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コモンビートを奇跡で終わらせないために 〜共感起業大全を書いた理由

コモンビートという団体を知っていますか?
社会人が100人集まって100日でミュージカルをするNPOです。
活動が全国に広がり、22万人の方に見に来ていただいて、20年が経ちます。

コモンビートのような団体がやりたいけれど、できるんでしょうか?

そんな質問を受けることも多いのですが、なかなかひと言で答えることも難しく、またいろいろな意味で奇跡のようだとも感じる一方で、誰でもできるとも感じています。
何もしなければ奇跡で終わってしまう…
創業者である私のひとつの役割として、この共感起業大全にその想いを込めて書きました。
本書に書かれているコモンビートの話、そもそもコモンビートを知らない方にも伝わるように、少し解説をしていきたいと思います。

「ビジネスの世界には戻らない」と誓った私を引き戻した地球一周

18歳で起業し、24歳で創業をした音楽配信ベンチャーは、たった5年でUSベンチャーに買収されます。
買収されたベンチャーの役員として日米を往復するなか、私は途上国の映像に出会います。

それを見て私は、衝撃を受けました。
「この目で確かめたい。」
私は、地球一周の旅に出ます。

世界の各地で見たものは、私の想像を遙かに超えた世界。
言葉では言い表しにくいほどの激しいコントラスト(明暗)が、「ビジネスの世界にはもう戻らない」と誓った私を、引き戻したのです。

そして始めたのが、ビジネスで社会をより良くすること。
そして、社会的な活動をビジネスのチカラで持続可能にすること。
それが、私のコモンビートへの挑戦です。

このあたりについては、本書の「はじめに」に書かれていますので、ぜひ読んでいただければと思います。

コモンビートが始まった

コモンビートは、これまでに7000人が参加、22万人が来場し見ていただき、そして今年で20年が経とうとしています。

NPOを立ち上げた頃は、仲間と想いだけはあるものの、資金は0という状態でした。
ホールを借りないと公演日が決められないなか、とりあえず日程を決めて抽選をし確保。すると、すぐに仮押さえのための請求書が届します。
練習場所の費用も合わせると、最低300万円が必要という現実に向き合います。

いろいろな人に相談をすると、NPOだからきっと助成金がある…という噂を聞き、行政を訪ねます。

NPO関連の助成金の相談をすると「元気な若者を、より元気にする?それはスポーツクラブやカルチャーセンターと同じだから、自己投資でやるもの。元気な若者に出すお金はない。」と言われ、門前払いをされます。

次に、世界の多様性や平和をテーマにしたミュージカルということで、国際関係などの窓口に行きます。すると「外国人もいないし、国内だし、日本語ですよね。国際という取り組みには入らない」と言われ、またもや門前払いをされます。

最後に、文化芸術系の窓口に行きます。すると、「プロじゃないから、芸術と呼べる対象ではない」と言われ、またもや相手にされません。

もう、ここまでくると清々しささえ感じます。(笑)
もう誰かに頼るのは諦め、採算の合う事業でいくことにしました。
私はベンチャー経営者。事業を作ったり経営をすることは得意なわけですから、そもそもそういったものをアテにする想定もなかったので、ある意味でスッキリしました。
でも、借りるアテがありませんし、これからNPOを作ろうとしている任意団体ですから、金融機関も相手にしてくれません。

そこで、出演者のひとりひとりにお願いをして、公演が成功したら返せるというもはやギャンブルのような約束でお金を借りて、300万円を集めます。

それでひとまず最初の1期の公演はなんとか無事終えます。
すると次の2期公演の場所の確保という話になります。
お金を返すと同時に、次の公演場所のためにそのまま借りる…という状態が続きます。

そうやって、2期が終わり、なんとか軌道に乗ったのです。

歌も踊りもほとんどやったことのない一般社会人が100人集まって、100日でミュージカルをして、4000人の有料公演をするなんて、誰も信じてくれませんでした。
でも、開始からほとんどの公演で、ほぼ満席で採算の合うビジネスモデルが生まれ軌道に乗ったのです。

みんなの想いと、事業の持続性の、両立をする

私のチャレンジは、ひとまず軌道に乗った状態を見て、代表を引き継ぎます。
そして、そこから更に10年が経ち、コロナ禍も乗り越え、元気で活動をし、11月11日に関西58期が満席で終えることができました。

コモンビートは、奇跡なのか?

