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【ToDoリスト付】はじめて正社員を雇用するときのToDo一覧

ToDoリストこちらからダウンロードできます。

(ダウンロードするとプルダウンが選択可能になりますので自社に合わせてご利用ください。)

「正社員」とは?

「はじめて正社員を雇用する」際に、労務面で発生するタスクには、どのようなものがあるでしょうか。

特にスタートアップの場合、次のようなタイミングで、正社員雇用を検討することが多い印象を受けます。

・フルタイムで働いてくれるメンバーが必要になった

・業務委託契約で稼働しているメンバーを雇用契約に切り替えたい

(資金調達の目処が立ったため、ストックオプションの発行を検討するため、会社規模(社員数)が取引の要件となっているため、…など)

上記は必ずしも正社員に限った話ではありませんが、よりイメージしやすくなるよう、今回は「はじめて正社員を雇用する」場面を想定してみます。

なお、「『正社員』の定義は何ですか?」という質問をよく受けますが、実は、法律上の定義はありません。(パートタイマー、アルバイトについても同様です。)

ただ、一般的には『(1)期間の定めがない雇用契約であり、(2)フルタイム(いわゆる1日8時間、週40時間)で働く社員』を「正社員」と扱うことが多く、ここでもその定義に沿って考えてみます。


📣上記のとおり、「正社員」という言葉は法律上の定義ではありません。そのため、下記にあげる手続きはいずれも、一定の要件を満たせば「正社員」「アルバイト」「パートタイマー」などの呼び方に限らず必要となるものです。
『同一労働同一賃金』(=同一の職務内容には同一の賃金を)の観点から、雇用形態を理由とした待遇格差をなくしていくことが求められています。

各手続きの要否は、雇用形態ごとではなく、個々の要件を見て判断してください。


いろいろな整理の仕方があるかと思いますが、「誰を相手に行う手続きか」という観点からみていきましょう。


✔ 対 【社員】

まず、「雇用契約」を結ぶということは、労働基準法ほか、労働関連法令の適用を受けることになる、という点がポイントです。

例えば、業務委託から雇用に切り替えた際には、労働時間の管理が必要になること、深夜労働(22時〜5時)がある場合は深夜割増手当を計算して支払う必要があること、などといった違いが生じてきます。

ざっくり言うと、「業務委託契約」は業務の結果に対して報酬を支払う契約、「雇用契約」は業務の過程から結果まで、使用者の指揮命令の下で行わせる契約です。書類上「業務委託契約」を結んでいても、実態として雇用に近い働かせ方をしている場合は、労働基準法の適用対象となることがあります。労働基準法は「形式」ではなく「実態」で判断するためです。契約の名称だけで判断しないように気をつけましょう。

本題に戻ると、対「社員」との間で必要なタスクとしては次のようなものが挙げられます。

|雇用契約書の締結

雇用契約の内容を合意し、雇用契約書を締結します。

法律上義務付けられているのは、「労働条件の内容を書面で通知すること」ですが、実務上、「労働条件の通知」と「雇用契約の締結」を一つの書面で行うことが多いです。

雇用契約書を2通作成し、署名押印し、1通ずつ保管する、というのが一般的ですが、リモートワークや原本保管の観点から、電子署名の方法に依る会社も増えています。(効力に影響はありません)

雇用契約の内容に関しては改めて整理したいと思いますが、下記も参考になれば幸いです。

|(補足)働き方のルール決め

働き方のルールを決めていくにあたり、特に下記のような制度の導入を検討する場合、社労士などの専門家に一度ご相談された方がよいかなと思います。

(いわゆるイメージされている内容と、実際の制度内容が異なっていることが非常に多い印象を受けるためです)

・フレックスタイム制の導入
・裁量労働制の導入
・みなし残業代(固定残業代)制度の導入

|勤怠管理

前述のとおり、会社には、社員の労働時間を適正に把握する義務があります。

タイムカードやパソコンの記録など客観的なデータを元に管理することが原則とされています。

IPO審査などの場面で「適正な勤怠管理の実施」はますます重要度を増しており、また、勤怠管理の漏れは未払い残業代の発生にも直結しますので、早めの段階から会社としての管理方法を検討するのが望ましいかと思います。

