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(既刊)「Teen“edge”」試し読み&文フリ東京37について

※本記事内の文章・画像の転載はご遠慮ください。ご協力ありがとうございます。

早いもので文学フリマ東京37まであと一週間……。
私は新刊入稿に安堵し、残業戦士と化し、無配ペーパーどころかお品書きの準備すら上げられてません。うへえ。


公式で発表されていましたが、来年の文フリ東京、遂にビッグサイト開催になるんですね。おめでとうございます!
徒然は実は10年前の文フリが初参加だったのですが、あの時は第二展示場だけでした。いつの間にか大きくなっちゃって泣
今年は久しぶりに第二展示場なのでちょっと嬉しい。当時10代の徒然よ、見てるか~? 凱旋だあ!

そして入場無料は文フリ東京37で終了とのことです。正直そろそろ来るなとは思っていましたが(運営Xを見ていると、ね)、有料化によって来場者の属性も変わるのかなと思うと、私のような弱小サークルはどうやったら目を止めていただけるか、お手に取っていただけるかますます考慮せざるを得ないな……と思うところであります。うーん……。

ともあれ初のビッグサイト開催をお祝いしたいので、来年も申し込むつもりでおります!抽選通るといいなあ。

お品書き作成すら終わっておりませんが……、昨年の文学フリマ東京35で頒布した既刊のご案内です。
BOOTH通販も実施しておりますが、残部がありますので今度の文フリにも持っていきます!

いや、これ面白いよ?

「痛くて、青くて、甘酸っぱい」がテーマの青春小説です。
Lisaさんの描いてくださった表紙がいつも最高なんですが本当に最高で、イメージ通りで!!! まさに作品世界を体現する表紙イラスト!
ぜひお手に取っていただけますと嬉しいです! 

【既刊】「Teen"edge"」(ティーンエッジ)

B6判/52p/400円 2022年11月10日発行

あらすじ


「鋭利な言葉に精一杯の冷たさを込めて。これが俺の温情」
女の子に食べられそうになっている男の子のお話です。でも、恋愛小説ではありません。やるせないティーンエイジを生きる二人を見届けてください。


何となく惰性で日々を過ごしてきた真生(まお)もとうとう中学三年生。面倒くさいが自分の未来について考えなければならない年齢になってしまった。
成績向上のために仕方なく入った図書委員会で、同じく図書委員になった萌々見(ももみ)から、クラスメイトのある『秘密』を暴露される。
「私自身は自分のことを真面目だと思ってたけど…… 、先生に言われたことをなぞってるだけでそう言えるのかな」
秘密を真生に打ち明けた萌々見のねらいとは? そして、二人が新たな『秘密』を共有した時、真生が選ぶ言葉とは。
――真面目に生きるって、何?



表紙イラスト Lisa様(@illust_san430)

