそ、願わくば、感動してほしい。感動して欲しいと思うと、それはデジタルインセンティブでやってはいけない/やれないのではと思ってます。根底にある思想と行動を矛盾なく結びつけていくからこそ、お客さまやカカオ農家の方との繋がりも強固なものになっていく。サステナブルなエコシステムは、その持続的な人との繋がりの上にしかつくれないんじゃないかと考えています。そのためには「如何に多くの感動をお客様に対して提供できるか」に全て紐付けなければならないなと。