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン

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また、年次有給休暇についても、発生要件や管理方法を確認しておきましょう。

年次有給休暇は、次の2点を満たした社員に発生します。

・雇入れの日から6ヶ月継続して雇われている
・全労働日の8割以上出勤している

フルタイムの社員には、6ヶ月後に10日間の年次有給休暇の取得権が発生します。(なお、フルタイムではない社員の年次有給休暇の日数は、雇用契約上の勤務日数に応じて変わります。(『比例付与』))

年次有給休暇が10日以上付与された社員に対しては、年5日以上を必ず取得させることが会社に義務付けられています。年次有給休暇については是非下記のリーフレットを一読ください。

年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説|厚生労働省

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|給与計算

後述するように、正社員は、社会保険、雇用保険、労災保険などといった保険に加入することになります。社会保険や雇用保険のうちの一部は、社員本人が負担することとなっており、本人負担分は給料から天引きします。

また、出勤簿をもとに残業代の計算(時間外手当、休日割増手当、深夜割増手当)を行う必要があります。

こうした給与計算を誰がいつ、どのように行うかも、予め決めておきましょう。

|健康診断の実施

正社員は、会社による健康診断実施義務の対象であるため、次のタイミングで健康診断を受けてもらわなければなりません。

・雇入れ時
・1年以内ごとに1回

健康診断の実施義務の対象は、「常時使用する労働者」です。下記リーフレット4ページ目にまとまっていますので、ご確認ください。

パートタイム労働者の健康診断を実施しましょう!|厚生労働省

これらの健康診断は労働安全衛生法で会社に義務付けられているものであり、費用は会社が負担することとされています。また、診断結果の保管義務があります。

一定規模の会社だと特に会社が予約した健康診断を受けてもらうことが多いように思いますが、リモートワークの増加もあって、健康診断自体は各自で予約してもらい、会社側で日時・結果を管理する、という取り扱いも増えているようです。

雇入れ時の健康診断については、入社前3ヶ月以内に実施した健康診断書の提出があれば、実施を省略することができます。


✔ 対【労働基準監督署】

管轄の労働基準監督署に対しては、次のような届出が必要になります。なお、管轄の労働基準監督署は、本店(or事業所)の住所によって決まります。

東京都の場合だと、東京労働局の下記ページなどから検索できます。

なお、下記の3つの手続きについては、正社員に限らず、アルバイトやパートタイマーを含め、一人でも社員を雇用したときに必要なものですので、適宜そのように読み替えていただけたらと思います。

|適用事業報告の提出

適用事業報告とは、はじめて社員を雇用した際に、労働基準監督署に「遅滞なく」提出する書類です。A4ヨコのシンプルな書類ですが、忘れないようにしましょう。

適用事業報告

(紙で労働基準監督署に提出する際は、2部用意しましょう。1部を会社控えとして返却してくれます。)

|労働保険の加入

社員を一人でも雇用すると、労働保険に加入する必要があります。一般的に「労働保険」と言うとき、「労災保険」と「雇用保険」を総称しています。

労働保険の加入にあたっては、下記の書類を提出します。加入が完了すると、14桁の労働保険番号が振り出されます。

・保険関係成立届
・概算保険料申告書

○保険関係成立届

保険関係成立届_20210110220138

○概算保険料申告書

概算・増加概算・確定保険料申告_20210110220040

会社の名称、所在地など基本情報のほか、労働保険を設置した年度中(年度の単位は4月1日〜翌3月31日)に支払う見込みのある給与の総額を申告します。概算で申告するものなので、実際の金額と異なっていても問題ありません。

ここで申告した保険料を、設置日から50日以内に納付します(建設業など一部業種を除きます)。

なお、設置時に概算で申告した労働保険料は、年1回(毎年6〜7月)、実際に支払った給与の総額を届け出て、確定額との差額を精算する仕組みになっています(『年度更新』)。

