小匙の書室221 上半期のベスト10
早いもので年が明けてから半年か過ぎてしまいました。
いろいろ、ありましたね。いろいろと。
あれやこれやと語れば、ただひたすら無駄口を叩くかの如く記事を長く伸ばしすぎるだけなので、早速本題へ移ります。
記事のタイトルの通り、
上半期のベスト10
の発表です!!
……とはいえ、順位付けをするわけではありません。
あくまでも、「あ〜、良い作品を読んだけどとりわけこれが良かったんだよなあ〜」という感覚でチョイスしておりますので、温かな目で見ていただけると嬉しいです。
さて、参りましょう。
私の上半期のベスト10はこれだ!!
受験生は謎解きに向かない/ホリー・ジャクソン
『このミステリーがすごい! 2022年版』海外編 /〈週刊文春〉2021ミステリーベスト10 海外部門/『2022本格ミステリ・ベスト10』海外篇で上位ランクインした『自由研究には向かない殺人』の前日譚。
これをまずは言わせてください。
前日譚として最高で完璧な仕上がりなのだと。
三部作を読了した後ならば、ピップがどんな気持ちで『自由研究には〜』に挑んだのか理解を深めることができる。し、本作から三部作を読むならば、登場キャラたちが三部作を経てどのような成長を遂げるのか期待する素地ができるようになる。
いわゆるマーダーミステリにピップたちが興じるわけですが、短いページの中にミステリの面白さがふんだんに詰め込まれています。
本作を読了直後、上半期のベストに入ることを確信したのをはっきり覚えています。
旅する練習/乗代雄介
ミステリ作家の潮谷験先生(『スイッチ 悪意の実験』『時空犯』『ミノタウロス現象』など)が「一人称小説の傑作」と評しており、これは読んでみねばと思い手に取った作品。
その評価に間違いはありませんでした。
主人公で小説家の叔父が、我孫子から鹿島アントラーズの本拠地をサッカー少女と共に目指すロードノベル。叔父が紡ぐ文章は“豊か”であり、私は「彼らはどんなルートを辿って行ったのだろう」とマップアプリと照らしわせながら読んでいました。
ちょっぴり難しい比喩表現はあったけれど、読了直後、叔父の気持ちに寄り添って作品全体を振り返ったとき、私の瞳は自然と潤んでいました。
これは、何度でも噛み締めて味わう作品なのです。
リカバリー・カバヒコ/青山美智子
本屋大賞にノミネートされたこともあり、また以前から(噂で耳にしていた)青山先生の描く優しさに触れてみたいと思い手に取りました。
団地の公園にある、カバの遊具。自分の治したいところを撫でると、回復するという都市伝説があった。
収録話のどれもに容易く癒すことのできぬ傷を抱えた主人公がいて、そこで吐露される悩みはきっとたくさんの共感を生み出すのだろう、結果として多くの読者の琴線に触れることになるのだろう、と思いました。
私が一番好きなのは『紗羽の口』です。もうこの一篇だけでも読んで欲しい。それだけ心を動かされたし、いたく感動したのです。
辛いときに帰ってこられるような小説って、ほんと大事。
方舟を燃やす/角田光代
こちらは偶然Xのタイムラインで目撃し、『信じることの意味を問う』の宣伝に惹かれて購入(SNSをやっていると、こうした出逢いが転がっているのでやめられないですよね)。角田光代先生は本作が初読み。
第一部と『信じているもの』を抱えた二人の男女の人生が描かれており、「どちらの日常があなたにとって普通の感覚か」を問われているような気分になりました。そして第二部に移って二人の人生が交錯し始めると、いよいよ『信じること』の本質へと迫っていくようになるのです。
何かを信じていなければ生きていく土台がぐらつく。それが昔に比べ可視化された現代、一度『信じる』に目を向けてみるのはどうだろうか?
『信じる』の象徴ともいえる方舟を燃やし尽くしたとき、そこには何が残るのでしょうね。
三体Ⅱ 黒暗森林/劉慈欣
三体Ⅰは読了していたものの、どことなく難しさを感じていた私。ただ、「Ⅱ以降からすごく面白くなる」という言葉が脳に張り付いて離れなかったのです。「ならばいつかⅡに着手しよう!」と決めていた折に文庫化のお知らせが。
で、いざ読み始めれば、三体文明に打ち勝つために人類が立てた面壁計画をめぐる攻防がめちゃくちゃ面白くて面白くて。「SFってこんなに面白いんだ!」と膝を叩いたものです。
下巻に入ってからはSF作品ならではの描写や人の営みに惹きつけられて、宇宙戦争のスペクタクルに手に汗握って、あっという間に読了していました。
ここからどうⅢへ繋がるのだろうか、と楽しみなのです。
グリフィスの傷/千早茜
これは『傷』をめぐる10の短編が収録された一冊。一篇ごとの頁数は20弱であるにも関わらず、物理的概念的に展開される『傷』の向き合い方がグサグサと胸に刺さりました。
人はなぜ傷を負うのだろう? その傷は、その人をどのように変えてしまうのだろう?