コモンビートが時代に乗ったのか?といえば、そうでもありません。

ミュージカルが流行っていたわけでもありませんし、NPOもいまのほうがメジャーになっています。

どちらかといえば(いや、かなり)僕らは天邪鬼で、普通と言われることをあえて避け、本当に大切なことだけを追求していくような活動だったと思います。

  • 効率化ということとはほど遠く、できるだけアナログな部分を残し、ショートカットできてもわざわざ遠回りをします。

  • NPOといえば社会課題解決というイメージですが、僕らは、課題解決の根本になる部分を解決していくために、新しい価値を創造していくことへの試みをしていきます。それが多様性でへの取り組みです。

  • エンタメは事業にならないと言われるなか、エンタメの中でもかなりハードルの高そうなミュージカルを選びます。

  • しかも、大人が全員で集まり、旗からみれば遊んでいるとしか思えないような楽しそうな集団でしたから、ただのレクリエーションとも間違えられました。

私は、コモンビートのノウハウを伝える本を書きたいと、ずっとこの10年アプローチをしてきました。
でも、なかなかまだ縁がありませんが、コモンビートの活動は、現代のNPOやNGOや企業にとっても大切なことが詰まっています。

コモンビートの活動を奇跡で終わらせたくない。

僕らは何も隠すことがないし、多くの参加者がそれを身につけて社会に広げていってくれればと思っています。
今回、共感起業大全という本を書くことになったなかで、私の中ではコモンビートがあってこその共感起業であり、必ず書きたいと思っていました。

共感企業大全で、コモンビートのことが書かれているページ

3つの共感視点から、価値観の枠を広げよう / p.129

▼非日常の世界(情→美)
コモンビートの100人100日ミュージカルプログラムは、ある意味で非日常空間です。だからこそ、自分らしさを出したり、新しいことに挑戦して試すこともできるのです。そんな非日常性の中で生まれる感情が自身の感性を磨くことになるのです。

「当たり前」の脇にある物語に触れる / p.133

目の見えない人、音の聞こえない人、子どもたちのためのアクセシビリティを整備するMFAの活動を紹介しています。私たちは、18歳以上だれでも参加可能と言っていながら、そうした方々の配慮に欠けていたことに気づき、現在チャレンジをしています。

ビジネスは、価値創造 / p.262

コモンビートのことを直接紹介していませんが、コモンビートは課題解決型ではなく価値創造型、そして事業型のNPOとして活動を行ってきました。
課題解決というピンポイントな取り組みではなく、もっと長期的で広い視点で価値を創造していくことによって、結果、課題が解決できるという考え方が、事業創造期においてはとても大切です。

恩送りの設計 / p.335

100人の舞台を支えるために、100人の過去経験者(ウェルカムキャスト)が会場を支える、そんな恩送りによって公演が成り立っています。

共感が育まれる「場づくり」を実践する / p.380 ★

コモンビートが実践している場づくりの実践、そして実際にプログラムとして提供している場づくりの考え方について紹介しています。
※コモンビートが知らない同士の100人を100日間でステージで公演を行うための、最も重要な実践内容を紹介しています。

ビジョン、ミッションを整理する / p.411

コモンビートの設定例を紹介しています。

共感で、心理的安全性の高いチームをつくる / p.510 ★

2023年、心理的安全性アワードをNPOで初めて受賞したコモンビート。初対面の100人がなぜ100日でステージを演じることまで可能なのか?そこにある心理的安全性について書かれています。

共感の生まれるチームは、多様性が鍵 / p.522

コモンビートの運営は、今でいうティールやホクラシーと呼ばれるような自律分散的な組織運営を行い、ふり返れば時代を先取りしていたのだと思います。

ボスもカリスマもいらない。共感のリーダーは、サポート型 / p.545

コモンビートの創業者である私も、下の名前で呼ばれるくらい、フラットでボトムアップな組織です。上に居るというピラミッド型ではないので、みんなが主人公なのです。

サーフィンのように、波を待つ / p565

20年前の創業時から、多様性をテーマにしていましたが、なかなか理解をされにくいことも多くありました。ただ、時代はD&Iなどの言葉もうまれ、確実に変わってきています。

退任をイメージして、起業することの大切さ / p.579

コモンビートを創業したとき、私は10年で退任することを決めていました。100年続けるためには、10年で辞めることで、組織や事業として持続性を前提とした文化や体質を作ることが必要だと感じたためです。

読者限定 10章  共感で支え続けられてきた、コモンビートの20年

東日本大震災が起こり、コモンビートの活動は停止を余儀なくされました。
団体発足から最大のピンチ。コモンビートはどうやってこのピンチを切り抜けていったのか。そんなストーリーを読むことができます。

これ以外にも、多くの章でコモンビートを説明できる取り組みがありますので、今後、何かの形で伝えていきたいと思っています。

私は、コモンビートの活動を奇跡というひと言では終わらせたくなかったし、「誰かだからできた」ということにもしたくなかったのです。

みんなの想いを、社会の想いに乗せていく。
その想いに共感した人たちによって、事業が支えられる。
この共感起業は、形はどうであれ、誰でもできることです。

きっと参加した多くのキャストは、全員が自分が作ったと思っているはずです。
そんな素敵な活動って、いいじゃないですか。
私はそんなステージの影で見守っている、今後もそんな裏方でありたいと思っています。

今回の共感起業大全は、コモンビートへの恩返しの意味も大きいので、本一冊につき100円をコモンビートのMFAプロジェクトに寄付することにしています。

コモンビートの活動が、もっと社会のスタンダードになって、もっと想いと事業性の両立をすることに役立てたいと思っています。

どうか、たくさんの人に、届きますように!


11/14 第10章を中心に、コモンビートについての話をオンラインで行います。ぜひお越しください!