労災保険に関しては、個々の従業員に対して資格取得手続きは必要ありません。つまり、会社が設置の届出を行っていれば、その会社に雇用されている社員は労災保険の適用を受けることになります。

|36協定の提出

社員を1人でも雇用しており、法定労働時間(=1日8時間、週40時間)を超える時間外労働や休日勤務を命じる場合には、36協定を締結し、労働基準監督署に提出しなければなりません。

この協定は、社員の過半数を代表する者との間で締結します。この過半数代表者は、すべての労働者の中から、民主的に選ぶ必要があります。

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(2021年4月より押印が不要とされ、様式が変更になります。なお、月45時間、年360時間を超える時間外労働が発生する場合には、特別条項付きの様式を使用する必要があります。)


✔ 対【ハローワーク】 

|雇用保険の加入

正社員は、雇用保険の加入対象となるため、雇用保険の資格取得手続きが必要です。なお、雇用保険の加入要件は次の2点をいずれも満たすこととされています。

・1週間の所定労働時間が20時間以上であること
・31日以上雇用される見込みがあること

はじめて雇用保険の加入対象者を雇用した際に、「雇用保険適用事業所の設置手続」、そして、個々の正社員の「資格取得手続」を行います。

○雇用保険適用事業所設置届

雇用保険適用事業所設置届

(労働保険番号を記入する欄があります。つまり、雇用保険の設置手続は、労働基準監督署で労働保険の加入手続を行ったあとで行うことに注意しましょう。)

○雇用保険被保険者資格取得届

雇用保険被保険者資格取得届

(雇用保険の手続には本人のマイナンバーが必須です。また、11桁の雇用保険被保険者番号(前の会社を退職する際に受け取ることが多いと思います)を確認しましょう。不明な場合は、備考欄に前職の会社名を記入しましょう。)


✔ 対【年金事務所】 

|社会保険の加入

社会保険とは、健康保険と厚生年金保険の総称です。

正社員は、社会保険の加入対象となるため、社会保険の資格取得手続きが必要です。なお、社会保険の加入要件は、原則として、次のとおりです。(現在、加入対象が広がっているため、原則、という表現をしています)

・1週間の所定労働時間が30時間以上であること

社会保険の資格取得手続きについては、上記を参考にしていただけたらと思いますが、はじめて社員の方を雇用した時に説明することの多い事項を一つ挙げておきます。

▶入社日に健康保険証を渡すことはできない
社会保険の資格取得手続き(=健康保険証の発行手続き)は、入社日以降でなければ行えません。保険証が会社に届くまでに日数を要するため、入社日には健康保険証を渡すことができません。こちらは予め正社員の方に伝えておくとよいかもしれません。なお、直近で通院の予定がある場合は、年金事務所で「被保険者資格証明書」の発行手続きを取ることができます。


まとめとToDoリスト

はじめて正社員雇用をする際におさえておきたいポイントをまとめました。意外と幅広いという感想を持たれるのではないかと思います。この他にも、年1回必ず行わなければならない手続き、賞与を支払ったときの手続き、社員が病気になった際の手続き、など、さまざまな出来事が想定されます。全体像をイメージしておくことで、少しでも対応しやすくなればよいなと思います。

📣繰り返しになりますが、「正社員」という言葉は法律上の定義ではありません。『同一労働同一賃金』(=同一の職務内容には同一の賃金を)の観点から、雇用形態を理由とした待遇格差をなくしていくことが求められています。
各手続きの要否は、雇用形態ごとではなく、個々の要件を見て判断してください。

ToDoリストこちらからダウンロードできます。 はじめて正社員雇用をするにあたって、スケジュールと全体像を踏まえて対応ができるように、また、社労士の観点からだけではなく、税理士の先生とも抜け漏れなく連携できるように、という目的で作成しました。

こういったものを追記した方が良いよ!というご意見があれば是非いただけたら嬉しいです!

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