人生、傷無しでは生きられないからこそ、それを癒すためにも著者の手を介して生まれる共感が肌に沁み入る。
とりわけ表題作が良かった。
また紙質が傷の癒えた皮膚のように滑らかで、自然と優しい手付きで触れるようになります。ぜひお買い求めは紙書籍で!
鼓動/葉真中顕
山本周五郎賞にノミネートされたのをきっかけに手に取ったわけですが、軽い気持ちで購入した当時の私を叩きたくなるほどに素晴らしいミステリでした。まさか社会派ミステリであんなにも心を動かされるとは!!
公園でホームレス女性の焼死体が見つかるところから物語は始まり、捜査と並行して綴られるのが、被疑者である男の半生。
そこにはいわゆる『8050問題』が横たわっており、「これは私の将来なのではないか」という不安が頭の片隅で蹲るようになった。
引きこもりとなってしまった男の人生。平成産まれの私と比べ価値観の相違はあるけれど、本質までは変わらない。だから余計に、怖くなった。
物語は親子の目線で事実が並べ立てられていき、やがて与えられる人生の絶望への答えに、図らずも私の中にあった「自分が小説を読み続けている理由」の一部が消化されたのでした。
これは大傑作です。
月光ゲーム Yの悲劇’88/有栖川有栖
ロジックがとにかく美しい、という噂を耳にしていながらなかなか読む機会を設けられずにいた、〈江神シリーズ〉の第1作目かつ著者のデビュー長編。
綺麗なロジックを楽しみにしてミステリを読んでいる私にとって、本作は最高の言葉に尽きる一冊でした。
キャンプ場で開かれるモラトリアム。噴火によるクローズド・サークルと連続殺人、そしてダイイングメッセージ。
それらの謎と、著者の、読みやすく憧憬がくっきりと浮かび上がる文章に引き連れられて一気読みでした。
ミステリは、推理クイズではない。根底には、罪を犯さなければならなかった人間の生々しい感情がある。
ようやく手に取ることができたのも相まって、読後の余韻も一入。(次巻の『孤島パズル』も良かったけれど、やはり記念すべき第1作目をベストに入れました)
希望の糸/東野圭吾
加賀シリーズ第11作目。
それまで加賀の相棒を務めてきた松宮を主人公に据え、綴られるのは『家族』というテーマ。
周囲から「いい人」と評されている喫茶店の主が殺害された事件と、松宮自身の身の上が次第に解きほぐされ詳らかにされていくことで、物語は厚みを増していきます。
二つの展開のどちらにも共通していえるのが、ページを進めたくなる要素の開示が巧いということ。
果たして、親は子のために何をしてあげられるのだろうか?
今日まで生きてきて途切れずに繋がっている縁、そしてこれから生まれるかもしれない縁を、私は希望と呼びたい。
松宮が最後に口にする台詞は本作を見事に総括しており、ページを閉じ終えた後もじんわりと胸に温かな光を灯してくれていました。
宵待草夜情/連城三紀彦
ミステリのクオリティもさることながら、そもそも文章が美しすぎるという話を小耳に挟んでいた、著者の作品。果たして如何程のものかと思い最初の話を読み終えて、理解しました。
ああ、これは凄すぎると。
まずは文学的な匂いを嗜み、それから、『謎』の真実が明かされることで深まる登場人物の造詣に、私は魅了されっぱなしだった。
愛と運命に彩られた全5話。そのどれもが数十頁でありながら、構成されるドラマの質が良すぎて常に一本の映画を鑑賞し終えたような満足感があった。何を摂取すればこんな作品を編み出せるのだろう。
どれが一番かなんて選べない。そのくらい至極のひと時を過ごした読書時間でした。
いずれは『戻り川心中』も読みたいですね。
というわけでご紹介してまいりました上半期のベスト10。
これからもまだまだたくさんの小説を摂取して、充実した読書ライフを築いていけたらなと思います。
この調子が続けば、今年は180冊も目指せるのではなかろうか。
まあ無理はせず、自分らしく小説を愛しながら過ごしていきます!!
さて、下半期はどんな作品が選ばれるのでしょう。
ここまでお読みくださりありがとうございました📚
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