試し読み



今か今かと終学活が終わるのを待つ教室。すでにリュックを背負っている者、机の下で部活用ソックスに履き替えている者。本当に様々だ。みんな行く場所があるんだな。俺はと言うと――
明日の事務連絡が終わり、担任の山内が最終確認あああのために教室を見回した。
「何か連絡事項がある人。……お」
山内の妙な仕草に反応したクラスメイト達が一斉にその視線の先を追う。三十対の瞳から放たれる視線の圧はやっぱりこたえる。あがり症ではないと思っているけど、こうしてクラスメイト達の前で発言するなんて自発的には絶対やらないから変に緊張する。
「図書委員の上原です。来週から朝読書週間が始まります。学級文庫も用意していますが、各自読みたい本を忘れずに持ってきてください」
一応用意していたカンペを見ずに言えた。恐らくいろんなことを忘れていた山内が、「漫画は禁止だからな」と補足した。「参考書はだめですかー?」となどという声が聞こえてきて反吐が出そうになった。朝読書の時間、たかが十分だぞ。まだ一学期も前半なのにそこまでマジになる?
とりあえずこれで俺の今日は無事終了。帰ったら昨日のゲームの続きをしよう。そんな時、山内が独り言のようにぽつりとつぶやいた。
「そういえば今は上原が図書委員だったな」
「……そうですよ」
不快感というより焦りだった。俺は咄嗟に視線を左斜め四十五度に移す。昨年まで図書委員だった田中拓は、終学活はBGMにすぎないといった様子で鞄に荷物を詰め込んでいる。そりゃそうだよな、お前はもう無関係だからな。でも、せめて聞いてるテイは取ってくれないか。あー、本当誰のために話しているんだか。誰の為でもないか。そんなこと良いから早く終わってくれとしか思わないよな、俺もだし。舌打ちがこぼれそうになった時、教室の後方から誰かが立ち上がる音がした。
窓際の前から四番目の席に、教室中の注目が集まった。開け放した窓から吹き込む風が女子生徒の髪を揺らした。顔にまとわりついた髪を右手で払い、注がれる視線を瞬きで軽くいなす。女子生徒は微笑みを浮かべ、国語の音読に指名された時のように流ちょうな語りを披露した。
「同じく図書委員の近本です。読む本がないという人はぜひ図書室に寄ってみてください。ライトノベルや、ドラマやアニメ原作の本もいっぱいあります。よろしくお願いします」
近本が補足した途端、教室の色が明るくなったように感じた。明らかに俺が発言した時と空気の色が違う。おまけに山内までも「そうそう、市内の図書館だと予約待ちの本が学校にあったりするからな。お得だぞ!」なんて言い出した。お得って、公務員が言っていいのかよ。というか近本、そんなこと言えってこの前の委員会で言ってたか? 委員会中俺、寝てた記憶ないんだけど。頭を下げて着席しようとした近本と一瞬、目が合う。
俺に気づいた近本がふっと微笑んで、そのまま椅子に腰かけた。何だよその不敵な笑みは。馬鹿にしてるのか? 馬鹿にしているにしては嫌味のない色だったように思う。
あー、そうか。
あの隙の無い、誰にでも通用する万能な笑顔は近本の武器なんだ。あの笑みだけで教室の雰囲気を宥められるからこそ、近本が優等生である証拠なのかもしれない。学級委員が嫉妬しそう。ああ、でも三年にもなれば学級委員はもうお馴染みのメンツしか立候補しないから、あえてそこに新規が乗り込むのは難しいだろう。
それならどうして図書委員なんかやっているんだろう。俺みたく、チマチマ内申点稼ぎのために委員会に入ろうなどと近本は思わないはずなのに――。
 
***

委員会活動の経験がない俺でも、理生姉が『コスパが良い=図書委員会』をセレクトした理由が少し分かった。
月に一度の全体ミーティングに加え、昼休みと放課後の図書室開室当番がクラスごとに一週間交代制で仕事が回ってくる。つまり普段はほぼ無職だ。朝礼時や学年集会のたびに引率役をさせられる学級委員などよりははるかに楽なのは確かだ。
それに放課後図書室に拘束されても、帰宅部の俺の生活にはあまり影響はなかった。そういう意味では部活動に勤しむクラスメイト達が選ばない、かつ比較的仕事が楽な図書委員はまさに俺に最適な席であったのかもしれない。まあ、これまでは田中拓がその席を独占していたのだが――。
「上原くんが委員会に入るなんて珍しいね」
同じく図書委員になった近本萌々見との初めての会話はそれだった。二年生から同じクラスだったのに、それ以前に会話した記憶がないからやっぱりこの時が初めてのはずだ。「珍しいね」に多少の引っ掛かりを覚えたが、事実なので致し方ない。
「まあ、一度はやってみてもいいかと思ってさ」
姉に言われたから、はさすがに恥ずかしすぎる。
「上原くんならサボらなそうで安心」
「俺『なら』ってなんだよ」
俺は脊髄反射の返答なのに、近本は何かを探るようにじっと見つめてきた。親近感を装って接するくせに、俺たちを数字で相対的に評価する先生のそれに似ていた。
「……なんだよ」
「上原くんは真面目だねってことだよ」
成績優秀者としていつも名前が挙がる近本に言われたくないが、お世辞の類ではないように思えた。
「それじゃあ前の奴は真面目じゃなかったってワケ?」
「うん」
「……は?」
即座に回答が返ってきて、戸惑う。もっとまともな返しや訊きたいことが色々あるはずなのに、それらはすべて近本の澄んだ虹彩に吸い込まれていく。
「うん、そうだよ」
近本はあくまで真顔を崩さない。
「前の人たちは真面目じゃなかった」
そこで初めて近本がほんのりと笑みを浮かべた。顔周りの後れ毛がさらりと揺れて、真っ黒な瞳に光が灯る。
「だから上原くんの活躍に乞うご期待。 ……期待しているよ?」
期待しているよって、何だよ。いかにも上に立つ奴が好きそうな台詞だ。確かに近本の方が成績はかなり上なのは事実だが、バカにするんじゃねぇって怒るべきだった。けれど、三番目として生まれてきた俺にとって、「期待している」という言葉がうっかり響いてしまったのだ。
「よろしくね。上原くん」
近本の笑みによって言いたかった言葉はどこかへ消え去り、次の瞬間には呆気なくうなずいている俺がいた。

