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小匙の書室172 ─三体II 黒暗森林 上─

 三体艦隊襲来まで、400年。
 人類の存亡を賭けた計画は、は四人の面壁者に託された──。


 〜はじまりに〜

 劉慈欣 著
 三体II 黒暗森林 上

 最大級のSFエンターテイメントとして爆発級の人気を博す〈三体〉シリーズ。今年になって第1作目がNetflixで映像化され、今でも新たに多くの人を沼へと引き寄せているシリーズです(私の意見)。
 三体シリーズは昨年第1作目を読んでいたのですが、読み終わり直後に感じたカロリー消費に恐れをなし(私は普段からあまりSFを手に取らないのです)、2巻目以降はなかなか手をつける暇がありませんでした
 だがしかし、今回文庫化するという話を聞き、また読書スランプから抜け出しつつあるとあって「よし、じゃあ本腰入れよう!」となったわけです。
 第1巻はおよそ一人の人間が考え出したとは思えない世界観に耽溺していたので、この2巻目以降、どんなふうに展開されていくのか非常に楽しみ。

 いろんな意見を見聞きする限り、ここからが本当に面白くなる……そうで。

 期待を胸にページを捲っていきました。


 〜感想のまとめ〜

 ◯三体Iは長い長いプロローグだったのかもしれない。そう思うほど、IIに至ってからの物語の面白さは爆発的でした。いやまあ、蟻の視点から始まったときはどうなるんだろうと不安だったけど、それはもう全くの杞憂。
 まずは一通り登場人物の紹介的パートが挟まれ、準備が整った段階でいよいよ本作の関心へと迫っていくのでした。

 ◯三体人に勝つために必要な面壁計画。これがまずメインのストーリーラインとなり、計画に係るメリットデメリットがもたらすドラマがとにかく面白い。人間の脳内を覗けない三体文明からのスパイ、智子《ソフォン》。故に三体人に打ち勝つためには《面壁者》を選定し、彼らの頭の中で勝利への計画を立てねばならない。
 すると一挙手一投足が「計画の一部なのでは?」という意味深長に繋がるため、必然的に孤独を強いられるわけですね。
 その中にあって羅輯の取った行動はどちらかといえば私に共感を与えてくれた。絶大な権利があるなら、そうしたくなるのもむべなるかな。
 ともかく、三体人に勝つために『どれが真実でどれが嘘なのか』不明な戦略を築くのは、まさにSFコンゲーム。
 ※そもそも羅輯が面壁者として選ばれた理由が他の三人に比べて不明瞭なだけに、先の展開が全く読めない。

 ◯三体艦隊襲来に伴って興る勝利主義と敗北主義。私はどちらに傾くか,という話は置くとして。章北海というキャラの、透徹された勝利主義に基づいた立ち振る舞いは非常に逞しくて惹かれる。いざというときに躊躇いなく進める人間というのは、尊敬します。
 彼自身、他人に心を読ませない性なので、終末決戦においてどのようにして本領を発揮するのか楽しみです。

 ◯SFではあるけれど、とても身近な出来事として受け止められる航空宇宙技術。作中で行われる研究は来る三体艦隊に対抗するための必要措置なのですが、それらが現実世界に置き換わったとき、人類と宇宙の距離はぐっと縮まるのだと夢を見せてくれます。遠大で深遠な世界の一端に内包されている神秘ないしは魔力がたまらない。

 ◯人類の計画を阻止しようとする三体協会。今はまだ小粒程度にしか存在を誇示していないけれど、これから巻を追うごとに肥大していくのでしょうか?
 彼らの間にはきな臭い雰囲気が漂っているので、戦いは人類vs異星人という構造のみにならないのだと、いまからドキドキさせられます。

 ◯展開は様々な視点人物の切り替えによって進められるのですが、その切り替えが絶妙だからなのでしょうか、変にこんがらがることなく没頭することができました。あと、登場人物表が挟んであるのも嬉しいポイント。
 はたして下巻では各人の思惑がどのように発露するのか楽しみですね。


 〜おわりに〜

 まるで映画を二本分鑑賞したかのような読後感。
 これを一人の作家の頭で考え編み出されたのかと思うと、その想像力には畏怖すら覚えます。

 三体シリーズを読み果たしたとき、ひょっとすると私は新たなSFを探し求めて書店に足を運んでいるのかもしれません。
 ゴールデンウィーク中に下巻まで読了できたら嬉しいなあ。

 ここまでお読みくださりありがとうございました📚

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