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おネコさまのお世話をさせていただきます

「月1回でも、平日毎日でも大丈夫です。特に決まりはありません。身分証を持って、平日の朝9から10時のあいだにとりあえず来てください」

ボランティア募集をしていた猫カフェにメールを送ったら、こう返事がきた。

動物に関わる活動をしたい。かといって、アルバイトとして出勤すると、本業に集中できなくなるのも困る。だったら、自由がきくボランティアがいいのではないか。お金は入らないけど、外のコミュニティーに属すれば学びがあるかもしれない。

気になっていた猫カフェのHPをみると「ボランティア募集中」の記事をみつけた。問い合わせのメールをしたのは、記事をみた2日後。新しい環境に飛び込む不安はあったが「これはチャンスだ」という天の声に背中を押されて、おネコさまの世界へ一歩踏みだした。

メールを送るとき、心臓の鼓動が早くなっているのがわかった。応募しようと決断するのにも、2日かかった。猫カフェにいく前日の夜は、布団の中で明日のことを思い浮かべて、いつもより寝つくのに時間がかかった。

寝付けなかったのは多分、新しい職場に行くような気分だったから。

社会のコミュニティーに参加するのは、メイドの格好をしたトレーナーが筋トレを教える「メイドジム(パーソナルジム)」の研修以来なので、3年ぶり。在宅仕事なので、誰かに会うのは月1〜2回。ましてや誰かと一緒に仕事をするのは、3年ぶりどころではない。大学1年生のときの、アルバイト以来ではないだろうか。

このアルバイトは、上司の人格に問題がありストレスが多かったのと、精神的なバランスを崩してしまい逃げるようにやめてしまった。今でも、社会のコミュニティーに対して、悪い印象が残ったまま。

なじめるか、人間関係は悪くないか。新人にはあえて何も教えずに、茫然と立ち尽くしている姿をみて、笑われるのではないか。起きもしない不安を思い浮かべて、外はさらに闇が濃くなっていく。



いつもなら二度寝してしまうところ、今日はそうはいかない。

スマホのアラームをとめて、コーヒーを飲んで、朝の習慣をこなす。印象を悪くしたくないから、スカートのシワもアイロンでのばす。髪が顔にかかると不衛生。「やる気」を示すためにも、髪をひとつにまとめる。服にリセッシュはしない。猫に悪いかもしれないから。

いざ、猫カフェへ。不安は現実にはならなかった。

「はい、OKです」

猫カフェの店長に身分証をみせると、コピーもとらずに合格。そのまま仕事の説明へ。覚えられる自信がなかったので、メモをとりながら話を聞いていると、驚かれた。そうか、これはボランティアなのか。

ご年配のボランティアさんとペアになって、仕事を教えてもらうことになった。やり方を教えてもらいながら、質問をはさみながら、メモをとる。ときどき足につきまとってくる猫たちに挨拶しながら「はい、なるほど、そうなんですね、わかりました、すごいですね」という単語しか発していないのに、デリケートな内部事情を教えてくれた。

「あそこにいるのは、週5回、午前中メインにきているスタッフさん。もうひとりの若い男の子はボランティアだけど、なぜか泊まり込みで猫の世話をしているらしいの。事情はわからないけどね」

泊まりこみで、猫の世話をする若者。きっと自分探しでもしているのだろう。もしくは、家にいたくない事情でもあるのかもしれない。と考えていたら、内部事情を教えてくれたボランティアさんの名前を聞いていなかった。

「失礼ですが、お名前は?」と聞くと「私はもう歳なんだけど、それでもいいの?」と、想定外の質問がきて、急にデコピンされた心境だった。仕事を教えてくれた人の名前。年齢が関係あるのかと疑問に思いつつも「そんなの関係ありません」と笑いながら答える。すると、漢字まで丁寧に教えてくれた。



犬は飼ったことはあるが、猫はない。動物といえど、世話のやり方が違うはず。やはり、仕事は実践あるのみ。

「何か、やらせてもらえる仕事はありますか?」

スタッフに聞いた直後、盛大に「大きいほう」を出した猫がいた。

彼はチュールタイムになると、人格ならぬ「猫格」が変わる。普段は人に懐かないのに、チュールを持った人間をみかけたら、一目散に飛んでくる。

チュールをなめると思いきや、本体ごと奪っていくハンターなのだとか。しかも、砂をかけずに「大きいほう」をトイレのど真ん中に残していき、何もなかったような顔で立ち去るのだった。そこ、ちがう猫のトイレだぞ。

私の初仕事は、自動的に「猫のトイレ掃除」になった。猫が砂をかけなかった代わりに、プラスチックのシャベルのようなもので、砂をかけてお団子にする。バケツにいれ、トイレに流す。レバーは流れてから、さげる。流した後はバケツいっぱい分の水を、もう1度流す。と、メモしたのを思い出し、その通りにした。

作業をしていても、お構いなしに擦りよってくる子猫。出入り口の前で、寝転んでいる黒猫。脱走できるスキを狙っているハチワレ猫。ワフワとしっぽが長く、耳がひっくり返った茶色い猫は、ゲージの上で身体をゆっくり上下させている。

スタッフと立ち話をしていると、生後3ヶ月くらいの子猫が足元にきた。顔の大きさに見合わない瞳をきゅるりとさせて、なにかを催促するようにミャアミャアと鳴いていた。

おっと、足元にきた君は誰かな。

これから末長く、自由気ままな、おネコさまのお世話をさせていただきます。


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