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こんなおじさんに、僕はなりたい ~テッド・ヒューズ著「クジラがクジラになったわけ」のこと

子どもたちはある時期になると、いろんなことに「なんで?」と言いだして大人たちを閉口させますね。

本書の著者である詩人テッド・ヒューズさんも、子どもたちにこんなことを聞かれたのかもしれません。

「ねえ、おじさん、クジラはどうしてクジラなの?」

さあ、これは困った! しかしそこは詩人の矜持もあることです。ヒューズおじさんはにやりと笑って言ったのでしょう。

「それはね、むかしむかし、神さまのところにちっちゃな野菜畑があってね……」

本書にはフクロウ、クジラ、キツネ、北極グマ、ハイエナ、カメ、ミツバチ、ネコ、ロバ、ウサギ、ゾウの11種類の動物のなぜなぜばなしが収められています。

僕のお気に入りは北極グマの話とカメの話。

北極グマが北極グマになった話。

動物たちがはじめた美男・美女コンテスト。いつも一番になるのはきまって真っ白な毛皮が美しい北極グマでした。

北極グマはそのことをとても自慢に思っていました。そこに現れたのが一羽のハヤブサ。彼は北極グマさえいなければ、自分が一番になれると思っていたのです。

そこでハヤブサは北極グマに言います。「とっても清潔で、あなたよりもっと白い国があるのを知っていますよ。岩はすきとおったガラス、地面はこおったアイスクリームなんです……」

そこで北極グマはクジラの背中に乗って、その自分にふさわしい真っ白で清潔な国へと向かいます。

さてさて、北極グマがいなくなったあと、美男・美女コンテストで一番になったのは?

カメがカメになった話

神様は動物をつくるとき、粘土で型をとって、太陽のかまどで焼くのです。

ある日神様はいつものように、そうやって一匹の動物をつくりました。その名はオーバ。

ところが神様、かまどで焼くのを失敗してしまいます。

普段なら動物たちはできあがった後に皮をかぶせてもらいますが、オーバはまだ熱いうちに取り上げられてしまったので、皮をかぶせてもらうのを待たずに池の中に飛び込んでしまいます。

ところがこのオーバ、皮がないから誰よりも身軽なので、かけっこをするといつでも一番なのでした。

けれどもほかの動物たちはオーバが皮がないものだから、彼のことを無視し始めます。

そこでオーバは神様に皮をつくってくれるように頼むのです。だけど、いつでも脱いで速く走れるように、いつでも脱げる皮を頼んだのでした。

そして出来上がった皮をかぶると、なぜだかゆっくりと動くことしかできません。

それでもいいやと、オーバはかけっこ大会に出場するのですが……。

子どもの「なんで?」と大人の「なんで?」


この物語はとても翻訳がうまいのです。原文ではどうなっていたのか、とても気になります。

「なんで?」というのは子どもだけではなく、大人になっても思うことです。

でも、子どもの「なんで?」と大人の「なんで?」はどこか違う気がします。

「クジラはなんでクジラなの?」と聞かれて、「それはね……」とダーウィンの進化論の話を始めても、子どもたちはきっと「ふーん」とつまらなそうな顔をしてどこかへ行ってしまうことでしょう。

大人は「なんで?」と人に尋ねるとき、答えを求めているものですが、子どもたちの求めているのは、もしかしたら答えではなく、物語なのかもしれません。

子どもたちに「なんで?」と尋ねられた時。

そんな時「それはね……」としたり顔ででたらめを教えるような、そんな困ったおじさんに、僕はなりたい。  

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