******

「いただきます」
「いただきます」
米を牛乳で流し込みながら近本の弁当を覗き込む。白と紺の二段式の弁当箱に色とりどりのおかずが詰め込まれている。見た目だけなら給食よりもはるかに栄養価が高そうだ。
「弁当うまそう」
「そう?」
近本のブロッコリーを運ぶフォークがぴたりと止まる。食事を中断させるような話でもなかったので戸惑う。
「母さんが作ってんの?」
「うん」
「毎日?」
近本が怪訝な顔で俺を見る。慌てて「俺の家、遠足くらいしか弁当作ってくれないからさ」と付け加えると、「あぁ」と納得がいったように溜息をついた。
「ママは専業主婦だから暇なんだよ。ただの暇つぶし」
ママは暇。母さんは仕事で家を空けることの多い我が家で言ったら最後、即人権が無くなる。
「うらやましいよね」
問いかけなのか独り言なのか判断できない俺は、黙って味噌汁を啜った。味噌の大豆の滓が喉に引っ掛かってむせそうになる。
教室で班員と向かい合わせで食べている時もあまり会話しないほうだが、二人きりの無言の食事はさすがに厳しいものがある。味がしなくなる前にとりあえず会話のボールを投げてみる。
「部活は?」
近本はトウモロコシのついたミートボールを口に運び、ゆっくりと咀嚼してから答えた。
「今は入ってない」
「何やってた?」
「演劇部」
意外な回答に思わず近本を凝視してしまった。俺の反応は予想済みだといった風に、目尻を緩めて用意されていた笑みを浮かべてみせた。
「イメージないでしょ? 私もそう思う。だから二年生になったタイミングで辞めちゃった」
「一年が入って来るからか」
近本は大きくうなずいた。
「そう。お互いに一番ダメージが少ないでしょ」
時期も何も、演劇をやるのに一人欠けるのは相当苦しいだろと思ったが、黙っていた。
「今は習い事しているの。週一のピアノと、あとは塾かな」
習い事のピアノと塾が並列か。姉に命じられて強制的に通わされている俺には絶対にない発想だ。
「あ、ピアノやってること山内先生には言わないでね。合唱祭の伴奏、絶対やりたくないんだ」
「別に言わねぇよ」
「ありがとう、助かる」
何となく近本が演劇部を辞めた理由がわかったような気がした。頭の良さだけで優等生だと決めつけるのは浅はかだったかもしれない――あれ? 優等生って、イコール真面目か?
『やっぱり真面目だね、上原くんは』
近本のあの言葉と鮭の骨が喉に引っ掛かる。厄介な痛みに顔をしかめ、急いで残りの米を掻っ込み牛乳を流し込んで落ち着ける。
「あのさ、」
最後に残っていたイチゴをフォークに刺したまま、近本がこちらを見る。近本の唇に飲み込まれていく、イチゴの尖り。
「サボってる奴に恨みでもあんの?」
イチゴを咀嚼しながら近本は首を傾げる。甘酸っぱい匂いが図書準備室に広がっていく。
「俺のこと、サボらなそうで安心とか言ったじゃん」
合点がいったのか、とぼけていた振りをしていた近本の喉元が大きく動く。俺は尖ったイチゴの先端が嚙み砕かれて、近本の細い喉を通っていくのを想像した。
再び口を開けた近本は、俺の期待とは裏腹にあくまで平然と答えた。
「恨み……ではないけど、腹立たない?」
「腹立つって、……」
それはそうなのだが、どちらかというと俺は腹を立たせる側なのですぐには返事が出てこない。曖昧な反応に近本は薄い笑みを浮かべる。
「本来上原くんとわたしはここにいるはずなかった」



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